第11話 ディゴスとの対立
俺がレーアに神であることを明かし、積極的に彼女を手伝うようになり、幾日が経った。
今日は5の月の15日。
夜の炊き出しを終えた俺に、ついにディゴスが声をかけてきた。
「おい、ラナイ」
「ん?」
ただでさえ猛獣のような勇ましい顔立ちだが、今日はそれプラス俺への憎しみがにじみ出ている。目を見開き、心底から俺を疎ましく思ってるのが分かる。
「なんだよ?」
俺はまるでディゴスの悪感情になど気づいていないように振る舞う。
「お前、何考えてやがる?」
「何をって?」
「とぼけんな! このところ炊き出しを手伝ったり、レーアと一緒に読み聞かせをしたり、急にスラムに協力的になりやがって!」
「別に……。俺はイラナミ教やレーアに共感して、少しでも彼女を手伝いたいと思っただけさ」
「どうせレーアが目当てなんだろうがッ!」
ディゴスが憎悪むき出しの形相で怒鳴りつけてきた。なかなか迫力がある。というか、かなりビビった。
「元々お前は部外者だ! このスラムとはなんの関係もねえ! 今夜あたり、お前を脱出させてやるから、とっとと出て行きやがれ!」
ちょっと前の俺なら分からなかったが、今なら分かる。
ディゴスは自分の立場が脅かされるのが、そしてそれ以上にレーアを奪われるのが、たまらなく怖いのだろう。
だからこうやって威嚇する。大声を出す。厄介者払いしたいと考える。
俺は冷静にこう返してやる。熱くなってる人間には冷たく返してやるのが一番効くからだ。
「出ていかないよ」
「ああ?」
「俺は残って……ゼーゲルたちを迎え撃つことに決めた」
この言葉にディゴスの表情はますます歪む。
「ふざけんな! これは俺らの問題だ! お前には関係ねえ!」
「関係なくはないね。俺はもうこのスラムの住民だし、レーアたちを助けたいと決めたんだ」
「お前の助けなんざ必要ねえ! 俺が助けなきゃ公開処刑されてたくせによ!」
周囲の注目が集まってきた。
これもまた俺の狙い通り。
そして俺はひときわ大きな声でこう言った。
「ディゴス、悪いがお前じゃゼーゲルたちには勝てない。俺がリーダーになって、皆をまとめ上げる。これしかゼーゲルたちに勝つ方法はない!」
はっきりと言ってやった。俺がリーダーになる、と。
数日前にこれを言っていたら、みんな失笑しただろうが、今の俺は住民からだいぶ信頼を勝ち得ている。
ひょっとしたらディゴスよりもリーダーに相応しい、なんて思ってしまう人もちらほらいるだろう。
「ふざけんな! 俺は昔からの住民で、お前は新米だ! リーダーに相応しいのはこの俺だ!」
「新米だからこそ、だ。確か十年前に、お前たちはこのスラムに追いやられたんだろ? それからずっとゼーゲルをどうすることもできなかった。十年間も何してたんだ? 遊んでたのか? こんな時に必要なのは、俺みたいな新しい力なんだよ」
ディゴスがああ言えば、俺はこう返す、という問答が続く。
ディゴスはだんだん言い返せなくなってきている。ちょっと心が痛む。
だが、俺はダメ押しするように言った。
「ディゴス、決闘をしよう! 俺とお前、どっちがリーダーに相応しいか!」
「……!」
「申し込んだのは俺だから、日時や方法はそっちで決めていい」
大勢が俺たちを注目している。
こうなるとディゴスとしても、この挑戦から逃げることはできないだろう。
「いいだろう、やってやる! 日時はそうだな……十日後の25日なんてのはどうだ?」
少し時間を空けてきたな。
ディゴスが俺を侮れない相手だと思ってる証拠だ。
それに、25日にリーダーが決まれば、そこから結果を覆すのは無理だろう。ちょうどいい日付ともいえる。
俺は「いいだろう」と返した。
「方法は……殴り合いだ! 男同士、一対一でケリをつけようぜ!」
「望むところだ」
こうして俺とディゴスの、スラムのリーダーの座をかけた決闘が決まった。
これこそが俺の狙い。
昔からの住民で、レーアとともにスラムの中心であるディゴスを乗り越えれば、俺は一気にリーダーになれる。
リーダーになれば、ゼーゲルたちとの戦いで、信仰のパワーを集めることもできる。
ディゴスには悪いが、彼には踏み台になってもらう。
しかし、俺がディゴスに負けたら、その時点で作戦はパーなのだが……。
俺もある程度は特訓しなきゃならない。
その相手にうってつけなのは……やっぱりあいつだよな。
***
俺が特訓相手に選んだのは、シーヴだ。
なにしろシーヴの正体は武神。武の神様に戦いを教えてもらうなんてのはまさに最高のトレーニングといえる。
シーヴも先ほどの俺とディゴスのやり取りを見ていた。
「考えたな、ラナイ。あのディゴスという若者を倒せば、貴様は一躍このスラムのリーダーになれる。それはゼーゲル一派との戦いでも有利に働くであろう」
「ああ、ディゴスには悪いことしたけどな。だが、やらなきゃならない。ってわけで、戦いを教えてくれ!」
「いいだろう。かかってくるがいい」
俺もシーヴも素手で構える。両拳を前に出す、拳闘スタイル。
「行くぞ!」
俺は右で殴りかかるが、シーヴにあっさり左腕で防御される。
返しの拳が飛んできた。俺は全く避けることができない。
「ぶげえっ!」
クリーンヒットし、俺は背中からダウンした。
「いてて……もっと手加減しろよ!」
「武の神が手加減などするか。それにしても貴様……弱いな」
「う、うるせえな!」
「あのディゴスは、吾輩から見てもかなりの鍛え方だ。生半可なトレーニングでは勝てん。さあ、かかってこい!」
そんなことは分かってる。
たった十日で俺は少しでも実力を上げなければならない。
ディゴスを一対一で打ち負かす力を。
「うおおおおおおっ!」
立ち向かっていき、倒される。
これを何度も何度も繰り返すうち、格闘のコツみたいなものはつかめてきたかもしれない。
「だりゃあっ!」
俺の拳が、シーヴの顔をかすめる。
「ほう……!」
「どうよ? 俺も少しは……」
「そこで油断するでないわ」
シーヴの拳が俺の顔面にめり込んだ。
メッチャ痛い。
そろそろ限界だ。俺が倒れ込んでいると、ミカが俺に汗を拭く布を渡してくれた。
「なかなかのやられっぷりじゃない」
「ほっといてくれ……」
「でも今のあなた……私の目から見ても、美しく感じたわ。がむしゃらに頑張る男ってのもいいものね」
「……ありがとう」
美を司る女神であるミカから褒められた。メチャクチャ痛いけど、嬉しかった。痛いけど。




