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14. 工場で働こう


「いい加減ちゃんと働かなきゃ……!」


どうも、ただ飯ぐらいのすいです。

優しい女将さんが営む宿屋に泊めてもらって早一週間が経ちました。


女将はこのまま宿で働けば良いと言ってくれるが、それはいけない。


もともと女将さんと旦那さんの2人で十分回せる寂れ……失敬、のんびり過ごせるお宿である。


お手伝い程度ならまだしも、正社員は必要ないだろう。

ただでさえ部屋を貸してご飯まで出してくれているのに、これ以上甘えていられない。


それに、自分で自由にできるお金も欲しかった。

(主にパジャマや寝具やベッド作りの材料道具やらを買いたい)


「……ということで、俺を工場に連れていって欲しいんです」

なぜか工場就職に反対しているフミンに、垂はお願いした。


ここ数日、伝手を頼りに就職先を探してくれていたらしいのだが。

結局なかなか良い求人もなかったようで、最終的に折れてくれた。





そして現在、垂は街の中を歩いている。

これまであまり見て回れなかったが、今日は疲れもとれて余裕があった。

案内人としては無愛想が過ぎる狩人に、時折気になる物を質問しながら、頭の中に地図を描いていく。


垂が泊まる宿は街の北東側にあり、この辺りは宿や職人の家、店が多い。

軒先には様々な物が並ぶため、見ているだけで楽しくなった。


そこから川沿いの大通りに沿って南に向かうと、高い壁が見えてくる。

外壁に囲まれた街の、さらに中央部を丸く囲んだ壁の中は街の中枢だ。

先日訪れた役所や重要施設、貴族の住居が位置している。


大きな石橋の上を行き交う馬車や、桟橋で荷下ろしをする小さな船を眺めながら進んでいくと、商人の代わりに肉体労働に励む人の姿が増えてきた。


街の南側は専ら工場地帯だ。

四角いレンガ造りの建物からは、初日も聞こえた賑やかな音が響いてくる。


「何を作ってるんですか?」

「布だ。西側は鉄だが……あちらには不用意に近づくな」

地域最大を誇る鉄鋼所があるらしいが、なんでも人が多く集まる分、一部治安が悪いらしい。


垂たちが入ってきた南門側には魔の森が広がるため、お金に余裕がある人は北側に住居を構えるそうだ。


大通りから逸れたフミンに着いて工場区画へと入り込むと、音の正体が姿を現した。



「ザーザザッ」「カットンコットン」

川から引かれた水路を流れる水音と、規則正しい水車の音。

打ち付けられる木の音は場所によっては心地良さを与えてくれただろう。


「ぼさっとすんじゃねぇ! 遅れてるのが分かんねえのかっ」

罵声が飛び交ってさえいなければ。


怒声を上げる監督官と、色濃い疲れが漂う質素な服の労働者たちを見て、垂の体に緊張が走る。


「……やめておくか?」

フミンが思わず足を止めた垂を振り返る。


「い、いえ。大丈夫です、すみません」

正直気は進まないが取り敢えず見てみないと。

己を奮い立たせて前に進む。


やがて『3番』と書かれた建物に到着した。

ここが目的地のようだ。

扉のない入り口から中へ足を踏み入れた。

途端に、熱気と埃がまとわりつく。


狭い空間に人が詰め込まれ、機械の隙間を縫うようにして動き回っていた。


「ザー……ガコ、ガチャンッ」


壁際の水車がゆっくりと回り、太い軸を通じていくつかの装置に力を送っている。

時折不快なきしみ音をあげる装置を、そばにいる男が殴りつけるように力で回転を補いながら動かしていた。


奥へ進むと床に散った綿埃が舞い上がる。

大きな木枠の装置の横では、人々が隙間なく並んで中腰で綿を梳いていた。


(工場って聞いてたけど、これじゃほとんど手動だな……)

予想よりもはるかに原始的な工場の実態に、垂はげんなりした。


「おい手が止まってるぞ! 後がつかえてるんだ」

「ロタ」

呼びかけられて振り向いたのは中年の男性。

灰色の作業服に身を包む人々の中でただ1人、ぴっちりとした緑の服を着て指示を飛ばしている。


「フミンか、良かった。人手が足りな……後ろの小さいのは何だ?」


副棟長のロタは、品定めするように垂を眺めて悪態をついた。


「おいおい、冗談はよせ。さすがに痩せこけたガキなんざお断りだぞ?」


垂の工場就職の見通しは明るくなさそうであった……






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