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若く未熟な神ですが、久しぶりに下界に降りたら俺を崇める宗教が「独裁宗教都市」を作ってたんだが  作者: エタメタノール


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10/19

第10話 実は俺、神様なんです

 翌朝になった。まだ少し眠たい。

 今日は5の月の11日。

 武神と女神――シーヴとミカが味方になったのは心強いが、あの二人も今は“人”であり、そこまで頼ることはできない。

 スラム住民が勝つには、俺が信仰心でパワーアップして、奴らを撃退しなきゃならない。

 だが、そのためには俺がスラムのリーダーになる必要がある。

 清浄化という名の皆殺しが行われる30日までに……。


 しかし、今の俺はただのスラムの新入りに過ぎない。普通にやってたら、リーダーになるなんてまず無理だ。

 だから俺は、先代大神官の娘レーアに全てを打ち明けることを決めた。

 彼女に全部喋って、協力を仰ぐ。

 それしか思いつかなかった。


 朝の炊き出しの後、俺はレーアに近づく。


「レーア!」


「なんでしょう、ラナイさん?」


「話があるんだ」


 レーアはきょとんとする。


「ずいぶんかしこまって……お伺いしますけど」


「いや、できれば……というか絶対に二人きりがいいんだ。ちょっとついてきてくれないか」


「……分かりました」


 レーアも俺のただならぬ様子を察してくれたようで、黙ってついてきてくれた。

 人のいない一角に着き、入念に周囲を見回す。

 レーアは緊張した様子だ。そりゃそうだ。男がいきなり若い女を誰もいないところに連れ込んで、何か企んでると思われても不思議じゃない。

 というか、俺も緊張してきた。

 神でいる時は、緊張することなんてほとんどなかった。神同士には一応の序列はあるが上下関係はないようなものだし、格上とされる神に会う時も緊張なんかしない。現に俺は先達といえる武神や女神にもフランクに接している。

 まったく貴重な体験ができたもんだ。

 とにかく、あまり時間をかけるのもよくない。だから俺はいきなり言うことにした。


「レーア。実は俺は……イラナミ神なんだ」


 言ってしまった。もっと前置きをするべきだったかもしれないが、その前置き自体を思いつかなかった。

 眼前のレーアはぽかんとしている。

 そりゃそうに決まってる。俺は慌てて付け加える。


「……って言ったら、信じる?」


 言いながら、信じるわけねーだろ、と思っていた。

 ついこの間牢屋で会った奴が、自分が崇める宗教の神様だなんて――


「なんとなく……そうなんじゃないかな、と思ってました」


「え?」


 予想外の返事だった。俺の方が驚いてしまう。


「あの時、牢屋で会った時から……本当に何となく、なんですけどね。“違う”という可能性の方が高いと思ってました。でも、何となくあなたはイラナミ神なのではないか、と思ってたんです」


