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第21話 俺が求めているメイドは

 街中のメイド喫茶店内。

 食事をとっていると。その時、高田紳人(たかだ/しんと)の目の前に佇む、ペンギンのコスプレをした中野夢月(なかの/むつき)の様子が変わった気がした。

 小柄なペンギンの姿がよく似合う。


 そんな事を思いながら、紳人は一旦、手を止める。

 ペンギンの方へ視線を向けると、彼女は少し照れた表情で、口元をもじもじと震わせていた。

 何か話したそうな顔つきではあるが、なかなか次のセリフを言ってくれない。


「話したいことがあるなら、自由に言ってもいいけど」


 メイドとしてではなく、重要な内容であれば幼馴染として話してもらっても構わない。

 そんな願望を抱いたまま彼女の様子を伺う。


「……わ、私、君に伝えたいことが」

「ん?」


 ど、どういう事?

 まさか、このセリフ、この流れって?


「わ、私を飼ってくれないかな?」

「……は? 急にどうした?」


 急な、とんでも発言に対し、紳人は目を丸くする。

 空いた口が閉まらなくなっていた。

 そんな中、君に伝えたい事――からのセリフに違和感を覚えていたのだ。


 本当は何か別の事を言いたかったのか。

 そんな事を思いながらも、驚き顔の紳人は言葉を続けた。


「か、飼うとは?」

「そ、それはイベントだ、ペン」


 彼女は慌てた口調で言った。


「イベント?」

「今回のイベントに来ていただいた人からペットのように頭を撫でてもらう行為の事を、飼うって表現してるんだ、ペン」

「そ、そうなのか……」


 今回のイベントでは、トレーナーとペットの関係性をコンセプトにしているのだろう。

 そんなイベントなのかと思いながらも、紳人は店内を見渡してみるのだが、全然そんな雰囲気はなかった。


 店内にいるメイドとお客は、間柄的に節度を持ちながら普通に会話したり、食事をしたり、ゲームをしていたりする。

 そんな光景が広がっていたのだ。


 どういう事だ?

 夢月が嘘を言っているのか?


「あと、頭を撫でてほしいの」

「えっとさ、そういう事をしている人が全然いないんだけど」

「で、でも、そういうイベントなの!」

「え、でも、周りの人はそういうやり取りはしてないし、そうだよな」


 紳人も目をキョロキョロさせ、対応を重ねるが、ペンギン彼女は頭を撫でてほしいと一点張りの発言ばかりしてくるのだ。


 状況を上手く把握しきれない。


 一体、どういう事なんだ?


