6話
昼休み。いつものように、学食で買ったパンをかじりながらで啓太と話をしていた。
特に内容のある話でもなく、適当な冗談やゲームの話で気を紛らわせているだけだ。昨日のこともあって、啓太には妙にからかわれたけど、それでもやっぱり気楽に話せる相手がいるのはありがたい。
「お前さ、マジで白崎さんと何もないのかよ?」
「だから何もないって……」
「でもさぁ、朝のあれはどう見ても怪しいぞ?」
啓太がにやにや笑いながら肘で俺をつついてくる。
呆れながらパンかじろうととしたその時、学食にいた生徒のざわめきが耳に入ってきた。
「和也君。お昼ご飯、ご一緒してもよろしいですか?」
その声に学食全体が一瞬、凍りついた。俺も同じだ。振り向くと、そこには凛華が立っていた。しかも、完全におひいさまモードで、優雅に微笑んでいる。
「べ……別にいいけど」
「ありがとうございます」
凛華さんは軽やかに微笑みながら、俺たちの隣に腰を下ろすと、その瞬間、学食中の視線が一気にこちらに集まるのを感じた。さっきまでの平和な昼休みが、一瞬でピリついた空気に変わる。
「……宮原。お前、すげえな」
啓太が小声で囁く。
いやいや、俺だって状況を理解しきれてないんだって。
「あ、そうだ! 用事思い出したわ! ちょっと行ってくるわ!!」
そう言いながら、啓介は足早に学食を出て行く。
アイツ……、逃げやがったな?
「西園寺君、どうしたのですか?」
「さ、さぁ?」
2人きりになった俺は、震えた声で返すと、凛華さんはにっこりと微笑み、持っていたお弁当箱を取り出して開いた。
小さな弁当箱の中には彩り豊かな料理がぎっしり詰まっていて、まるで料理雑誌から飛び出してきたようだった。
とても美味しそうだなと思いながら、パンをかじっていると、視線が俺の手元のコンビニパンと野菜ジュースに向けられる。
「宮原君、昼食はいつもこれだけですか?」
「え、あ、まあ……こんな感じだけど」
「……普段の食生活はどうされているのですか?」
心配そうな顔で問いかけられ、俺は少し考える。
いや、ここはありのまま正直答えよう……。
「えっと……カップ麺とか、コンビニ弁当とか、そんな感じかな」
それを聞いた凛華は目を丸くして、まるで信じられないというような表情を浮かべた。
「いやいや……それでは、少々栄養が偏りすぎではありませんか?」
「そ、そうかな? ……まあ、こんなもんだよ」
曖昧に答えると、凛華は小さくため息をつき、周囲をちらりと見渡すと、急に俺の方に顔を近づける。
「今日は、私が夕食を作りに行ってあげる」
先ほどまでのおひいさまモードから、休みの日に会った時のリリィモードでの喋り方で小さく囁く。
「えっ!?」
思わず声が裏返る。凛華さんが夕食を作りに来る?俺の家に?一体何を言っているんだ、この人は……!
「あの、冗談だよね?」
「冗談ではありませんよ。健康を気遣うのも、友人として当然のことです」
元のおひいさまの口調に戻して、冷静に何後もなかったかのように話す。
いやいや、男子の家に行くって宣言したのに、なんでそんな冷静でいられるの……?
俺の胸の鼓動はずっと高鳴っていた。
「へえ、これは驚いたなぁ。おひいさまが宮原なんかと一緒に昼飯食ってるとはねー」
嫌な声が耳に入る。
振り向くと、そこには橘が立っていた。俺と凛華さんを交互に見て、ニヤニヤと嫌味ったらしい笑みを浮かべている。
「どういう風の吹き回しだい? おひいさま?」
嫌味たっぷりな言葉に、俺の胸がざわつく。返す言葉も見つからずに俯いていると、凛華が立ち上がり、橘の前に立つ。
「橘君。私は宮原君とご一緒したくて、ここにいるのです」
きっぱりと言い切る凛華の声には、一切の迷いがなかった。そして彼女は、橘を真っ直ぐに見据えて続ける。
「そ、そうですか……」
「それから、人を茶化すような発言は、おやめになった方がよろしいかと」
その言葉に橘は明らかに怯んだようで、周囲の視線も相まって、何も言えなくなったのか、そそくさと学食を出ていってしまう。
「……ありがとう」
俺は小さくお礼を言った。
彼女がいなければ、きっとまた嫌な気分になっていたはずだ。でも、凛華は俺を見て優しく微笑んだ。
「礼なんて要りません。私は、ただ正しいことを言っただけです」
また凛華に救われたな……。
優しく微笑む凛華の姿が、まるで天使のように見えていた
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