 マジかよ。さすがレンデルの血を引くだけのことはある。

 俺の正体に勘付いていた。

 勘付いてたといっても、確信は持てず、可能性1パーセント程度の「もしかしたら」ぐらいのものだったろうが。


『まるで、あなた自身がイラナミ神のような言いぐさですね』


 牢屋の中でレーアは俺にこう言ったが、あれも何となく予感していたからなのだろう。

 これはありがたいことだ。だとしたら話が早い。


「信じてくれるんだね」


「はい……信じます」


 俺は「じゃあ……」と、レーアには全てを打ち明けることにした。

 200年前フリーデ村を救ったのは俺であること、宗教を作らせたこと、そして200年経った今、“人”として降りたことを。

 ここからはレーアも知っていることだから割愛したが、俺は信仰の力でパワーアップできること、そのためにはリーダーにならねばならないと明かした。

 ついでにシーヴとミカも俺と同類だってことも伝えておいた。さすがにこれには気づいてなかったらしく、レーアは驚いていた。


「なるほど、リーダーですか……」


「ああ、俺が皆をまとめて、祈ってもらう。そうすれば俺はすごいパワーを発揮できて、ゼーゲルどもだって返り討ち……のはずなんだ」


 今スラムはレーアやディゴスを中心にまとまってはいる。

 だが、ゼーゲルの兵が押し寄せてきた時に悠長に祈れるかというと、それは難しい。

 ディゴスたちは祈るどころか戦う気満々だし、怯える人だって出るだろう。

 そこで俺がリーダーになって、皆に祈ってもらう、というのが俺のプランだった。


「だから君にも協力して欲しい」


「分かりました。協力しましょう」


 あっさり引き受けてくれた。

 スラム街の武のリーダーがディゴスとするなら、レーアは心のリーダーといえる。

 彼女の協力は本当にありがたかった。


「ですが、あなたがイラナミ神であることは……黙っておいた方がいいでしょう」


「だろうね」


 これは俺もそう思う。

 レーアがすんなり受け入れてくれたことがそもそも奇跡なのだ。

 皆に「俺がイラナミ神でーす」なんて言ったところで、誰も信じないだろうし、それどころか混乱を招くおそれもある。

 ディゴスあたりは「デタラメ言うな」と激怒する姿が容易に想像できる。

 そうなったらもう、スラム住民が助かる見込みはなくなる。


「となると、俺はどうすればいいかな……?」


 レーアがにっこり笑う。


「やはり、身近なところから始めていくべきではないでしょうか?」


「身近なところ?」


「ひとまず、今日の炊き出しは手伝って下さい!」


 そうだな、それしかない。

 身近なところから始めて、信頼を勝ち取っていくしかない。

 少しずつ、だけど確実に、一歩ずつ。


「じゃあ手伝わせてもらおうかな。よろしく頼むよ、レーア」


「はい、イラナミ神様!」


 俺は慌てて訂正する。


「いや、今は“ラナイ”でいいよ。むしろ、そう呼ばれたいんだ」


「……分かりました。ではラナイさん、よろしくお願いします!」



***



 この日の昼から、俺はレーアたちの炊き出しを手伝った。

 わずかに具が入ったスープや、米やおかずを並んでいる人たちに配膳していく。

 一言一言、声もかけて。


「熱いから気を付けてね~」

「美味しいよ~」

「これ食べて元気出してね!」


 この声かけは好感触だったようで、「私なんかに声をかけてくれてありがとう」なんて人もいた。

 “私なんか”なんてことはないのに、ちょっと涙ぐみそうになってしまう。


 すると、シーヴとミカも食器を持って並んでいた。


「おい、なんでお前らまで並んでるんだよ」


「なんでって決まってるだろうが、吾輩らは今は“人”なのだ。腹が減るんだ」


「そうよ。私もずっと踊ってたし。私の踊りは今やスラムの立派な娯楽なんだから」


「分かったよ……」


 シーヴとミカの食器にも米やおかずを載せてやる。


「もっと入れろ!」


 シーヴが怒鳴るので、


「ワガママ言うんじゃねえ! みんな、この量で何とか生きてんだ!」


 と怒鳴り返してやった。

 シーヴは顔を渋くして引き下がる。

 このやり取りを見て、レーアは笑っていた。彼女の笑顔を見ると俺もなんだか嬉しくなった。


 その後はレーアのイラナミ教の経典読み上げを手伝わせてもらう。

 俺が水害を食い止めたことに始まる神話を、俺自身が読み上げる。自分の偉業を自分で称えるみたいな構図になってる。

 なんかちょっと、いやかなり、こっぱずかしい。しかし、やるからにはちゃんとやらないとな。


「川の洪水を食い止めたイラナミ神は言いました。『もうこれで大丈夫だ』と。村人たちは喜び……」


 すると、聞いている人たちからこんな声が聞こえた。


「なんだか、まるで本当に神様が話してるみたい……」


 鋭いな、当たりだ。

 神話ってやつも、本物の神様が読むと、やっぱり何か違うものなのかな。響きとか、真実味とか。

 俺の神話朗読はかなり評判がよかった。

 終わった後、レーアも褒めてくれた。


「よかったですよ、ラナイさん。さすがは本物……ですね」


 ウインクまでしてくれるレーアに、俺は彼女の意外な素顔を見た気がした。

 大神官の血筋として真面目に健気に頑張っているが、本来はお茶目な女の子なのだろう。

 こんな女の子をスラムに追いやり、処刑しようとまでしたゼーゲルたちをやはり憎らしく感じてしまう。


 俺がこんな風にレーアと話したり、活躍したりすることを面白く思わない者もいた。

 ディゴスだ。

 俺はレーアと話している時、ディゴスの鋭い視線をずっと感じていた。

 スラムの新人で、本来なら見捨てられてもおかしくなかった俺が、レーアと仲良く話している。スラムでの存在感も増している。

 昔からの住民で、リーダー格のディゴスからすれば、調子に乗っていると感じるはず。


 だが、実はこれは俺の狙い通りでもあった。

 俺がリーダーになるには、周囲からの信頼を得ることはもちろんだが、やはりディゴスとの対立が必要だからだ。

 ディゴス、俺に対してもっと怒れ。俺は心の中でこう思った。

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