31話
エレベーターのドアが閉まり、静寂が訪れる。
「……はぁ。」
深いため息が自然とこぼれた。軽く乱れた息を整えようとするが、胸の高鳴りはなかなか収まらない。あんなに感情的になるなんて、自分らしくなかった。
エレベーター内の鏡に映る自分の姿をちらりと見る。表情は平静を保っているが、頬がほんのり赤いのがわかる。
……私ったら、何やってるの。
さっきの美咲さんとのやりとりを思い出す。彼女の問いかけ、嫉妬に満ちた声色。それに対する自分の返答。
好きに決まってる、なんて……。
言葉にした瞬間、思わず顔を手で覆ってしまった。そう言った自分が恥ずかしい。でも、後悔はしていない。むしろスッキリしたくらいだ。あいつに渡すなんて考えられない。それどころか、彼女が和也君のそばにいることすら許せない。そんな自分に気づいてしまった。
エレベーターが和也君の部屋の階に到着し、ドアがゆっくりと開く。それでも足は一歩も動かない。
美咲の驚いた顔が脳裏に浮かぶ。あの表情を見たとき、胸の奥に芽生えた感情……それは独占欲だった。
「……私、本当に独占欲なんてものが湧くタイプだったんだ。」
小さく呟いて、思わず苦笑する。まさかこんなに誰かを意識する日が来るなんて。
……私、本当に変わっちゃったな。
苦笑しながらエレベーターホールを抜け、和也君の部屋へと向かう。手に持った買い物袋が妙に軽く感じた。
「和也君、入るね。」
部屋に入ると、ベッドの上に横たわる和也君の姿が目に入る。少し顔色はよくなったようだけど、まだ本調子ではなさそうだ。
「凛華……買い物ありがとうな。」
彼が微かに笑いながら言う。何でもないその一言なのに、胸がドキリと鳴る。
「気にしなくていいよ。あと、ポストにこれが入ってたよ」
私はスムーズにプリントを差し出した。もし美咲が来ていたなんて言ったら、彼はどんな顔をするだろうか……。一瞬そんなことを一瞬考えたけれど、すぐにその考えを振り払った。
「ありがとう、凛華。」
それだけで、私は十分だった。彼の何気ない感謝の言葉が、胸の奥まで響く。
「……どういたしまして。」
少しだけ目を逸らしながら、努めて平静を装う。でも、頬がほんのり熱くなっているのが自分でもわかる。
「風邪もだいぶよくなったみたいだね。晩御飯作るけど何か食べたいものはある?」
そう言いながら、和也君の顔を覗き込む。すると、彼は微かに笑いながら言った。
「うどん、食べたいな。」
「うどん?」
思わず聞き返してしまう。
「うん。なんか、そんな気分でさ。」
「……わかった。少し待っててね」
自然と微笑んでいる自分に気づく。まるで新婚みたいな会話ね、と頭の片隅で思いながらも、私はキッチンへ向かった。
鍋に水を入れて火をつける音が部屋に響く中、胸の高鳴りは収まらない。
「……本当に、もう少しで思いが爆発しそう。」
心の中で呟きながら、私は手を動かし続ける。今はまだ平常心を保たないといけない。私には、彼を守りたいという気持ちがある。それが何よりも大切なことだから。
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