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16話

 約束の時間となり、俺はゲームの準備をして通話を繋げる。


「やっほー。さっきぶりだねー」


 画面越しに聞こえる凛華の声は相変わらず柔らかで心地よく、癒される。


 今日の疲れなんて吹っ飛んでしまいそうだ。


「今日はせっかくだし、ビデオ通話にしない?」

「え?ビデオ通話……?」


 なんだと……? 普段のゲーム中は音声だけなのに、なんでまた急にそんなことを。


「ダメかな?」

「別にいいけど……」

「じゃあ、映すねー」


 断る理由もなかった俺は渋々OKを出すと、通話画面が一瞬切り替わり、彼女の姿が映し出された。


「ほーい……ってうぇ!?」


 思わず目を見開いた。


 映った凛華は、学校でのおひいさまらしい清楚な姿とはまるで違っていた。ピンク色の薄い生地のネグリジェ。それが柔らかな彼女の雰囲気に妙に馴染んでいて、なんというか……直視するのがまずい感じだ。


「和也君、どうしたの?」


 凛華は、無邪気に首を傾げる。


 「……いや、なんでもない」

 

 慌てて目を逸らしつつ、冷静を装う俺。だけど、心臓の音がうるさいくらい響いていた。


 「じゃあ、和也くんもビデオにしてよ」

 「えっ、俺も……?」

 「当然でしょ? 一方的に見られるのは嫌だし」


 そう言われては断れない。


 仕方なく俺もビデオ通話に切り替えると、地味なパジャマの自分の姿が映る。今までこういう事をしたことがないので、画面に映る自分の姿が妙に落ち着かない。


「じゃあ、装備整えたら、始めるよー」

「お、おう!!」


 そんな俺をよそにイベントの周回が始まる。


 本来なら、周回作業なんて適当に無心でできるはずなのだが、今回はそれができない。


 画面越しに映る凛華が、時折動くたびにネグリジェの薄い生地が揺れる。それに合わせて、見てはいけないものが視界の端に時折ちらつき、どうしても気になってしまい、手元が狂う。


「和也くん、動き鈍くない?」

 

 凛華の軽い指摘が飛ぶ。


「いや、その……ちょっと手が滑っただけだよ」

 

 誤魔化す俺。だけど、心の中はそれどころじゃない。


「ふーん? まあいいけど……ほら、敵来てるよ」

 

 彼女の冷静な声で我に返り、なんとかゲームに集中しようとするが……。


 ダメだ。視線がどうしても画面の端へ行ってしまう。

 

「……やっぱり注意散漫だね、和也くん」

 

 ため息交じりの声が聞こえた瞬間、俺は背筋を伸ばした。


「ご、ごめん!!」

「そんなんじゃ効率悪いよ。ちゃんと集中して」

「わ、わかってる」


 こうなったら、作業用のBGMで開いていたサイトのウィンドウ使って、凛華のビデオの画面隠そう。


 よし。これで、ようやく作業に集中できそうだ。










 イベント周回をなんとか終えると、凛華は軽く伸びをする。


「ふぅ……やっと終わったねぇーお疲れ様ー」

「お、お疲れ……」


 疲れた……。


 な、なんだろう?長時間同じ作業を続けた疲労もあるのだろうが、慣れない環境でプレイしたせいでどっと疲れてしまった。

 

「ところで、和也君。ゲーム中ずっと私の事見てなかった?」


 ば、バレてた!?


 妖艶に微笑みながら言う凛華の言葉に、俺の胸は跳ね上がる。

 

「!? み、見てないよ!!」


 なんとか言い返す俺だったが、それに対して、彼女は悪戯っぽく笑った。


「そう? それにしては今日のプレイは雑だった気がするなー?」

「ま、まぁ。今日は周回目的だからね……」


 まずい、全てお見通しのようだ。


 ニヤニヤ笑う凛華に俺は、言い訳をする事しかできない。


「あ、そうだ。今日の放課後、掲示物の手伝いしてくれた時に和也君、下から私のスカートの中を覗こうとしてたでしょ?」


 クスクスと笑いながら凛華がそう言うと、俺は反射的に、「見てない!」と声を張り上げた。


 本当は見ようとしていたけど……。そんなこと言えるはずがない。


「えー、本当に? でも、今日私が黒タイツじゃなくて、ハイソックスだって気づいてたよね?」

「き、気付いてないよ……」

 

 どうにか取り繕おうと必死に答えるが、凛華は楽しそうに首を傾げるだけだ。


「ふーん、なるほどねぇ……」

 

 彼女の声には明らかにからかいの声色が含まれている。画面越しのその表情が、全てお見通しだと言わんばかりで、どうしようもないほどに悔しい。


「……本当に見てないんだって」

「まあ、別に怒ってるわけじゃないけど。けど、次はもっと上手に隠さないとね」

 

 弱々しく弁明する俺に、凛華はさらに追い打ちをかけるようにカメラ越しにいたずらっぽくウインクしてきた。


「だから、見てないって言ってるじゃん!」

 

 再び必死に否定する俺。それでも凛華の笑みは崩れない。


「なんかそこまで否定されちゃうと、少しいたずらしたくなっちゃうなー」

「へ?」


 そのまま凛華はカメラに顔を近づけ、画面越しにわざとらしく揺れる何かを見せつけてくる。


「わわわ!!!」


 俺は慌てて目を瞑り、動揺を隠すために深呼吸をしたその瞬間。突然、彼女側の映像が固まった。


「あれ?フリーズした?」


 マウスを動かして、自分のPCの動作を確認するが、何も異常はない。


 どうやら凛華側のPCがフリーズしたようだ。


 少し待つかと思って、スマホを手に持つと、凛華からメッセージが送られてくる。


「PC壊れた……どうしよう(泣)」


 なんとも情けない絵文字付きのメッセージに、俺は思わずため息をつく。

 

「俺をからかったからです」

 

 画面の向こうで困り果てている凛華を思い浮かべながら、俺はそう呟いた。

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