表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/38

13話

和也視点


 朝、教室に足を踏み入れると、なんとなくいつもと違う空気を感じた。何人かのクラスメイトがちらちらと俺の方を見ては、ひそひそと話している。


 今日はいつも以上にひそひそされてる気がする?と思いつつ席に着くと、啓介が小走りで俺の元にやって来た。


「和也、お前昨日、凛華さんとスーパーにいたって本当か?」

「え?」


 思わず間抜けな声が出た。


「誰かに見られてたみたいで、今、学校中で噂になってるぞ。おひいさまとお前が一緒に買い物してたって」

「マジかよ」

 

 まさか見られているとは……。うかつだった。もっと周りを気にしておくべきだったな。


 ちらりと凛華の方を見ると、予想通り女子生徒たちが彼女の席に集まっている。

 

「どうして、あんな地味な宮原君と一緒にいたの?」

「もしかして罰ゲームとか?」


 言いたい放題言ってくれるな……。


 だがそれよりも、俺のせいで凛華がこんなこと言われるなんて……という気持ちの方が強かった。


 でも、その瞬間、凛華が毅然とした声で言い放った。


「そんなことないですよ。たまたま出会って、ちょっと買い物を手伝ってもらっただけです。それに、和也君は優しくて努力家。誰にでも親切で、気遣いができる素敵な人ですよ? そんな酷い事を言ってはいけませんよ」


 その言葉に、女子生徒たちは何も言えなくなったようだ。


 自分の席に座ったまま、そのやり取りを聞いていた俺は、胸の中に複雑な感情が渦巻いていた。


 申し訳なさと嬉しさが入り混じっている。俺なんかのために、凛華があんな風に言ってくれるなんて……。


 昨日はああいう風に凛華が言ってくれたけど、周りから見れば、やっぱり「自分は彼女にふさわしくない」って思い知らされる。彼女は特別で、俺はただの地味な男子だ。


 だけど、彼女の言葉が俺の中に響いているのも事実だった。少しだけ、ほんの少しだけ、自分に自信が湧いた気がした。


 

 





 昼休憩になっても、教室のざわつきは収まらない。居心地が悪くなった俺は弁当を手にして教室を出る。


 向かった先は体育館裏。誰もいない静かな場所で、1人で昼食を取ることにした。


 コンクリートの階段に座り、昨日、凛華が作ってくれたおかずを詰めた弁当を一口頬張ると、昨日と同じ優しい味わいが広がった。この味のおかげで、少しだけ気分が少し和らぐ気がする。


「ここにいると思った」


 突然声がしたので、振り返ると、凛華が微笑みながら立っていた。


「え、なんでここに?」

「教室にいないから、探しちゃった」


 そう言いながら、凛華は俺の隣に腰を下ろす。


 俺を探し回っていたのか……。


 心配して探してくれたことに嬉しく思うと同時に、申し訳ないという気持ちも湧き上がってくる。

 

「ごめん、俺のせいで迷惑かけてしまったよな……」

 

 頭を下げて謝ると、彼女は柔らかく笑う。


「本当に迷惑だと思ってたら、こうして一緒にいないよ。それに、和也くんが気にするほどのことじゃないから」


 その言葉に、心が少し軽くなった。


 今までこんな事言ってくれる女の子は、誰一人としていなかったからだ。


 美咲でさえ、こんな事を言ってくれたことはなかったので、なお一層嬉しかった。


「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ……」


 そうお礼を言うと、ふと、凛華の視線が俺の弁当に向く。


「これ、昨日、私が作ったおかず?」

「うん、弁当に詰めさせてもらったんだ。すごく美味しいよ」

「そうなんだ。食べてくれてるの、すごく嬉しいな」


 少し顔を赤らめて、凛華は嬉しそうに笑う。


 作ってくれたおかずを弁当に詰めて来て良かったな。

 

「でも、少ないね。その量じゃ足りないんじゃない?」

「そうかな?」


 確かに、簡単に詰めただけだから量は控えめだ。


 俺が苦笑していると、凛華は自分の弁当を開け、箸で自分のおかずを掴むと、あろうことかそのまま俺の口元に差し出してきた。


「え……、ちょっ……!」

「私の分も分けてあげる! ほらあーん、して?」


 突然の行動に、俺の脳は完全にフリーズした。周りに誰もいないとはいえ、これは刺激が強すぎる。


 こんなに大胆な人だとは思わなかった……。


 そんな俺を見て、凛華はこらえきれずに笑いだしまう。


「ふふふ。冗談だよ。でも、これどうぞ。食べて?」


 くすくす笑いながら、凛華はおかずを俺の弁当箱にそっと移してくれた。その気遣いに感謝しつつ、俺は小さく頭を下げる。


「ありがとう、凛華」

「いいよ。それよりもちゃんと食べて元気出してね」


 彼女の優しい笑顔で、俺は少しずつ元気を取り戻すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