第17話 勝利の後
ゼーゲルとドラゲノフを倒した俺たちは、そのまま大神殿に向かって行進した。
スラム住民たちのまさかの勝利に、街の住民らは驚いていたが、特に罵られるようなことはなかった。
大神殿にたどり着いた俺たちは、信徒が集まる集会場に行く。
集会場には大勢の信徒がいた。
きっとゼーゲルに「今から汚れたスラム住民どもを浄化する。ここで待つように」などと言われていたんだろう。
しかし、やってきたのはスラム住民である俺らだったので、どよめきが走る。
「お前たちは……!?」
「ゼーゲル様はどうなったんだ!」
「ひいいっ……!」
俺たちはそのまま壇上に上がる。
レーアが代表して、集まっている信徒たちに向け、声を発する。
「皆様、どうか落ち着いて下さい」
すると、不思議と静まり返る。
先ほどの戦いでもそうだったが、彼女の声にはどこか不思議な力がある。下手すると神である俺以上に。これも俺が教えを授けたレンデルの血を引いているからなんだろうか。
「ゼーゲルは、先ほどスラム街で敗れました。主だったメンバーは我々の手で拘束しています」
この言葉を皮切りに、レーアは一つずつ説明を開始していく。
自分が先代大神官の娘であること。
ゼーゲルは自分の野心のためにイラナミ教を乗っ取り、信仰心など一切ないこと。
彼の教えは本来のイラナミ教のものとは程遠く、私腹を肥やすためのものに過ぎないこと。
そんなゼーゲルの野望も先ほど潰えたことを。
信徒たちは困惑していたが、しばらくすると――
「レーア様、私たちはどうすれば……」
「どうかお導きを!」
「我々をお助け下さい!」
レーアに向かってすがるような声を出す。
彼らはゼーゲルによって支配され、財産も、自由も、考える力さえも奪われていた。
独裁こそしていたが強力なリーダーだったゼーゲルを失い、どうしていいのか分からないのだろう。
レーアはゆっくりと話す。
「私たちは十年前までの、ゼーゲルがこの街を支配するまでの、在りし日の頃のイラナミ教を取り戻すつもりです。お金に固執しない、悪いことをしない、助け合う、を守り、静かにイラナミ神を信仰する……フリーデをそんな街に戻したいと思っています」
皆、黙って聞いている。
「不満も出ると思います。ゼーゲルの支配は強引ではありますが、イラナミ教やフリーデを肥大化させたという点においては事実ですから。ですが、私は彼のやり方を認めません。少しずつではありますがイラナミ教を、イラナミ神様が笑ってくれるような宗教に戻したいと考えています。皆様、どうかよろしくお願いします」
俺が笑ってくれる、か。なかなかいいこと言うじゃないか。
信徒たちは動揺しつつ、レーアに拍手を送る。
彼らはゼーゲル支配下でイラナミ信徒になった人間であり、“ゼーゲル教”の信徒といってもいいような集団だ。
そんな彼らを導くのは並大抵の苦労ではないはず。
だが、レーアやディゴスたちならばきっとやってくれる。そんな気がした。
***
長い一日が終わり、俺たちは一度スラム街に戻った。
時刻はもう夕方になっていた。
全ての事情を知っているレーアが、改めて俺のことを住民たちに説明してくれた。
「……つまり、ラナイさんはイラナミ神様なんです」
みんな、様々な反応だった。
呆然としている者、驚いている者、はしゃいでいる者。
しかし、みんな俺がゼーゲルたち相手に無双したとこを目撃している。
それが決め手となり、どうにか信じてくれたようだ。
俺もみんなに頭を下げる。
「あれほどの力を出せたのは、みんなのおかげだ。本当にありがとう」
皆が一斉にひれ伏してしまう。
200年、俺がイラナミ教を放置してたことを考えると、こっちがひれ伏したい気分なのだが。
さて、俺と決闘もしたディゴスはというと――
「すんませんでしたぁ!」
ものすごく謝ってた。
「ラナイ、いや、ラナイさん、ラナイ様が神様だなんて知らなくて、俺色々言っちまって……」
「そりゃ知らなくて当然だよ。むしろ分かる方がおかしい」
「暴言吐いたり、殴ったり……」
「気にしないでくれよ」
「俺はもうどうしたらいいか……!」
これは単に、俺からの罰が怖いとか、そういう雰囲気ではない。
信仰していた神に粗相をしてしまったことに対して、ものすごく落ち込んでいる感じだ。
意外と信心深いところもあったようだ。
俺はなるべく優しい声を出す。
「ディゴス、俺はお前のまっすぐなところが好きだったよ。レーアもそうだけど、お前とも出会えて本当によかったと思ってる。だからこれからもどうかそのままで、レーアを支えてあげて欲しい」
「……はい!」
ディゴスとの決闘は、おそらく俺の中で永遠の思い出になるだろうな。
今思い出すと……痛かった。メチャクチャ痛かった。とにかく痛かった。
そして、俺はみんなに告げる。
「明日、俺は神に戻る。その後は天界に戻ろうと思う。神がいつまでも地上にいるのはやっぱりよくないからな。だから最後の一晩は、ここでゆっくり過ごしたい」
皆がうなずき、この日は夜遅くまで皆で語り合った。少しだが酒も飲んだ。
下界に降りてからの日々で、間違いなく一番楽しい夜になった。




