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7話

橘視点 


 正直、頭にきていた。


 教室を出たあと、俺、橘翔太は廊下を歩きながらさっきの出来事を何度も反芻していた。どうしてあんな風に言い返されなきゃいけないんだ?


 宮原と一緒に食べたいと思ったからです、だと?


 白崎凛華、通称おひいさま。いつも通り、完璧に上品で冷静な態度だった。けれど、その言葉の裏に明確な警告があったのは、俺にだってわかる。


「ご自身のためにも」とか……言いやがって!まるで俺の行動が間違っているみたいな言い方じゃないか!


 俺は学食での光景を思い返す。テーブルに座ってコンビニのパンを齧る宮原と、その真正面に座っていたおひいさま。自然に話している彼らの姿は、周囲の目を完全に引きつけていた。


 あの場にいた生徒のほとんどが驚いていたし、俺だって目を疑った。


 「何なんだよ、あいつ……」


 吐き捨てるように言いながら、俺は窓際に立ち止まる。ガラス越しに見えるのは、まだ学食に残っている宮原とおひいさまの姿だった。


 宮原和也、地味な陰キャな奴だって印象だった。美咲と付き合ってたってのも、正直意外だったくらいだし、それを俺が手に入れたときも、別に罪悪感なんてこれっぽっちもなかった。


 なのに、あの宮原が、おひいさまと一緒に飯を食ってる?


 「有り得ねぇだろ……。なんで、あんな奴がおひいさまと……」


 廊下に俺の声が少し響く。それだけ、腹の奥底で燻る苛立ちが大きかった。


 けれど、その苛立ちの正体が何なのか、俺は分かっている。


 俺は、一度、白崎凛華に告白したことがある。


 それは、ほんの1年前のことだ。学年全員の憧れである彼女に、勢いだけで思いを伝えた。自分でも笑えるくらい馬鹿な行動だった。結果は、あっさり振られた。


「申し訳ありません。そのような気持ちにはお応えできません」


 凛とした表情で告げられた言葉。それでも、あのときの彼女の瞳には、ほんの少しだけ優しさが宿っていた。だからこそ俺は、完全に恨むこともできず、それどころか彼女に対する憧れが消えることもなかった。


 そんなおひいさまが――どうして宮原みたいな奴と?


 しかも、一緒に食べたいと思ったからとか、はっきり言い切るなんて。まるで……あいつを特別扱いしてるみたいじゃないか。


 「……何が、いいんだよ」


 俺は拳を握りしめた。クラスの中では浮いていて、大した存在感もない宮原和也。ゲームが得意だとか何とか聞いたことはあるけど、それだけでおひいさまが関心を持つような奴なのか?


 胸の奥に、妙なモヤモヤが渦巻く。


 それは、怒りか、それとも嫉妬か。


 俺は自分の教室に戻らず、人気のない階段の踊り場に向かった。そこで一人、壁にもたれかかりながら、深く息を吐き出す。


 ……ちくしょう。


 白崎凛華。たぶん、俺は今でも彼女に惹かれている。けど、あいつは俺のことをまったく気にしていない。それどころか、宮原みたいな奴を……。


 思い出したくもない、宮原と凛華が一緒に食事していた光景が、頭に焼き付いて離れない。あの優雅な笑顔で、宮原に向かって何か話している凛華の姿。


 それが、妙に……羨ましかった。


 なんで、宮原なんだよ……。

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