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第10話 私、紳人のことが――

「ねえ、これはどういうこと?」

「そ、それは――」


 高田紳人(たかだ/しんと)は今、絶望の淵に追いやられていた。

 しかも、目と鼻の先には、藍沢花那(あいざわ/かなん)が佇んでいるのだ。


 二人は、ドーナッツ専門店内の通路にいる。

 現状、通路には誰もおらず話しやすい状況ではあった。


 幼馴染の中野夢月(なかの/むつき)には、花那と話があると一言だけ伝え、席から離れて通路にいるわけだが、この場の空気感は重かった。


 花那との会話なんて、嫌な予感しかしない。


「もしかして、あの子と付き合うことにしたとか? だから、放課後を共にしてるんでしょ?」

「そうじゃないよ。ただ、一緒に帰ることになっただけで。特に深い意味はないよ」

「本当に? でも、教室を立ち去る時に、なんで私に話しかけてくれなかったのかな?」


 彼女は詰め寄った話をし始め、紳人からしたら圧迫面接を受けているかのようだった。


「忙しそうだったし。それに担任から業務を任されているようだったから。まだ学校に残るものかと」

「それはあなたの勝手な判断でしょ。私に対する責任もまだ終わってないし」


 紳人はまだ責任という呪縛からは解放されていない。

 あの官能小説を見てしまったことで、隠し事を共有しているような状態。

 花那とは一蓮托生のような関係性である。


「疚しいことがなければ、私に話しかければよかったのに。あの子と一緒ってのが気にかかるのよね。本当は付き合おうとしてない?」

「それは断じて。そもそも、夢月の方からは何も告白的なこともないから」


 紳人は言い訳に言い訳を重ねるように言うが、彼女からはただジト目を向けられるだけだった。

 逆に不信感を抱かれる結果となったのだ。


 疑われやすいという状況であると自分でもわかっている。

 だが、本当に夢月とはそういう関係じゃない。

 ただの幼馴染といった間柄なのだ。


「……まあ、いいけど。この話は後でも深く話すとして。それとさ、問題がなければ、これから席を一緒にしてもいいでしょ」

「⁉ そ、それは……多分、夢月が嫌がるんじゃないかな?」

「なんで? なんで、そんなことわかるの?」

「それは……」


 返答しづらい流れになり、言葉が行き詰まる。


「私がいると困るっていうのなら。あの子って、あなたのことが好きなんじゃない? そうじゃないと私を避けないでしょ?」


 夢月はグッと近づいて来て、紳人の目をまじまじと見入ってくる。

 彼女のおっぱいが制服越しに紳人の胸元に押し当っていたのだ。


「というか、ここで断るなら。あの官能小説の件を言うけど?」

「そ、それは困る。わ、分かった、そういうことでいいよ。一応、同席しても」


 隠したい事をバラされるくらいなら従うしかない。

 たとえ同席したとしても上手く立ち回ればいいと、紳人は心の中で考え。そして、今生じている現実と向き合うことにした。




 一旦、話に決着がつくと、紳人は夢月がいる席へ戻る。

 そして、夢月と向き合うように席へと腰を下ろした。

 紳人は先ほどのやり取りを振り返り、深呼吸をする。


 どうすればいいんだろ……。


 不安な感情に押しつぶされそうだ。

 それから一呼吸おいて、夢月の顔色を伺うように彼女へ視線を向けた。


「あの子とはどうだったの? 帰ったの?」

「いや、あっちの方でドーナッツを注文してる」


 紳人は花那がいるところを指出す。


「そ、そうなんだ……」


 夢月はレジカウンターへ視線を向け、不安そうな眼差しを見せていた。


「やっぱり、同席することになったんだね」


 夢月は浮かない顔をしている。


「ごめん。久しぶりに放課後を一緒にすることになったのに」

「んん、いいよ。私は全然……気にしてないから」


 夢月は元気よく身振り手振りを加え、すべてを受けて入れている。

 が、彼女の表情は引き攣っていた。

 本当は拒否したかったんだろうと思う。


 紳人は自身の非力さを痛感し、心が痛み始めてくる。

 これ以上、夢月には迷惑をかけまいと、決意を込めた深呼吸を再びすることにした。


「ねえ、あの子とは何もないよね? やっぱり、付き合っているとか? 私、そういうことが気になって」

「だ、大丈夫。付き合っているとかは、ないから」


 さっきの花那との会話内容を振り返りながらも、安心させるべく言葉を告げた。


 アレ?

 そんなに気にしてくるってことは……。


 紳人の中で一つの疑問が生じる。

 もしや、自分のことが好きなのでは、という結論に辿り着いたのだ。


 紳人は顔を上げ、正面にいる彼女の顔を見つめた。

 夢月はさっきよりも不安げな顔を見せ、紳人のことを信用しようと、ひたすらに願っているような瞳をしていたのだ。


「安心してもいいんだよね?」


 その言葉に――


 これ以上、不安にさせたくないという思いから、紳人は頷いたのだ。

 これは今がチャンスだと思う。


 幼馴染から本音を聞き出す瞬間は今だと感じ、紳人は席に座ったまま口を動かそうとした。




「お待たせ」


 絶妙に悪いタイミングで、トレーにドーナッツを乗せた花那がやってくる。

 二人がいるテーブルへ、彼女はトレーを置いていた。

 気が付けば、彼女は紳人の隣の席に座っていた。


 次第に、花那との距離が近づく。

 その度に、正面にいる夢月の表情が歪んでいく事に気づいたのだ。


「あ、あのッ!」


 刹那、夢月が立ち上がり、声を張り上げていた。

 その発言に、二人は目を見開き、その場に佇む夢月の姿を見やったのである。


「ふ、二人はどういう関係なの! なんか、やっぱり、不安というか。付き合ってないよね」


 夢月はその場に立ったまま、二人を見ながら直接的な発言をした。

 彼女の発言後、多少の間があり。

 それから花那が言葉を続けた。


「私は付き合っているよ、ね!」

「いや、俺は付き合ってない。勝手に勘違いしないでくれ」


 紳人はハッキリと花那に言った。

 ここで言い切らなければズルズルと関係性が悪化する。

 どんなに隠し事があったとしても関係の線引きは必要だと思う。


「なに言ってるのかな? 私、紳人とはずっと付き合ってたものね」


 そう言い、花那が紳人の左腕に抱きついてきた。

 はたまた女の子の最大級の武器を使用し、攻め込んできているのだ。


 誘惑してくるのはわかっていた。

 でも、おっぱいという誘惑戦術には抗えなかった。

 しかも、柔らかい。


 こんなの抵抗のしようがないじゃないか。


 嫌らしい妄想までもが、紳人の脳内を制圧しようとしていたくらいだった。


「わ、私……紳人のことは意識していたから!」


 花那が紳人に対し、一方的なイチャイチャ具合を見せつけていた時、夢月が再び声を張り上げた。


 夢月の声に、店内にいた数人が体を震わせ、紳人らの方を確認するように見やっている。

 気まずいところで注目され、紳人は同じ席にいる彼女らの視線を一心に向けつつ、赤面するのだった。


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