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EN~RIN  作者: 不動坊多喜
第一章

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16/66

(16)建国祭後①

 建国祭が終わった。

 

 儀式が行われたかどうかは、誰も知らなかったし、気にする人もいなかった。

 国民は皆、家にこもり、これから起こるであろう悪いことを思い描き震えていた。

 そんな中、城からお触れが出された。


「パースの男は皆、今日の正午に城の前庭に集まるように」

 朝から城の衛兵が、大声で触れて歩いてきた。何しろ小さな国だ。これで十分国民に知れ渡る。


 リシュがナッシュを見上げた。

「これからどうなるのかな」

「それを発表してくれるんだろう」

「そう言えば、ロッシュは?」

「いや。今朝はまだ見ていない」

 テーブルに朝食を並べながら、母親が言う。

「まだ寝てるんじゃないの。起こしてきてちょうだい」

 祖母がポツンとつぶやいた。

「夜中に、出かけたようじゃ」

「はぁ?」

 リシュは立ち上がると、祖母とロッシュが使っている部屋の扉を開けた。

 冷えたベッドの上には、たたまれたパジャマだけが残っていた。


 リシュは、思わず声を荒げた。

「どうして早く言ってくれなかったの」

「あんたがそんな声を出すとは、珍しいのう。心配せんでも、戻って来るじゃろう」

 ナッシュも、祖母に同意した。

「あいつの無謀さは、今に始まったことじゃないだろう」

「でも、時が時だし、きっと何かあったんだよ。この間から変だったし」

「あいつはいつも変だろう」

「そうじゃなくて、何か悩んでるみたいだったよ」

 気づかなかったのか、という目で、リシュは兄を見る。


「夜中、……」

 リシュは考え込んだ。

「まさか、建国祭?」

「建国祭って、儀式のことか? あれは、王族しか入れないだろう」

「でも、今、王族って誰? 誰が儀式を仕切るの?」

 みんな、答えに詰まった。

「ロッシュは、誰が行うのか見に行ったんじゃないかな」

「確かに、あいつならやりそうだ。てことは、今頃、泉のほとりで寝てるかも」

「それは、有り得る」

「探しに行っても正午には間に合うな」

「ボクも行くよ」

 リシュとナッシュは、二人で泉に向かった。


 泉は静かだった。

「おおい、ロッシュ」

「ローッシュー。いるかーい」

 返事はない。

「誰も居ないようだな」

「寝るとしたら、どこだろう」

 リシュは地面を観察するように歩いた。

 草が倒れている。誰かが通った後に違いない。

 導かれるように、後を辿る。

 踏み後は、大岩の前まで続き、そこで途絶えていた。


 大岩の前に立つ。門を覗き込む。手を伸ばして、門の向こうの岩に触れる。

(何もないよなぁ)

 くぐって行ったということは考えられない。

(でも、足跡はこの前で終わってる)


 後ろから、ナッシュの声がした。

「何かあるのか?」

「ううん。何もない」

(何もないから困ってる)


 ここは、本来、王族しか立ち入れない場所だ。だから、この場所についての情報は、庶民は何も持っていない。

(きっと、ここに何かあるんだ。王族しか知らない魔法が……)

 ロッシュはそこに取り込まれてしまったのかもしれない。

(なら、これ以上考えたって仕方ない。どうせ、ここに手掛かりはないだろう。あるとすれば……)

 リシュは、泉の向こうに立つ城を見つめた。



 正午前、国中のほとんどの男が城の前庭に集まった。

 全員でないのは、体の不自由な老人たちは来なかったからだ。

「それにしても大層なこった。何を発表するのか知らないが」

 ナッシュは、前庭を埋め尽くす黒い頭を見回した。背の高い彼は、黒い波から頭一つ抜けているので、後ろからでもバルコニーがよく見えた。

「こんなときだからね。みんなに一度に伝えた方が、正しく伝わると考えたんだよ、きっと」

「正しくか」

「うん。口伝えは尾ひれがつくからね。悪意がなくても、解釈に違いが出るかも知れない」

「なるほど」

 ナッシュがうなずく姿を見て、リシュはそっとため息をついた。


 正午の鐘がなった。

 広場が一瞬で静かになる。

 バルコニーに、一人の男が現れた。

「誰だ?」

「異国の服装だぞ」

 さざ波のようにざわめきが広がる。

 しかし、リシュに見えるのは、前に立つ男の背中だけだ。


「静まれ。大切な発表がある」

 声を聴いて、リシュははっとした。

(黒マントの男だ)

 それで間違いないことが、次の一言で証明された。


「ジャコモは私が殺した」

 一瞬おいて、辺りが騒然となった。

「何だって。反逆者じゃないか」

「お前、余所者だろう。戦争吹っ掛けてきたのか」

 等、等、みな、口々に騒ぎ立てる。


 バーン。


 大きな音が響いて、みなビクッと口を閉じた。

 前に立っていた男が一歩引き、空間ができた。その隙間から、バルコニーが見えた。

 男が、手にした何かを空に向けている。筒のような先からは、白い煙が立っている。


「静かに聞け。大切な話だと言っただろう」

 それから、手にした筒を前庭に向けた。

「これは、ジャコモを殺した武器だ。銃という」

「銃?」

 初めて見る武器に、静かなざわめきが起こる。

 男が民衆を睨みつける。

「しゃべった奴は、ジャコモと同じように永遠に口を閉じてもらう。いいな」

 その迫力に、皆は怯え、無言で首を振った。


「この国の王は、魔法の指輪を持っている。その指輪をはめている限り、他の人には殺すことができない。この国の伝説だ。間違いないな?」

 無言でうなずく。

「その伝説が確かなら、なぜ、ジャコモは私に殺された?」

 誰も答えない。けれど、答えは分かっていた。

「そう、お前たちも疑っていただろう。ジャコモは偽王ではないかと。

 だから、私は確かめた。

 そして、偽王だと証明できた。何か問題はあるか?」


(ない)

 リシュは心で答えた。


「ジャコモが王になって、お前たちは幸せだったか?

 税が上がり、警備兵として駆り出され、幸せになったか?

 それなのに、偽王が倒れたことを喜ばないのか?」

「確かに」

 誰かがつぶやき、慌てて口を押えた。

 男はそちらをちらっと見たが、撃つことはなかった。


「だが、お前たちは思うだろう。それでは指輪はどうなったのだ、と」


 そこで、男はバルコニーの扉に向かって合図した。

 王の近衛兵が、一人の男を縛り上げて連れてきた。

 その顔を見て、皆がまたざわついた。


「静まれ。皆も知っての通り、この男は元近衛隊長、今の大臣だ。

 さあ、大臣。お前とジャコモが何をしたか、昨日私に話してくれたことをここで白状するんだ」

「ここで、ですか」

「そうだ。自分の罪を懺悔して、皆に許しを請うんだ」

「しかし……」

「正直に話せ」

 大臣は観念したようにうなだれ、ぽつぽつ話し始めた。


気づいてくださった方もいらっしゃると思いますが、週が変わると話が変わります。今週は、リシュが主人公です。来週はロッシュに戻ります。しばらく、この二人の話が交互に進んでいきます。お付き合い、よろしくお願いします。

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