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第3話

 我が主、マリエル様が女性のフリをしてライラ様と文通を続けているのには訳がある。


 マリエル様とライラ様は幼い頃からの許嫁でありながら、実際に顔を合わせたのは12年前のたった一度だけだ。

 その理由は、初顔合わせの際にライラ様がマリエル様を怖がって号泣したためだ。しかもその後しばらく熱が出てうなされたらしい。

 当時、マリエル様は15歳、ライラ様はまだ5歳だった。

 5歳のライラ様にとって15歳のマリエル様はさぞ大きく怖い存在に見えたに違いない。身長はすでに現在とほぼ変わらないぐらいあったと記憶しているし、変声期の途中でひどくガサガサした声だったことがさらに恐怖心を煽ったのだろう。


 国防の要である国境警備を担うモンザーク辺境伯家は、代々国王陛下からの信頼が篤い。

 しかし国境周辺という王都から遠く離れた山岳地帯での暮らしを強いられることや、いざ戦争が勃発すれば命の危険は警備隊だけでなく家族にも及ぶというマイナス要因が多々あるため、嫁のなり手がないのだ。

 その打開策として数代前の国王陛下が、王の勅命で辺境伯の結婚相手を決めるという制度を作った。

 現在、王都の貴族たちの間ではこの制度の撤廃を求める意見も多い。

 その一方で、辺境伯が隣国に寝返りでもしたら大変なことになる、謀反を起こされぬよう誠意を見せなければならないという、この制度の必要性を説く意見も根強い。


 だから、一度決定してしまえばよほどのことがない限り婚約解消はない。

 しかしマリエル様の場合、10歳になるまでに数回この「よほどのこと」が起きて婚約者が変更された。

 原因不明の不治の病にかかっただの、お腹を強く打ち付ける怪我をしたため子の産めない体になっただの、魔女の呪いを受けただの、ただの苦しい言い訳としか思えない理由で数名に逃げられた後、生まれたばかりのライラ・グラーツィ伯爵令嬢が婚約者になった。

 ライラ様は当時の宰相、エドモンド・グラーツィ卿の孫にあたる。

 辺境伯次期当主の婚約者がなかなか決まらないことに苦慮する国王を間近で見ていたこともあり、断ることもできなかったのだろう。

 そしてそのまま今に至るというわけだ。


 体はゴツイものの心は思春期の少年だったマリエル様は、君の婚約者だと紹介された相手が5歳の幼児だったことに驚き、号泣されたことに戸惑い、婚約解消はままならないと聞かされてライラ嬢が可哀そうだと心を痛めた。

 その後、ひとまず文通で親交を温めてはどうかという先方の提案に乗る形で、この12年間ひたすら手紙のやり取りを続けているふたりなのだが、その途中でライラ様がマリエル様を女性だと勘違いしていることが判明した。


 文通を始めて1年ほど経った頃、ライラ様が描いたという絵が同封されていた。そこにはお姫様のようなドレスを着たふたりの女児が描かれていたのだが、そこに「らいら」「まりえる」と名前が書かれていたのだ。

 それを見たマリエル様は、名前が女っぽいから女だと勘違いされても仕方ないと笑っていた。


 ここで再び両家による話し合いがなされたのだが、ライラ様はおそらく1年前に会った怖ろしい巨人と文通相手が同一人物だとは思っていない、ならばあの恐怖体験は思い出させないほうがいい、当分このままでいこう! という結論に至ったようだ。

 そしていまだに、ライラ様の輿入れまで残り1年となった現在でもマリエル様は女性のフリをして文通を続けているのだ。


 はっきり言って、ライラ様の家族はモンザーク家に彼女を嫁がせる気などないのではないかと思っている。

 マリエル様の乳兄弟として幼い頃から共に過ごしてきた自分は、彼のことを誰よりもよく知っている。

 体躯があまりにもボス猿であるために見過ごされがちだが、よく見ればマリエル様の顔立ちはお母様似でとても綺麗なのだ。

 それに性格だってまっすぐで、これまでライラ様にきちんと操を立てて女遊びもしたことがない。夫婦になれば彼の良さがわかるはずだし、間違いなく家族を大事にする良き夫になるだろう。

 それにマリエル様の方は、しっかりライラ様への恋心を募らせている。

 国家行事で王都へ行くたびに、遠くの柱の陰からライラ様の成長を確認されては頬を赤らめていた。

 そんなストーカーまがいの気持ち悪い……おっと失礼、健気な我が主の幸せを切に願っている。

 

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