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19話

 凛華がレジで支払いを済ませると、俺たちは店を出た。


「ちょっと用事を済ませてくるから、ここで待っててね」

「うん。わかった」


 そう言って凛華は俺に買い物袋を預けて、人混みの中へと消える。


 なんだんかんだあって、結局また凛華とデートしちゃったけど、楽しかったな……。


 そんな事を考えてる時だった。


「あれ? 宮原じゃん」


 聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには橘と美咲がいた。二人とも私服で、どう見てもデート中だ。


 くそ、なんでこいつらここにいるんだよ……。


「なんだよ、その袋。おひいさまにプレゼントでもするつもりか?」


 ニヤニヤとしながら、橘は俺の手にある女性用のアパレルショップの袋を指さす。


 確かに、俺が持っていると妙に不自然だが……。


「へー、和也もそういう事するようになったんだー」


 それに便乗して、隣にいる美咲も笑みを浮かべながら加勢してくる。


「いや、違う……」


 言い訳しようとするも、橘は耳を貸さずにさらに畳みかけてきた。


「お前がそんな店で買い物してるなんて、想像つかねぇよな。これ、絶対に学校で広めたら面白いことになるだろうな~」

「ちょっと橘、やりすぎじゃない?」

 

 美咲が口元に手を当ててクスクスと笑いながらも、橘が俺を馬鹿にしているのを楽しんでいるのが明白だ。


 「まさかおひいさまと買い物デートとか? それこそ信じられないけど、学校中で噂になるんじゃない?」


 挑発的な美咲の声が、さらに追い打ちをかける。


「いや、本当に違うんだって!」


 必死に否定する俺だが、二人はますます面白がるばかりだった。


 何も言えない事がとても悔しかった……。もういっそのこと逃げ出してやろうか……。


 そう思っていた時だった。


「和也君~、お待たせ!」


 背後から凛とした声が響く。凛華の声が聞こえた。振り返ると、凛華がこちらに向かって走ってきていた。


 突然の凛華の登場に、橘も美咲も驚いて目を見開いている。


「急いでるから行こう」


 そのまま凛華は俺の隣に立つと、当たり前のように俺の手を取った。そして自然な動作で橘たちに軽く会釈し、そそくさとその場を去ろうとする。


「えっ……ちょ、おい!」


 驚く間もなく、俺は彼女に引っ張られるまま足を動かした。橘が背後で何か言いかけている気がしたが、耳にはほとんど入ってこなかった。









 橘視点


「……くそっ」


 レストランのテーブルに座るなり、俺は思わず舌打ちを漏らした。周囲に視線を向けると、隣のテーブルの客が少し驚いたようにこちらを見ている。しまった、と思ったが、苛立ちはどうにも抑えられなかった。

 

「なんで、和也がおひいさまと一緒にデートしてるの……?」

 

 目の前でストローをいじりながら美咲はそう呟いた。その声は小さかったが、明らかに動揺が滲み出ている。さっき見た光景が、彼女の中でまだ整理できていないのだろう。


「普通に考えてあり得ないでしょ? あの和也が、おひいさまと手を繋いでるなんて」


 顔を上げた美咲が俺にそう言う。驚きと戸惑いの混じった目つきだった。


「……まぁ、そうだな」

 

 俺は曖昧に返事をしながら、コーヒーを一口飲む。でも、胸の奥がざわついて落ち着かない。


「ていうか、あの和也だよ? 地味で目立たないし、いつも自信なさげな感じの和也が……凛華さんと一緒に歩いてるなんて、どう考えても変だよ」


 ストローをカップの中でくるくると回しながら続ける。美咲の言葉には少し苛立ちも混じっているようだった。


「俺も同じこと思ってた。宮原に限ってそんなこと、絶対あり得ないってな」


 苛立ちを噛み殺しながら、美咲に賛同する。俺の胸の奥ではもやもやとした感情が渦巻く。


「あんな風に凛華さんが男子の手を引いていくとこなんて、見たことないよね?」


 美咲の声がさらに沈んだ。彼女自身も言葉にしながら、状況が理解できていないようだ。


「確かに。しかも、凛華があんな陰キャ男子と親しくしてるなんて、ちょっと信じられないぜ……」


 彼女の言う通り、俺もあのおひいさまがあんな風に男子の手を引くような人だとは思ってもみなかった。


 ましてや、その相手が宮原なのだから猶更である。

 

 こんな状況、正直頭がおかしくなりそうだ。


「本当だよね。なんで和也なの? もっと他に相応しい人がいるじゃん……」


 苛立ちを隠そうともせずに美咲が続ける。その言葉に俺は心の奥で密かに同感していた。


 本当に、なんであんな、何の取り柄もない和也なんだよ……。


 沈黙が訪れる。二人とも、それ以上言葉を重ねることができなかった。胸に残るもやもやを抱えたまま、重い空気だけがテーブルの上を漂っている。


「なんで和也なの……? なんで……」


 その問いに答えを出せないまま、俺は再び苦いコーヒーを飲み込んだのだった。

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