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15. 雇用契約は"1日3回昼寝付き"でお願いします

本日2話投稿してます。

よろしければ前話からお読みください。


まだ自己紹介すらしていないのに。

3番工場の責任者、副棟長のロタに不採用を告げられてしまった。


「俺……じゃなくて私は子供ではなく、一応26歳の大人です」

フミンの後ろにいたすいは、勇気を出して一歩前に出た。

ロタは全く信じてない顔だ。


「ここは立ち仕事力仕事が多い。

ずっと働き詰めで毎日16時間、週6日、お前さんにできるのか?」


衝撃のブラック勤務形態に垂は思わず言葉につまった。

改めてゆっくりと回りを見回す。


手作業で綿のようなものをひたすらにく人々。

重そうなカゴが運ばれる複雑で無駄な動線。

機械が音を立てて止まり、誰かが駆けつけている。


これではどれだけ働いても成果が出ないだろう。


「良ければ少し中を見せていただけませんか? あ……フミンさん、何か書くものってあります?」


するとフミンはどこからか布切れと鉛筆のようなものを持ってきてくれた。


「これでいいか? 廃棄になるクズ布だが」

「十分です。ありがとうございます」


垂は壁際に設置されたローラーへ近付いた。

綿の塊を糸にしていく機械のようだ。

糸作りの詳しいことは分からないが……


「たぶん、水車の回転そのまま繋いでるんだろ」

先程からしょっちゅう停止しているのを目撃していた。

不審そうに垂を見る従業員たちに断りを入れ、構造を確認する。


「ここにおもりをつけて……シャフトに簡易フライホイールを――こうすれば、急な負荷があっても、回転が安定するはず……」

ブツブツ呟きながら黒鉛で図面をひいていく。


「どうぞ」

数分もしないうちに描き上げられた図面に、ロタは驚いた顔をした。

しかしすぐに胡散臭いと言いたげに垂を足元から頭の先までジロジロ見やる。


「俺は技師じゃないから図面のことは分からんが……。

イタズラならすぐバレる。やめたほうがいいぞ?」


するとフミンが横から口を挟んだ。


「垂は時計を直せる技術力がある」

「なら時計屋で働けば良いだろう」


しばらくロタとフミンが言い合いになる。

これだけでは難しそうだ。

そこで垂は提案した。


「お試しで雇ってみませんか? 1日8時間、1日3回昼寝付きで」


ロタの顔がひきつる。


「ふざけてんのか?」


ふざけてなどいない、大真面目だ。

垂は毅然とした顔で告げた。


「給料は他の人の半分で良いです。

代わりに1日8時間で今の16時間分の仕事が出来るようにしてみせますよ」

「……できるのか?」


勝算があるのか尋ねるフミン。

何かを見極めるように金色の瞳がじっとこちらを観察していた。


やがて、なおも認めない副棟長にフミンが何か耳打ちした。

途端にロタの顔色が悪くなる。


「ああ、もう。わーったよ! 1日8時間、昼寝は3回! 周りの邪魔だけはするなよ」

ロタはお手上げだとでもいうように両手を広げ、投げやりながらも垂の就労を認めてくれた。


とりあえず今日は寮を案内するというロタだったが、フミンが断った。

垂は宿に宿泊する必要があるという。

「工場勤めは原則寮住まい」と主張するロタは物言いたげだったが。



◇◇◇

宿への帰り道。


「……工場で良かったのか?」

隣を歩くフミンが呟いた。


「宿のおばばが、このままお前を雇っても良いと言っていたぞ」

工場は過酷だろうし、正直宿屋の手伝いは楽しい。


「いつまでも甘えてちゃ駄目ですし……それに、俺、意外と上手くやれる気がするんですよ」

「昼寝を3回希望するくせにか?」

心配2割呆れ8割の声が返ってくる。


「……まあ、楽しみにしている。お前が宣言通りにできるのかをな」


16時間を8時間には盛りすぎただろうか。

フミンの言葉に垂は少し悩む。


(やるべき事は山積みで、分からないことも沢山だけど……日本でだって大変だったんだ。

なんとかやってみせるよ)


心のなかで決意を固めた垂。


見慣れた宿の屋根が見えてきた。

「フミンさん! 今から昼寝なんですけど、良かったらハンモック試してみませんか?」


まずはしっかり眠ることから!


お読みいただきありがとうございます。

以下、おまけです。


すいの履歴書】

・機械技師、技術営業(転職多数)

・遭難者(@異世界)

・ヒモ/ 居候いそうろう(卒業)

・洗濯アルバイト(継続)

・時計修理屋(失業)

・工場労働者(半人前)←NEW!!


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