 何が正解で間違っているのか、理解に苦しんでいた。


「でもさ、メイドに触るのはダメなんじゃないか?」

「けど、今日は特別っていうか。特別だ、ペン!」


 もしかしたら、暗黙の了解で、今日のイベントでのみ合法なのかもしれない。

 再び辺りを見渡すが、そういう間柄の人らはやはりおらず、紳人は首を傾げながらも目の前にいるペンギンな彼女の頭へと、一先ず手を向かわせる事にした。


 でもな、他のメイドにバレたら、注意されるよな……。


 色々と考え込み、紳人は手の動きを、そこで踏みとどめてしまう。


「は、早く……やってほしいペン」


 目の前にいるペンギンな彼女は求めてきている。

 他の人らは、こちらを見ていない。

 一瞬だけならバレないと思い、緊張した面持ちで再度彼女の頭へ手を向かわせたのだ。


「ん……」


 紳人の手が頭に届くなり、彼女はホッとした表情で、安心するかのように柔らかい声を漏らしていた。

 彼女の頭は温かい。

 自然体な姿に、紳人は困惑していた。

 それでも、触り続けることにしたのである。


「んんッ♡」


 ペンギンな彼女は嬉しそうに笑み、目を瞑り、優しい声を小さく漏らしていた。


「これでいいんだよな」

「うん」


 彼女は頷く。


「もういいか?」

「まだ……もう少し、撫でてほしい♡」

「もう少しか?」

「うん」


 ペンギンな彼女は安心しきった顔で瞼を閉じたまま頬を紅潮させ、プライベートで見せるリラックスした顔つきになっていた。


 無防備な彼女の姿に、変にどぎまぎする。


 変に意識してしまっている自分がいるのだと紳人は思い、胸元を熱くしながらも彼女の頭から手を離す。

 それから彼女はゆっくりと瞼を開いて、紳人の顔をまじまじと見つめてくるのだ。




「頭を撫でてくれたお礼に、今から食べさせてあげるペン、あ~んして」


 カウンター越しに、ペンギンな彼女は、ペンギンオムライスの端のところをスプーンで掬い、紳人の口元へ向かわせてきた。

 彼女は甘い声で、紳人を誘惑するかのように見つめている。


 紳人は悪い気はしなかった。

 余計な発言を口にせず、紳人は彼女からの想いを受け入れることにしたのだ。


「美味しいペン?」


 ペンギンな彼女の優しい瞳に応じるように頷いた。


「う、うん。美味しいです」


 それは心から出た率直な感想だった。


 アレ?

 ペンギンオムライスの味ってこんな感じだったか?

 もう少し濃かった気が……?


 ペンギンな彼女から食べさせてもらっているためか、さっきよりも美味しく感じる。

 彼女の事を意識しているからこそ、味わいが変わったのだろうか。

 程よい美味しさに、優しい気分になる。


「もう一口食べるペン」


 ペンギンな彼女は再度、スプーンでオムライスを掬い、口へと運んでくれる。

 それから何度か、彼女から食べさせてもらう。

 目の前にいる彼女のことだけを考えると時間の流れが速く感じた。

 そんな甘い時間が、紳人の人生に訪れていたのである。




「ねえ、紳人。本当はもう一つ言いたいことがあるの。本当に言いたかった事が」

「まだあるの?」


 ペンギンな彼女は照れ臭そうに微笑み、頷いていた。

 さっき、何か別の事を話そうとしていた気がしたが、本当に何かあるらしい。


「紳人って、アニメとか、漫画が好きなんでしょ?」


 彼女はカウンター越しに前かがみになり、紳人との距離を縮めようとしていた。


「え、まあ、今は、アニメは殆ど見てないかな。大体が漫画ばかりで」

「でも、漫画は見てるんだよね」

「そうだね。それがどうかしたの?」

「私、このバイトを始めたのは、紳人の事をもっと知りたかったからなの。漫画に、メイドって登場するでしょ?」


 確かに、メイドキャラは登場する。

 作品においては重要なキャラなのだ。


「私、紳人と一緒の趣味を共有したかったし。だから、頑張ったの。最初は大変だったけど……大体の事はわかって来たし。それで、後でもいいから、紳人のおススメの作品を教えてほしいの。いいかな?」


 彼女は上目遣いで話す。


「いいよ。でも、そういう理由で、メイドを?」

「うん、そうだよ」


 あまり、エロい系の作品が好きではなかった幼馴染の夢月が、今こうしてバイトを通じ、メイドとして全力で働き、努力をしている。

 そんな一面を知り、夢月の頑張りを知ることができた。


「ここまでしてまで、メイドをやってたんだな」

「だって、紳人が好きな作品をもっと理解したかったし。だからよ」


 気が付けば、彼女は語尾にペンギン言葉を付け足さずに話していた。

 現在、メイドとしてバイトをしている事をすっかりと忘れているのだろうか。


「語尾のペンは?」

「あッ、そうだよね、ペン。バイト中なのに、私情を挟んでしまって、ペン」


 ペンギンな彼女は慌てて、両手で口元を隠していた。


「いいよ。無理しているなら、俺と一緒にいる時だけは普通にしても」

「良いの?」

「うん。それに、俺のためにバイトをしていたなんて全然知らなかったよ」


 今振り返れば、紳人から幼馴染に対し、何も努力していなかったと思う。

 幼馴染がこんなにも真剣に頑張っている。だから、紳人も幼馴染に対し、何かしらの形で恩返しをした方がいいと考えていた。


 何も知らなかったのは、自分の方だったらしい。

 後悔を感じていると――




「今から学園動物ビンゴ大会をします! 今、この場所にいる人全員にビンゴカードを配布いたしますので、ご自由にご参加ください。参加商品もありまーす!」


 店内のモニター近くでマイク越しに話すメイド姿のメアリがいた。


 先ほどまでモニターに映し出されていた映像が消え、それと切り替わるように、ビンゴマシーンの映像が現れるのだ。

 メアリは一通りの説明を終えると、ビンゴカードを配布し始めるのだった。


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