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第7話 俺は誰と付き合えばいいのだろうか…

 今、おっぱいを感じていた。

 背に伝わってくる圧力。

 この前、腕に感じていたモノが今、背中全体に押し当てられているのだ。


 全体的に、そして満遍なく。その上、その大きさを体で感じられ、心臓の鼓動が高まりつつあった。

 嫌らしい気分にも陥り始めていたのだ。


「ねえ、どうかな?」


 空き教室の出入り口付近。

 背後から抱きついている藍沢花那(あいざわ/かなん)から耳元で囁かれる。


「いや、俺は別に……そもそも、さっき断ったはずだけど?」

「知りたくないの? 私のいろんなこと」

「……い、いいよ。そもそも、俺らって深い仲というわけでもないし。そんなにプライベートな事は遠慮しておくよ」


 高田紳人(たかだ/しんと)は後ろを振り向くことなく返答する。

 おっぱいの誘惑に負けそうになるものの、必死で感情を抑え込んでいた。


「もう一度聞くけど、知りたくない?」

「あ、ああ……遠慮しておく」


 紳人はハッキリと言ってやった。

 これ以上、距離を縮めるのは危ないと思う。


 紳人は心臓を震わせながらも、抱きついている彼女の次の反応を伺っていた。

 花那からの返答があるまでの間、物凄く長く感じる。


「……わかったわ。私もちょっとおかしかったよね」


 彼女がもう一度だけ紳人の耳元で囁いた後、背中からおっぱいの圧力が消えるのが分かった。


「ねえ、高田君って、好きな人っている?」


 花那は紳人の背に向かって問う。


「……い、一応は。好きかどうかは自分でもわからないけど。一応な。気になっている人がいるだけで、その人とは付き合うかどうかはわからないけど」


 気になっているのは、生徒会役員の水無瀬来乃実先輩の事である。


「へ、へえ。そうなんだ……」


 紳人は振り返ることなく小さく頷いた。

 それ以上、花那の方から話しかけてくる事はなかったのだ。


 紳人は、もう行くからと一言だけ伝え、後ろを振り返ることなく廊下を走り、今いる校舎から立ち去る事にした。




 紳人が教室に到着してから早五分ほどで朝のHRが始まる。

 HRが終わっても、自身の席に座っている花那の方から話しかけてくる事はなかった。


 クラス委員長としての業務があるためか、忙しくて話しかけてこないだけかもしれない。

 詳しくはわからないが、紳人も朝の件があり、自発的に話しかける事はしなかった。


 それよりも後で、夢月にあの件を伝えておかないといけないんだよな……。


 誤解されてばかりではよくないと思う。


 この前から幼馴染の中野夢月に話しかけようと思っても教室が違ったり。その上、彼女はバイトをしていることも相まって、なかなか関わることが出来ていなかった。


 そういや、メールは見てくれたのかな。


 紳人は椅子に座ったまま、制服のポケットからスマホを取り出し、幼馴染の事を考えながらもメールフォルダを確認する。


 まだ何の変化もなしか……。


 既読すらついていなかった。


 忙しいのか。

 それとも、あの一件以降、引かれてしまったのか。

 その真意は定かではないが、早いところ解決することに越した事はないだろう。


 紳人はため息をはきながら、スマホを制服の中に戻す。


 朝のHRが終わって五分ほどの休憩を挟み。それから、すぐに一時限目。

 別教室にいる幼馴染のところに行ける余裕などなく、今は机の上に教科書やノートを用意する事しかできなかったのだ。




 二時限目の終わり頃。ようやく時間に余裕が出来ていた。


 よし、今なら夢月のところに行けるはず。


 思った時が吉だと思い、席から立ち上がり、廊下に出た。

 幼馴染がいる教室へ向かおうと歩いていると、丁度、階段のあるところで生徒会役員の水無瀬来乃実(みなせ/このみ)先輩と遭遇してしまう。


「丁度いいところで出会ったね」


 来乃実先輩は先ほどまで三階にいたようで、胸を揺らしながら階段を駆け足で下り、気さくな感じで紳人の元へ近づき話しかけてきたのだ。


「そ、そうですね」

「そうだ。後で言おうと思っていた事なんだけど」

「付き合うとか、そういう話ですかね?」

「そうそう。今週中はどうかな?」

「今週中、ですか」

「もしかしてダメ?」

「そうではないんですけど」


 紳人はパッと脳内で計算してみた。

 土日において、今のところプライベート的な先約はない。

 花那と遊ぶ約束もしておらず、他の子らとも、そういった約束はしていなかったのだ。


「多分、大丈夫ですね」

「本当? じゃあ、約束ね。私、遊園地に行きたいと思ってて」

「どこのですかね?」

「隣街のところにある場所で。私ね、一応チケット貰ったからどうかなって」


 そう言って、先輩は制服のポケットから二枚のチケットを見せてきた。


「これで、一緒に遊べるね。お金の方は大丈夫だから」

「いいんですか?」

「ええ。あなたと付き合うって言っても頼りすぎるのもよくないし。私が出来る事は自分でやるつもりよ。それでいいでしょ。その代わり、結婚したら色々と助けてもらうこともあるかもだし、初期投資的な」

「け、結婚ですか⁉」

「そうよ。私は、今後の事も全部考えているんだからね!」

「でも、俺は心の準備は何もなくて」


 急に飛びぬけた話をされ、紳人は目を丸くしていた。

 来乃実先輩と付き合う事すらまだ現実味が湧かない。

 先輩の事は好きかもしれないが、まだ受け入れる覚悟なんて定まっていなかった。

 結婚という未来に関する紳人の設計図的な展開は今のところないからだ。


「まあ、そういう事で。そうだ、ここで会ったんだし、スマホ貸して」


 目の前にいる先輩は手を差し出してきた。

 その直後、先輩の胸に視線がいってしまう。


「これから正式に付き合っていくんだし。連絡交換ね」

「ほ、本当に付き合うんですか?」

「そうよ。紳人は好きな人っているの?」

「えっと……」


 実は、来乃実先輩と付き合ってみたいという願望は、少しだけある。

 がしかし、急に恋愛的な関係になると奥手になり、ハッキリとした意思表示なんて出来るはずもなかった。

 受け入れたい気持ちもあるが、玉の輿という高田家の利益を目的としている人と付き合う事に関して少々抵抗もあった。


「はい、スマホ。お願い」

「……はい、これです」


 紳人は一応、スマホを差し出しておいた。

 先輩は紳人の前で、自身のスマホと紳人のスマホを両手で持ち、手慣れた感じに操作している。


「これでよしと。ありがとね。あとの詳しい話は、メールでするから」


 そう言って先輩は背を向け、チラッと振り返りながら手を振り、階段を上って三階へと戻っていく。

 来乃実先輩は自由な人なのかもしれない。

 彼女の後ろ姿を見て、紳人はそう感じていた。




 そ、それより、夢月のところに――


 そう思った時には、次のチャイムが鳴り響いていたのだ。

 夢月と心の距離を埋めるのももう少し後かもしれない。


 なんで、こうも運が悪いんだろ……。


 紳人は廊下で頭を抱え、大きくため息をはくのだった。


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