12. 眠らない狩人と厄介な拾いもの
【フミン視点です】
俺は狩人だ。
物心ついた時から眠ったことがない。
そんな俺を不気味に思っていたのだろう、家族とは反りが合わず、逃げるように家を出た。
インク狩りは俺と相性の良い仕事だと思う。
常に感じている苛つきは、誰にも煩わされず、ひとりで淡々とインクを倒すことで解消されていく。
インクの煤を浴び過ぎて不眠になる狩人が多いらしいが、俺には問題ないことだ。
人に関わるのはあまり好きでない。
だが、俺にも守りたい人間の1人や2人はいるのだ。
だから、街を守るこの仕事には誇りを持っている。
街を脅かすのはインクだけではない。
外部から来る人間。
ほとんどが出稼ぎ目的だが。
中には外国からの間者や反乱分子も紛れている。
狩りの傍ら、こういった輩の発見にも協力している。
おかげで警備隊にも伝手が出来たし、色々と融通を利かせてもらえるようにもなった。
最近は危険分子の侵入は減ったように思う。
代わりに増えたのが、出稼ぎ目的の不法侵入だ。
貧しい農村から、工場の噂を聞きつけ上京してくる者たち。
高い入市税が払えず、さりとて保証人も伝手もない。
こうした奴らが城壁外周に溢れ始めた。
明らかに碌でもない奴らは通報して追い返すのだが、中には助けてやりたいと思う者たちもいた。
話を聞き、入市税を肩代わりした。
工場長に紹介し、稼ぎが貯まったら返済してもらう。
だが、俺は人というものを信じ過ぎていたようだ。
ほとんどの者が借りた金を返しに来ないのだ。
「いや、工場なら稼げるって聞いたけどよ。こんなにしんどいなら村の方がましだったわ」
「すんません。まだ全然貯まってなくて」
「別に頼んでないのに、あんたが勝手に貸したんだろ」
早々に働くことを放棄する者、適度にはぐらかす者、開き直る者。
また、一部の街の人々は、いつも煤まみれのフミンのことを蔑んだ。
「魔の森に住んでるんだろ、おっかねえ」
「呪いにかかってるって噂だぜ」
いつからか、人と話すのが苦痛になった。
呑気な無責任な笑顔に苛立ちが募った。
人混みを歩くと頭痛が酷くなった。
次第に、フミンは人間を厭うようになっていった。
そんなある日、魔の森の奥地でおかしな人間に出会った。
◇◇◇◇◇
垂という人間は、一言でまとめると「怪しい」。
狩人たちですら避ける魔の森の奥地に1人でいたこと。
見たこともない異質な服装や持ち物。
突如、高位の神官すら不可能なレベルで宝玉の魔を回復させた謎の力。
それに、所構わずすぐに寝てしまい、こんなことで生きていけるのか心配になる貧弱さのくせに、高度な知識を持っていることも判明した。
森から街へ向かう途中、時間について尋ねてくるあいつに、俺は壊れた懐中時計を見せた。
その時は珍しそうに見るだけだったが、宿屋に着いてから「道具があるなら直せるかもしれない」と言う。
試しに渡してみると、本当に直してしまったのだ。
しかも「軸のズレとバネの歪みがあったので修正した」のだそうだ。
おかげで毎日少しずつズレてきた時計が、この数日間は教会の鐘が知らせる時間通りだ。
結論、抜けているところはあるものの、真面目で誠実な性格のようだが……間者ならいくらでも偽れるだろう。
なんにしろ放っておくのは危険だ——
だからこそ、工場長に一言言って、寮に住まわせ警備隊に任せるはずだったのだが。
気付けば返済を求めることもなく入市税を肩代わりし、工場に向かうはずの足は宿屋へと向かっていた。
工場のど真ん中でふざけた空色の異国の服で爆睡している姿が浮かんだせいかもしれない。
あいつに工場は無理だろう。
一旦考えをまとめるべく、とりあえず宿屋のおばばに任せたが……
なぜこんなに気に掛けてやるのか、自分でも分からない。
そうだな、あれほど間抜けで非力なくせに高度な知識に謎の魔、これらが知れ渡れば厄介な奴らが垂を狙うかもしれない。
そうだ、あいつの正体を見極めるまで、より慎重に監視する必要がある。
こう俺は自分を納得させた。
しばらくして、
——垂の考えた寝床が人気でね、おかげで宿が繁盛してるわ
——あんたが連れてきた子、時計修理で評判らしいよ
——おい、あのちびっ子、利子つけてお前に金返そうとしてたぞ?
——ちょっと、大変よ! 垂ちゃんが時計職人連合から目をつけられて連れてかれちゃったの!!
次々と起こるハプニングに、さっそく監視が面倒になった。
「全くもって意味不明なやつだ……」
手で額を覆ったフミンは、自身の口角が上がっていることに気付いていない。
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本話で異世界転移編が終了です。
次から「働き方改革編」はじまります。




