23話
橘視点
教室の扉を開けた瞬間、ざわついた声が俺の耳に飛び込んできた。
いつもと変わらない日常のはずなのに、今日は違う。空気が妙にざらついて感じる。歩を進めるたびに聞こえてくるクラスメイトたちの声が、無性に気に障った。
「マジで? おひいさまと宮原がデートしてたとか?」
「いやいや、あり得なくね? あの陰キャと白崎さんだぞ?」
「白崎さん、さすがに気まぐれでもそれはないって……」
昨日、美咲とデートしていた時の光景が頭をよぎる。
凛華が和也の腕を引いて、堂々と歩いていく姿。そして俺たちを視界にも入れず、そのまま去っていった。胸の奥がチクリと痛む。
違う。あれはただの気まぐれだ。おひいさまらしい、一時的な遊びだ。
そう言い聞かせても、心は穏やかにならない。嫉妬がじわじわと広がり、口元が強張るのを感じる。
「でも、白崎さんが本気ってわけないよな」
「釣り合わねぇだろ、どう考えても」
「宮原が調子に乗ってるだけだって」
そうだ、これが普通の反応だろ。
その噂を耳にした瞬間、胸の中に燻っていた何かが少しだけ晴れた気がした。やっぱり凛華には俺みたいな目立つ男の方が似合ってる。宮原なんかと並ぶなんて、どう考えても不釣り合いだ。皆俺と同じこと思っていて良かったぜ。
席に着き、スマホを取り出す。画面には美咲からのメッセージが届いていた。
『聞いた? 和也とおひいさまの噂(笑)皆も嘲笑ってよね(笑)陰キャがあんなおひいさまとなんて、あり得ないって』
『当たり前だろ(笑)結局、あいつは笑われる運命だよ』
メッセージを見た瞬間、自然と口元が緩む。
……やっぱり、俺には味方がたくさんいる。
美咲も俺と同じ考えで、周りの反応に優越感を抱いている。宮原が誰と何をしようが、どうせ周りに冷ややかに見るだけだ。 宮原がおひいさまと一緒に歩いていたあの場面も、結局は一時の気まぐれに過ぎない。そう思うと、昨日感じた敗北感が薄れていくようだった。
凛華視点
昇降口を歩いていると、どこからともなく昨日噂話が聞こえてくる。どうやら昨日デートしていた所を見られていたみたい。
和也君の事を知らずに、めちゃくちゃ言ってくれちゃって……。
そんな事を思っていると、数人の女子生徒達が近づいてきた。
「ねぇ、白崎さん。昨日、宮原くんと一緒にいたって本当?」
「付き合ってるの?」
想定外のド直球な質問に、一瞬言葉を失いそうになったけど、すぐに笑顔を作って答えた。
「ふふっ、そんなことないですよ。ただのお友達です」
いつもの「おひいさま」としての対応だ。柔らかい声で、さりげなく話を終わらせるように笑う。相手もそれ以上は突っ込まず、「そっか」とか「良かったー」と言って納得した様子でその場を去っていった。
だが、その瞬間、胸の奥がズキリと痛んだ。本当は……本当は付き合ってるって言いたかった。和也と一緒にいることを堂々と皆に知らしめたい。それができたら、どれだけ気持ちが楽になるんだろう。でも、和也に迷惑をかけたくない……それに、あの優しい彼がこの噂を今どう思っているかもわからない。
「……でも、噂になってるのは、悪くないかも」
誰にも聞こえないように、小さく呟く。昨日、一緒にいたことで、和也の名前が私と並んで話題に上がっている。それが、どこか嬉しいと思い始めていた。彼との関係が、自分の中でどんどん特別になっていくのを感じていた。
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