第12話 神様だけど特訓だ!
ディゴスとの決闘に向けての、俺とシーヴの特訓は続いた。
「どおりゃあああっ!」
俺は振りかぶってパンチを打つ。
シーヴのカウンターの拳が俺の顔面に入り、ダウンする。
「いででで……!」
「さあ、立て! ラナイ! 立つのだ!」
「分かってるよ!」
一見すると俺がひたすらボコボコにされているようだけにも見えるが、強くなっている手応えは感じる。
さすがは武神、戦いながら俺にアドバイスをし、殴る時も絶妙に怪我はさせないようにしている。
ようするに、教え方が上手いのだ。
俺渾身の右ストレートをあっさりかわすと、シーヴは腰が入ったキレのあるパンチをお見舞いしてきた。
「ぐはぁぁぁ……」
俺はブッ倒れた。
「なかなかの根性だ。いったん休憩にしよう」
「は~い……」
俺は力なく返事をした。
***
訓練が一区切りつくと、俺はレーアと二人きりになった。
「聞きました。ディゴスと決闘をすると……」
「うん……」
レーアには俺の狙いを正直に話した。
レーアのおかげで、俺は急速にこのスラム街での存在感を増している。
そこでさらにスラム街の武力的なリーダーであるディゴスを決闘で打ち負かせれば、俺は一気にリーダーの座につけると。
「そういうことでしたか」
「君としては複雑な気分だろう。君が崇める神と、昔からの友達であるディゴスが戦うことになるんだから」
「いえ、そんなことは……。あ、いえ、やっぱりそうですね。複雑な気持ちです」
最初は俺を思って「そんなことは」と言ったのだろうが、それは神に嘘をつくことになると、言い直してくれたんだろう。
レーアのこういうところは非常に魅力的だ。
「決闘前に、ディゴスのことを少しでも知っておきたい。彼について教えてくれないか?」
「分かりました」
レーアは語り始める。
「私が先代大神官の娘というのは前にお話ししましたが、ディゴスもイラナミ信徒の両親を持っていました。両親同士仲がよかったのもあり、私たちもすぐ仲良くなり、幼馴染として楽しく過ごしました」
その頃はまだフリーデも、ゼーゲルに乗っ取られておらず、のんびりやってたんだろうな。
「しかし、私の両親が相次いで亡くなり、ゼーゲルが台頭し、私たちのような昔ながらのイラナミ教徒はこのスラムに追いやられました。当時は私もディゴスもまだ子供で、何もできなかったことが歯がゆかったです」
そして、スラム街での生活が始まる。
「最初は……本当に過酷でした。元々ゼーゲルが都市開発の段階で出た廃材を投棄するような場所でしたから。環境も劣悪で、ディゴスの両親も病にかかり……」
レーアがうつむく。亡くなってしまったのだろう。
「ですが、ディゴスはそこから奮起しました。若い人たちを集め、いつかゼーゲルを倒すんだ、とトレーニングを始めたんです。その結果、今や100人ぐらいの戦える集団になっています」
過酷な環境で親を亡くし、頼れる者もいない。
そんな中、ディゴスは自分なりに訓練して、仲間を集め、戦える集団を作り上げた。
その強さは武神にも褒められるほど。
ディゴスの十年間はあまりに重い。
俺――イラナミ神を「レーアが信じてるから」とまだ信仰してるのが不思議なぐらいだ。
俺はそんな男のリーダーの座を脅かし、奪おうとしている。
胸が痛む。
だが、やらなければならない。
俺があいつに勝てなきゃ、多分スラム住民は負けるし、俺も死ぬし、俺に付き合ってくれた武神と女神も死ぬ。
「レーア、俺とディゴス、どっちに勝って欲しいと今聞いたら、おそらく君は答えられないだろう」
「……はい」
「それでいい。そんな君だから、俺も正体を明かした。だが、俺はなんとしても勝たなきゃならない。だから一つ頼みがある」
「なんなりと」
俺はレーアに一つ頼みごとをし――レーアは引き受けてくれた。
そして、去り際、俺はレーアにこんなことを聞いてみた。
「レーア、君はディゴスが好きか?」
「え……!?」
「いや、あいつは多分君が好きだが、君はどうなのかなと思って」
レーアは顔を紅潮させた。
「ラナイさん、やはりあなたは神様のようですね。普通の人だったら、出し抜けにそんなこと聞きませんから」
思いきり苦言を浴びせられてしまった。
俺もだいぶ人間のことを分かってきたつもりだったが、まだまだだったな、と思った。




