足音~冬の朝、陽だまりに聴く
日一日というか時々刻々と
融けた氷柱から落ちる水滴のように
零れ落ちていく命の灯火
ずっと覚悟しながら歩いて来た
全てが融ける その日は近いこと
その日はある朝突然 やってきた
転んだきり起き上がれない
そこを厠と思い込み用足したことすら承知していない
今自分が天を仰ぎ倒れている 此処がどこかも分からない
舌がもつれ 言葉も宙を泳ぐ
頭が痛いと顔をゆがめる
時折 収まった、よかったという
今日は何日?いま何時?同じことを幾度も尋ねる
お腹が空いたと おじやを食べる
小さな茶碗半分を口に運ぶのに 全体力を使い 疲れ切る
横臥では栄養ドリンクもストローで吸い上げることができない
トイレと食事以外は ほぼ一日中 眠っている
大丈夫?頑張って 立って歩かないとね
頑張ってご飯食べましょう
ほんの少し前まで 励ましでかけていた言葉も
もう意味を為さないと知る
今は幼子のように無垢な あどけない寝顔だ
頑張らなくていいよ もう十分に頑張って来たんだもの
大丈夫
傍にいるよ
安心していいよ
別れを言えなかった 実母の顔が重なる
じいじ 頼むね 優しく迎えに来てあげて
あなただから いいよ
最後まで笑顔で
そう言ってあげれますように