第6話 エッチな話をしよ
昨日の出来事が脳内を駆け巡っている。
高田紳人は頭を抱えていたのだ。
今まさに頭の中がピンク色に染まり、卑猥な単語だらけで汚染されていた。
一日就寝して朝を迎えたわけだが、どうしても官能的な小説の内容を忘れられずにいるのだ。
作品も濃かったのだが、寝る前に頑張って読破した事が仇になっているのだろう。
一気見しなければよかったが、読まない事には終わらないのである。
今週中には、あの官能小説についての感想を言わなければいけないのだ。
気が重く学校に行くのも億劫だったが、一応自宅を後に学校へ向かい、今、校舎の昇降口で藍沢花那とバッタリと出会った瞬間であった。
「おはよ!」
「お、おはよう……」
花那と視線が合うと、彼女の方から歩み寄ってくる。
「どうしたのかな? そんなに浮かない顔して」
「色々あったんだよ」
「色々?」
「ああ。それと、あの本に関しては一応読んできたから」
「え? そうなの。凄いね」
花那が驚きながらも評価してくれていた。
「じゃあ、今からでも一緒に官能小説について話せるね」
「そ、そうだな」
女の子との共通の話題が官能小説というは何か違う気がする。
高校生活で望んでいた異性との会話の中心が、アダルトな話題になるのは辛い。
女の子と話すなら、普通の話題でやり取りしたかった。
「今から時間ってある?」
「別にいいけど。でも」
「でも? 用事でもあるの?」
「少しな」
「どんな?」
「それはなんだっていいだろ」
「私に隠し事?」
「そういう難しい話じゃなくて」
「ふーん」
花那はジーッと紳人の方を見つめた後、まあいっか的な感じで納得しているようだった。
その後で、両手で紳人の右手首を捕まえていたのだ。
本当は今から幼馴染の中野夢月と一緒に会話する予定でいた。
しかし、彼女からの返答は昨日からなく、まだメッセージにも既読がついていないのだ。
今のところ、夢月が学校に登校している気配もなく、紳人は花那と共に別校舎へ向かう事にしたのだった。
二人は本校舎の隣にある部活棟の空き教室内を利用することにした。
朝の段階では殆ど誰もいない事から廊下で会話しても問題ないが、念のために教室という誰からも監視されない部屋で話す事にしたのだ。
「えっとね、本題に入るけど。高田君はあの作品のどこが好きだった?」
空き教室内の椅子に座り、一つの机を間に挟むようにして、花那の方から話題を振ってくる。
「どこって」
「ん?」
花那は首を傾げ、紳人の様子を伺っているのだ。
女の子に対し、面と向かって官能小説のことについて話すなんて、心臓が震えてくる。
「私は率直な意見が聞きたいの」
「まあ、全体的によかったと思うけど。やっぱり、漫画と全然違って全部魅力的だったと思うよ」
「どういう風に?」
「……文字で詳細に書かれているからさ。具体的で、自分なりに妄想しやすいというか……。後は主人公とヒロインの関係性とかが良かったと思う」
異性の前で、なぜ、こんな事を言わないといけないのだろうか。
何かの羞恥プレイを強要されているかのようだった。
頬を紅潮させながらも、紳人は言い切ったのである。
「そうだよね。そこらへんいいよね。私ね、あの官能小説に登場する主人公とヒロインがセッ〇スしているところが――」
「え?」
「何かヘンな事を言ったかな?」
「ああ、十分言ってる気が」
「そうかな? でも、感想を言うなら。私、そういう事も含めて話したかったのにー」
花那は疑問気な顔を浮かべ、きょとんとしていた。
エッチなことに敏感な彼女からしたら普通かもしれない。
同性と気軽に話すノリならともなく、官能小説に詳しくない紳人からしたら、異性と如何わしい事について語るのは正直なところ辛い。
「高田君も、そういうのを期待して読んでいたんじゃないの?」
「ま、まあ、そうだけど」
「だよね、男の子ならしょうがないよね」
彼女は紳人に対し、笑みを浮かべていた。
「それで、何回したの?」
「何が?」
「だから、あの官能小説を見て何回したのってこと。オ〇ニーの回数」
「は、は? そ、それは」
「もしかして恥ずかしい?」
「そ、そんなわけないだろ」
「だよね。じゃあ、一緒に大人の話をしよ」
花那は元気よく話を進行させようとしていた。
「まず、一つ聞いておくけど。高田君って、エッチな話って幼馴染とはしないの?」
「す、するわけないだろ。そんな事を口にでもしたら、ぶん殴られるって」
刹那、夢月の姿を妄想してしまう。
紳人は首を横に動かし、イメージをかき消そうとする。
「へえ」
彼女はそうなんだ的な考え込んだ顔を浮かべていた。
「そもそもな、こういう話をするのって、藍沢さんが初めてだから」
「え、なんか、嬉しい」
花那はなぜか、はにかんだ笑みを見せてくれた。
「は? こんな事で?」
「うん。高田君の始めてを経験できて」
「変な風に言うなって」
花那と一緒にいると、調子が狂う。
中学生の頃であれば、男子生徒の中では中心になれるかもしれない。
でも、異性として考えると、恋愛対象としては見られないタイプだろう。
「ちなみにさ。藍沢さんは、彼氏とかできた事あるの?」
「え、そういう事を知りたいの?」
「何となくだよ。そんな深い意味はないから」
変に勘違いされないためにも、念のために、そう言っておいた。
「どうだと思う?」
「さあ、わからないけど。いたとか?」
「どうだろうね」
花那はわざと焦らしてきたのだ。
「でも、仮にだよ。いた経験があったならどうする?」
「べ、別に、なんとも思わないけど」
「そう? 本当に? 嫉妬とかはない感じ?」
「そんなのないから」
紳人は感情を強く押し込めた後、彼女の方をチラッと見やる。
花那は一度俯きがちになった後――
「……私、いた時あるよ」
「え?」
紳人は心を鷲掴みされ、急にドキッとした感覚に襲われるのだった。
「まあ、好きな人だけどね。だから、付き合った経験はないよ」
「そ、そうか」
「焦った?」
「そ、そんなことあるわけないだろ」
「ふーん……。でもね。今でも、その人の事はずっと考えているけどね」
「現在進行形で?」
「うん」
花那は首を縦に動かす。
「どういう人?」
「それは言えないけど」
「なんで?」
「秘密だから」
彼女は紳人が気になるところで、また焦らすのだった。
「知りたいなら、教えてあげるけど」
「でも、焦らすんだろ」
「んん、今回は教えるよ。君が好きなおっぱいのカップ数を教えてくれたならね」
「⁉」
紳人は不覚にも、彼女の胸元を見てしまう。
「私のおっぱい気になる?」
「しょ、しょうがないだろ。そんな事を突然言われたら気になるって」
「え、どうなの? 知りたいなら、君の好きなおっぱいのタイプを教えてよ」
「い、いいよ。だったら」
「えー、つまんないのー」
「それでいいんだよ。それと、官能小説の話についてはこれで終わりな。そろそろ教室に戻らないと、朝のHRが始まるだろうし」
紳人は席から立ち上がる。
これで、大きな壁は乗り越えたと思い、彼女に背を向けたまま空き教室から出ようとした直後――
背後から立ち上がる足音が響き、紳人が気づいた頃には彼女が背後から抱きついていたのだ。
「ねぇ、私の大きさって、どうかな? 好きな方?」
彼女は誘惑するかのように豊満なおっぱいを押し当ててきて、紳人を離さず抱きしめ続けていたのだった。