プロローグ
世界を救った四英傑が死に、100年が経った。
かつてこの世界を闇で覆った魔王ヴァルゼキア。
四英傑が命を賭して討ち果たしたその魔王が、現代に再び甦ろうとしていた。
3年後に完全復活するという予言を受けたアルディナ王国国王はその脅威に対抗するため、かつて四英傑が使用した「宝具」の後継者を探す事を決断した。
聖剣「フォルティザーク」
神速の銃「アストラリオン」
変幻自在の籠手「フレキスヴェイル」
無限の杖「オメガルネシス」
四つの宝具の後継者となる者を見つけるために、世界中の子供たちを集め「継承戦」を行うというのだ。
「選ばれし者」を決める試練。
そしてーー俺はその戦いの場へ送り出されることになった。
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「お前には自由をやろう」
ある日、俺の主である男は、そんな言葉を口にした。
「ありがたき幸せございます」
やっと好きな事が出来る。奴隷の俺がそう一瞬でも期待したのがバカだった。
「『継承戦』に参加してこい。アルディナ王国から各国に対し召集があった」
…は?
「『継承戦』とは何のことでしょうか」
「アルディナ王国に伝わる4つの宝具。その継承者を決める戦いを執り行うそうだ。各国から子供たちを出さなくてはならない。死と隣り合わせの戦いだろうな。まあ、お前は数合わせだ。行ってこい。」
死と隣り合わせの戦いに、奴隷の俺を送り込む…?
「……つまり、それは私に継承者になれなかったら死ねということでしょうか?」
俺の言葉に、主は乾いた笑みで吐き捨てるように言う。
「その通り。相変わらず奴隷の分際で物分りがいいな。いつか寝首を掻かれそうで本当に気味が悪い」
主は顎に手を当て、明暗を思いついた様に言う。
「だが……継承戦に送り込むとは我ながら名案だったな。お前は継承戦の中で死んでもよし。また、負けて帰ってきても邪魔だから処刑。どちらでも私には得しかない。あとそうだな……どちらで死んでも夢を求めた華麗なる死という事にしてやる。そういう話、一部の阿呆共が喜びそうだろ」
ふざけんな。死ぬの確定みたいに言いやがって。お前のイメージを上げるためのパフォーマンスに俺を使うな。
「もちろん、運良く奇跡的に勝ち上がれば主である私のお手柄だ。これほど名誉な事はなかろう」
ふざけんな。んなの納得できるわけないだろ。
俺は、ベルナート公国という小国で、奴隷として生まれた。
ベルナート公国は、アルディナ王国の庇護下にある辺境の国で、貴族や商人たちが栄華を極める一方で、奴隷のような最下層の人間は虐げられ続けている。
俺もその一人。名も与えられぬまま、働かされる日々を送っていた。
奴隷の身分は過酷だ。
食事は粗末で、待遇は家畜以下。
使い物にならないと判断されれば、即座に売られるか捨てられる。
抜け出したくても抜けられない。武器もない、こんな子供の身体じゃ脱出する前に捕まってしまう。
数年前に、1度脱出しようとした時には両手足の骨を折られた。
18歳で成人し肉体が完成するまで脱出は無理だと悟り、期を伺っていたが、とうとう俺はーー捨てられることになった。
「わかったならボーッとしておらずさっさと行け。せいぜい、そこで英雄にでもなってみせろ。あ、勝ち残ったらちゃ〜んと私にもその恩恵を授けるのだぞ」
そう言って主は高笑いする。
「……ハハハ。分かったらさっさと出発してこい」
「かしこまりました。武器などは……」
主は食い気味で答える。
「そんなもの死ぬ予定の奴に渡す必要があるか? 私の機嫌を完全に損ねる前にさっさと出ていけ」
「かしこまりました」
「あとわかってるかと思うが、逃げてもムダだぞ。お前ら奴隷には呪いがかかってる。場所はいつでもバレるんだ」
奴隷として生き、挙句の果てには捨てられる。
最悪の人生だって?
そんなことは無い。俺にとって今までの事は苦労の内に入らない。人生は長いんだ。この奴隷の経験が活きる事もあるかもしれない。
それに、今回の継承戦は俺にとって願ってもない出来事だ。
なんでかって?―――俺は100年前、四英傑の筆頭『レオンハルト・グレイバーン』だったのだから。
奴隷として生きていたある日、雷に打たれたかのように記憶を取り戻した。
俺には前世でやり残したことがある。
魔王ヴァルゼギアとその配下たちの完全抹殺。
その悲願を叶えるためには、宝具が必要だ。
肉体や魔力はまだまだだが、俺には歴戦の英雄としてのノウハウがある。
継承戦を勝ち残り、前世からの因縁に終止符を打ってやる。
俺は自分の手を握りしめる。
せっかく手に入れた2度目の人生。存分に暴れさせてもらおう。
かくして、俺は継承戦の場へと旅立つことになったーー。