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若く未熟な神ですが、久しぶりに下界に降りたら俺を崇める宗教が「独裁宗教都市」を作ってたんだが  作者: エタメタノール


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第18話 ラナイ、“神様”に戻る

 スラム街で大いに盛り上がった次の日の朝、運命の日――6の月の1日。

 俺は朝から大神殿の集会場に、スラム街の住民たちと、他の大勢の信徒を集めた。

 壇上には俺とレーア、ディゴス。あとシーヴとミカもいる。

 今日、俺は“神”に戻ることができる。


 俺はみんなの方を向く。

 大勢の視線が俺に注がれる。


「えー、皆さん」


 咄嗟に出てきた第一声がこれだった。


「せめて“皆の者”ぐらい言え」


 シーヴにツッコまれ、「うるさい」と返す。ミカも笑っている。


「30日間“ラナイ”という人間として、この街にいたけど、そろそろ俺は神に戻ろうと思う。そして、天界に戻ろうと思う。では、もったいぶっても仕方ないので、さっそく……」


「そんな着替えるようなノリで戻らないでよね」とミカ。


 俺はミカを睨みつけると、両手を上げる。


 体内に力が充満している。いつでも“神”に戻れる状態になっているというのが分かる。

 “人”としての体に少し未練もある。神に戻れば、疲れもなく、食べる必要もなく、死ぬこともなくなる。あの疲労感や緊張感が恋しい。

 だが、戻らねばならない。自分は神であることを忘れてはならない。

 神に戻る――と念じた。


 すると、来た。

 ずおん、と凄まじい力が俺に流れ込んでくる。

 いや、俺が元々持ってた力なんだけど、俺という器の中に大量の液体を一気に注ぎ込まれるような感覚だ。

 だが、溢れることはない。俺の体はもう“神”に戻ってるから。


「ぐうっ……! うおおおおっ……!」


 全身に力がみなぎる。声が出てしまう。

 苦痛なような、快感のような、奇妙な感覚。

 まもなく俺は“神”に戻ることができた。


 周囲の反応を窺う。

 やはり、みんな驚いているようだ。

 そして、どういうわけかみんな跪いていく。

 本能的に、俺が神様だってことを察したのかな。


 レーアとディゴスに振り向く。


 ディゴスも目を丸くしている。


「見た目がメチャクチャ変わったってわけじゃないんですけど、全然違うのが分かりますよ。もう俺たちじゃ及びもつかない存在になったってのが分かります」


 ディゴスほどの男でも、今の俺には気後れしてしまうらしい。

 神として誇らしくもあり、少し寂しくもあった。


 だが、レーアはあまり表情を変えていなかった。うん、さすがだ。


「もうラナイさんじゃなく、イラナミ神様とお呼びしてよろしいのですよね?」


「ああ、それでいい」


「一ヶ月の間、本当にありがとうございました。あなたのおかげで、ゼーゲルの野望を打ち砕くことができました。私たちはイラナミ教をかつてのような穏やかな宗教に戻してみせます」


「君たちならきっとできる」


 俺はうなずいた。


 すると――


 ディゴスの仲間の一人が、壇上に上がってきた。


「イラナミ神様、申し訳ありません。挨拶したいという者が現れて……」


「俺に? 別にいいけど」


 壇上に上がってきたのは、背中に荷物を抱えた青年だった。

 見覚えがある。

 いや、すぐに思い出せた。


「お前は……リップ!」


「はい、よく覚えててくれましたね!」


「そりゃ忘れないよ。記念すべき第一下界人だもん」


 一ヶ月前、俺をフリーデまで案内してくれた旅人リップだった。

 彼と別れた直後、俺は自分の像を笑って投獄された。

 まさか、まだこの街にいるとは思わなかった。


「君はずっとフリーデにいたのか?」


「はい、ラナイさんと別れた後、どうしてるのかなって探してたら、誰々が公開処刑から逃げたとか、スラムの清浄化が行われるとか、物騒な噂話を次々耳にして……。フリーデを発つのは、事の顛末を見届けてからにしようと思ったんです」


 俺と違って、リップはイラナミ教徒に捕まらなかったんだな。

 旅人だけあって行く先々の慣習に馴染むことに慣れているんだろう。


「そうしたら、ラナイさんが実は神様だって話を聞いて……こうして来ちゃいました」


「いやー、嬉しいよ! ありがとう! せっかくだし、ちょっと加護をやるよ!」


 俺はほんのわずかだが、リップの体内に力を注いでやった。

 気休めではあるが、これで多少は旅が楽になるだろう。


「いいんですか? 僕はイラナミ教徒じゃないのに……」


「いいのいいの! 俺はそういうの気にしないタイプだから! 緩くやるタイプだから!」


 俺のこの言葉に、集会場が笑いに包まれる。


「神としての威厳も何もないな」

「ホントよねえ」


 茶々を入れるシーヴとミカを俺は睨みつけた。


 さて、気を取り直して改めて、俺は神として言葉を紡ぐ。


「……コホン。えーと、どこまで話したっけ……あ、そうそう。これから俺は天界に戻るけど、どうか頑張って欲しい。なんとなく想像がつくと思うけど、天界から下界に降りるってのは明確なルールはないが、やっぱりあまりやらないようにってことにはなってるんだ。それに俺と君たちでは時間の感覚がかなり違う。もしかしたら、君たちが生きてる間に降臨することはもうないのかもしれない。できればもう一度ぐらい会いたいけどな」


 皆、静かに聞いてくれている。


「だけど、俺は天界から君たちを見守っている。だからどうか、俺の教えを守りつつ、かつそれに縛られすぎず、ゆったりと生きて欲しい。これが俺が神として君らに望むことだ。まあとにかく幸せに生きて欲しい」


 我ながら威厳がないが、紛れもなく本心だった。


「レーア」


「はい!」


「ディゴス」


「……はい!」


「イラナミ教をよろしく頼む!」


 二人は元気よく返事をした。俺はこれを見て安心する。

 イラナミ教は今度こそ大丈夫。


「じゃあ、俺は天界に戻るよ」


 シーヴとミカ、つまり武神と女神は俺より遅れて下界に来たので、もう少し後になってから戻るそうだ。


 俺は「天界に戻る」と念じる。

 すると、体が浮かび上がっていくのが分かる。背中に羽根が生えたような感覚を抱く。


「じゃあな、みんな!」


 レーアやディゴス、スラムで一緒に過ごした仲間たち、信徒たちが温かい笑顔で俺を見送る。

 神が天に戻るなんて、本来もっと神々しい場面だろうに、まるで友達を見送るような構図になっているが、これでいい。

 俺は――イラナミ神は、これでいいんだ。



***



 俺は気づくと天界にいた。

 見慣れた場所に戻れてほっとしたような、少し寂しいような、そんな気持ちだ。


 濃密な30日間だった。

 あの体験を経たことで、俺の神としての力が上がったわけじゃない。

 ただ力を上げたいだけなら、ずっと天界で修行した方がよっぽど効率がいい。

 だが、下界に降りなければ得られないこともあるのだな、と思った。

 俺は神として大きく成長した――そう思いたかった。


 そして、俺は再び修行に励む。

 なぜなら、俺は神であり、それが使命だから。

 ましてや、地上には俺を崇める人間たちがいる。怠けてなんかいられるかっての。

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