9話
最悪だ……。なんでこんなところにいるんだよ。
よりにもよって、凛華と一緒にいる時に出会ってしまうなんて……。
彼女は俺の手元を見て、それから少し離れた場所で別の商品を見ている凛華を確認すると表情を歪めた。
「へぇ……和也がまさか白崎さんと一緒に買い物してるなんて」
「お、お前には関係ないだろ……」
早くここから立ち去ってほしい一心で、俺は冷たく突き放す。
「ねえ和也?あんた、まさか白崎さんと付き合ってるとか言わないよね?」
「違うって! そんなわけないだろ」
慌てて否定するが、美咲はニヤリと笑い、俺を見下すように言い放った。
「ふふっ……。ま、そうよね。あんたみたいな陰キャな男子が、白崎さんと釣り合うわけないし」
その言葉が胸に突き刺さる。
何か言い返したかった。でも、声が出なかった。
「じゃ、私急いでるから」
それだけ言うと、美咲は急いで立ち去っていった。
くそ……なんなんだよ。アイツ……。
ただ、俺の事を馬鹿にしたかっただけじゃないか……。
何も言い返せなかった自分が悔しい……。
「和也君、大丈夫……?」
心配そうな表情で、凛華は俺の顔を覗き込む。
「……ごめん。なんか、変なところ見せて」
「謝らないで。悪いのは和也君じゃないから」
励ましてくれる凛華の声は優しかった。彼女のその一言に、少しだけ救われた気がした。
なんでこんなに、凛華の言葉って胸に響くんだろう。
「ていうか、何、あの性悪女……私が何も言わないからって、和也君の事好き放題言っちゃってぇ……。次会ったら覚えときなさいよ……」
相当俺が好き勝手言われて、悔しかったのか、かなり恨みがこもっているように聞こえた。
俺のためにここまで悔しがってくれるのは嬉しいけど……。ちょっと怖いな。
美咲視点
スーパーの出口を出た私は、ふと視線の端で和也と白崎さんが並んで歩いていくのを目にした。
和也が手に持った買い物袋を気にしながら歩き、隣で白崎さんが静かに何かを話している。まるで普通の高校生カップルみたいなその光景に、私は思わず足を止めた。
意味がわからない。いや、わかりたくもない。
ついさっき、スーパーの中で2人が買い物している姿を見たときの驚きと違和感が、また頭の中でざわざわと渦を巻く。
和也は確かに優しいし、私のこともずっと気にかけてくれていた。でも、結局はそれだけ。控えめで刺激がなくて、そばにいると息が詰まるような……そんな感じだった。だから、もっと輝いている橘くんに惹かれた。
橘くんとの生活は、とても楽しい。人目を引く彼の隣にいると、私も特別な存在になれた気がする。彼の自信に満ちた態度と、みんなからの人気。あのキラキラした世界に和也にはない魅力を感じたのは、仕方のないことだと思う。
それなのにどうして、白崎さんはあんな地味で冴えない和也と一緒にいるの? あの完璧な人が、わざわざ彼と?
「……罰ゲームとか、からかいとかじゃないの?」
独り言のようにそう呟いてみる。そうよ、白崎さんみたいな完璧な人が和也に本気になるなんてあり得ない。きっと、何かの冗談か遊びよ。
和也なんて、結局あの地味な性格のままだし、どうせすぐに飽きるに決まってる。私だってそうだったんだから。
そう自分に言い聞かせると、少しだけ安心した気分になる。むしろ優越感すら湧いてきた。和也なんか、私を選んでくれた橘くんには到底及ばない。凛華だって、そのうち気づくはず。和也が彼女には釣り合わないって。
「……そうだ。後で橘くんにでも教えてあげよう」
そうすれば、なんだかスッキリする気がする。橘くんなら「は? 和也が?」って笑い飛ばしてくれるだろう。
私は軽く髪を整えてから、橘くんの待つ場所に向かった。彼の笑顔を思い浮かべながら、和也と凛華が歩いていく後ろ姿を、もう振り返らないようにして。
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