(107)復讐②
反射的に、ラシードは銃を手にしていた。
リシュに向けて引き金を引く。リシュは素早く近くの木の陰に隠れ、弾は別の木の幹に当たった。
こちらも、手近な木の後ろに身を潜める。
林の中に、リシュの声が響いた。
「いきなり撃ってくるなんて、ひどいじゃないですか」
怒鳴り返す。
「今更話すこともないだろう」
あいつが俺に恨みを抱いているのは明白だ。それだけのことを、俺はした。話し合いなど甘っちょろい考えはない。殺るか殺られるか、その二択だ。
隣でしゃがんでいるカシムに確認する。
「銃は持っているか?」
「はい」
「じゃあ、挟み撃ちにしよう」
ラシードは右に走り出た。途端に銃声がした。
左の爪先、靴に当たったが、そこに指はなかった。
そのまま走り、木陰に身を隠す。
振り返ると、カシムが左に走りながら銃を構えるのが見えた。
銃声が響いたが、弾は全く別の木立に当たった。
しかし、驚いた顔でリシュが飛び出してきた。
そこを狙う。
今度も弾は外れ、リシュは再び木の陰に隠れた。と思ったら、反対側から顔を出し、撃ってきた。右足の甲が撃ち抜かれ、痛みが全身を駆け巡る。
「ぐぁっ」
思わず声が漏れる。すぐ傍の木陰に転がり込む。腰を下ろし、大木に背を預けると息を整える。
(狙いは足か)
こちらの動きを止めるつもりに違いない。
また銃声がして、リシュが走り出した。それを追うように、また一発。
リシュが木陰に滑り込む。しかし、こちらからは丸見えだ。
そっと顔を出し、狙いを定めた。
しかし、引き金を引くと同時に別の銃声がして、右手から銃が弾き飛ばされた。
リシュの弾が銃に当たったのだ。右手はしびれているが、傷はない。
間髪おかずに銃声が響く。
「おっと」
リシュの声。ということは、今の銃声はカシムだろう。
「お二人とも、練習不足ですね」
リシュの笑い声が響く。どうやら、無傷のようだ。
(そうだ。あいつは銃が得意だった)
自分が改良したという自負があるのだろう。よく、射撃訓練をしていた。しかし、ラシードはイマイチ精度の悪い銃より、確実に仕留められる剣が好きだった。自衛のために携帯はしていたが、もっぱら脅しとして使ってきた。
(確かに、もっと訓練しておくべきだったな)
飛ばされた銃は、少し先の木の根元に転がっている。拾いに走ろうとして、右足に激痛が走り倒れ込む。かろうじて銃を手に、振り返る。
リシュがこちらを狙っている。見上げる形で、その手元を狙った。
あいつに撃てるなら、そういう気持ちがあった。しかし、弾は外れた。
撃ち返された弾は、左肩をかすった。
また銃声がして、リシュが身を隠す。カシムの五発目だ。
ふと、替えの銃弾はあるのかと、気になった。自分は受け取っていない。
身を伏せたまま、後退する。小さな藪を見つけ、その裏に回る。少し、息をつく。
(自分は撃つ機会が少なかった)
前線に立つことはあっても、それは、指揮官としてだ。実際に突入するのは、下士官だ。
彼らも、こんな風に命のやり取りをしていたのだろう。
リシュの走る姿が見えた。カシムの弾が追いかける。
逃げ切ったリシュの声が、面白おかしく響く。
「カシムさん、六発目ですね。予備はありますか? もっとも、ボクもありませんがね」
(バカにしやがって)
ムラムラと、怒りが込み上げてくる。
そして、気づく。カシムは前線に立ったことがなかったと。
サルヴァーンの帝都や島々を焼き払い、海に逃げた皇帝と海軍を追い詰め壊滅させる戦いに、彼を連れて行くことはさすがにできなかった。
実戦経験のない彼に、援護射撃は期待すべきでなかったのだ。もちろん、予備の弾薬を準備することも……。
ふと、水音に気づいた。振り返ると、水路が見えた。
水路は林の中に続いている。これを辿れば、リシュの側面に出られるはずだ。幸いなことに、この季節、水は少ない。
ラシードは水路に入り込むと、身をかがめ、歩き出した。
歩数を数え、目算と比較する。
ここだ、と決め、立ち上がる。
ドンピシャ。目の前にリシュが立っていた。
ただし、側面ではなく、正面だった。
まるで、自分がここから現れるのを知っていたように……、待っていた。
でも、どうして知ることができる?
そんなはずはないと思いながら、引き金を引く。弾は外れる。
リシュの弾が左頬を掠めた時、ふと思った。
(あいつと俺は、同じ銃を使っているのか?)




