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22. ある元老の執務室にて〜要監視対象に関する考察


「魔の森でインクが増加傾向、街への侵入も数回。外壁修繕計画は最優先ね……はい、承認、っと」

山積みの書類に埋もれるように机に向かう女性。


「……鉄の方は順調ね。繊維業は……まだまだ糸も布も足りない、か」

女性の独り言の多さには慣れたもので、部屋の隅に立つ男性は黙って聞き流している。


「それにしても、もう少し生産力が上がらないかしら。輸出用どころか、市民の衣類用すら足りなくなりそうだわ」


人手も随分増やしたのに、いまいち生産性が上がらない。これじゃ工場への投資も回収できるかどうか。


「1日きっちり8時間の自由時間。おまけに昼食までついてるのに、不平不満ばかりですって。農民なんてもっと過酷だというのに、なんてぜいたくなのかしら」


書類上の数値、数々の報告から瞬時に判断し結論する優秀な上司。

だが、現場を見ることがないため、想像力に欠けてしまうこともあるのが女性の欠点であった。


「……工場仕事は、農耕とはまた違った過酷さがあると思う」

「もう!」

今まで沈黙していた男が口を開いた。

疲れたのか書類を机に投げ出し、女性は後ろを振り向いた。


10代にも見える、うら若き元老。

彼女は眼鏡を外すと、きつく縛った髪をほどいて背中に流した。


「おじさんはお人好しすぎなの。甘やかしてもつけ上がるような人ばかりよ」

それは否定できない。

自身の経験が姪の発言を肯定してしまう。


「それより、例の間者はどうなってるの?」

「……間者の可能性がある、と言っただけだが」

「同じよ。全く、隣国は油断も隙もない」

唇を突き出し、背もたれにどかっと背を預けた姪を見て、淑女としてどうなんだと思う。

それだけ叔父との時間は息抜きなのだろうが。


「特に問題ない。むしろ機械のいくつかが改善された」

「納得いかない」

むすっとした顔で若き元老は1枚の書面をひっぱりだした。


「共通道具箱や作業道具の通し番号管理の提案、カード機の改良、自動運搬装置の開発……スパイならなんでうちに有用な技術を提供するわけ?」


普通にスパイではないからではと思うが、男は口にしない。こういう時下手に話すと逆に否定したくなる天邪鬼な姪なのだ。


「隣国のやつら、以前のように好き勝手にはさせないわ……!」


鉄の工場をこの街はどこよりも早く建設し、力を入れてきた。

ところが隣国が急激に質も技術も追い上げてきたのだ。

あまりの急成長に調べたところ、随分沢山のスパイに入りこまれていた。

技術情報の流出のみならず、現場で破壊工作までされていたのだからたまったものではない。


「同じ轍は踏まない。繊維市場はうちの独占とさせてもらうんだから!」

工作員の侵入には徹底して気をつけている。

だからこそ、叔父の報告に上がる不審人物は要監視対象なのだ。


「はっ!? 分かった! この昼寝というやつね。周囲の規律を乱して混乱をもたらすつもりだわ」

「なんたる策士」とうなる姪を見て、違うと思いつつも説明するのも面倒そうだ。


とりあえず白金髪の狩人は部屋を後にすることにした。


余談ですが、本作のダイジェスト的な短編を公開しました。

タイトルは、

『母が安産を祈願したのは、実は"安眠"の神だった件〜ラスボス討伐条件は睡眠の加護を持つ俺が勇者の隣で熟睡すること!』

本話より少し未来のお話で、この物語がどんな方向に向かうのか、ちらっと感じていただける内容になっています。


「ちょっと先が知りたいな」という方は、気軽に覗いてみてください。

※ややネタバレを含みますので、気になる方はこのまま本編をゆっくりお楽しみいただければ嬉しいです!


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