21話
ソファに座り、凛華のPCに先ほど買って来たグラフィックボードを取り付ける作業を進めているが、正直集中できていない。
原因は雷鳴と、それに過剰反応して俺の腕にしがみついている凛華だ。
「うわっ、また鳴った!」
雷の音が響くたびに、凛華が俺の腕をぎゅっと掴む。しかも、そのたびに腕に何か柔らかいものが押し付けられる感触があって、正直、困る。
「凛華、作業が終わらないから……少しだけ離れてくれないか?」
できるだけ平静を装って頼むが、凛華は首を振るばかりだ。
「無理! 怖いんだから仕方ないでしょ!」
ふくれっ面でそう言われると、これ以上何も言えない。仕方なく、柔らかい感触を気にしないようにしながら、作業を続けるしかなかった。
それから30分後。ようやく取り付けが完了すると、動作確認をする。
すると、モニターにはいつも見ているデスクトップが表示された。
「ふぅ……直った……」
「直って良かったー。ありがとうね和也君」
そう言って凛華は嬉しそうに微笑む。
外を見ると、雷もようやく落ち着いたようで、雨音しか響いていなかった。
「和也君、疲れてない?」
「まあ、少しは……」
苦笑いをしながらそう答えると、凛華は真面目な顔つきで俺の顔を見つめる。
「なら、私が先にお風呂へ入ってる間に、先にベッドで休んでいいよ」
「え、いや、それはさすがに……」
遠慮がちに断ろうとすると、凛華は少し眉をひそめた。
「いいから! お礼も兼ねてるんだから、素直に言うこと聞いて?」
いつものからかい混じりの声ではなく、どこか優しさのこもった口調に、不意を突かれた気がした。
でも確かに、今から寝れば始発の時間には起きられるかも。
「じゃあ、そうさせてもらいます……」
「それでいいの。それじゃあ、おやすみ和也君」
凛華は満足そうに微笑むと、そのまま浴室へ向かう。
お風呂場へ凛華が向かって行ったのを確認すると、俺は凛華のベッドへ横になり、目を閉じた。布団からは甘い香りがしてとても心地よい。
かなり疲れていたのか、俺はすぐに夢の中へと旅立って行ったのだった。
深夜、俺は体に違和感を感じて目を覚ます。
なんだろう?何かが体にくっついてる?ぼんやりとした目でその原因を探る。すると……。
「……え、なにこれ?」
目を開けた俺の視界に飛び込んできたのは、俺の腕に絡みつく凛華の細い腕。そして、俺の胸元に埋まるように眠る彼女の顔だった。
彼女の脚が俺の腰に軽く触れていて、全身で俺を抱きしめている格好になっている。いや、格好というよりこれは完全に抱き枕状態だ。
「な、なっ……!?」
心臓が一気に跳ね上がり、驚きのあまり大きな声を漏らしてしまう。
「ん……? どうしたの?」
凛華が眠たそうに目をこすりながら、顔を上げる。その顔には、眠気とほんの少しの不安が混じっていた。
「どうしたもこうしたも……なんで俺の隣にいるの?」
「だって、また雷が鳴るかもしれないし……一人じゃ怖いから」
焦りながら俺が問うと、凛華は素直に答える。
その言葉に、俺は呆れつつも何も言えなくなってしまう。
どれだけ雷が怖いんだよ……。
「いやいや、だからって俺にしがみつくのは……!」
「だって、こうしてると安心するんだもん」
「……っ!」
その言葉に心臓が跳ねる。無邪気で無防備な凛華の態度に、俺は抵抗する気力を失ってしまう。
「……わかった。このままくっついててもいいよ」
「うん、ありがとうね」
満足そうに微笑むと、凛華は再び俺に抱きついて眠りについた。俺は結局、ほとんど眠れないまま朝を迎えることになった。
早朝、眠い目をこすりながら、そっと凛華の腕をほどく。
すると「うーん」と小さな声を漏らしながら、まだ俺を抱きしめようとしていたので、代わりに近くにあったクッションを抱かせておくと凛華は幸せそう顔をして抱きしめた。
流石おひいさまだ。寝顔も絵になるように美しいな。
ていうか、俺がおひいさまの無防備な寝顔なんて見て良いんだろうか……。
「じゃあね凛華。また学校で」
俺は小さい声でそう呟き、静かに部屋を出る。
外はまだ薄暗い。始発電車に揺られながら、自分の家に戻る道中、俺は昨夜の出来事を思い返しては、鼓動を落ち着けるのに必死だった。
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