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恋する辺境伯  作者: 時岡継美


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第20話

 グラーツィ伯爵家は、ライラ様の兄であるロエル様を使者としてよこしてきた。

 ロエル様はグラーツィ伯爵の長男で、現在は王都で近衛騎士の小隊長を務めている。いずれは家督を継いで内政に関わる要職に就くだろうと目されている人物だ。

 

 近衛騎士は王族の身辺警護を担当する職業柄、私用での休暇を取りにくい。しかも王都と辺境の距離を考えると早馬を飛ばして来たのだとしても往復で1週間は休まなければならない。

 伯爵家の一大事、あるいは可愛い妹の一大事であるということで無理を押し通して連続休暇を取り、こうして遠路はるばるやって来たことだけでも評価しなくてはならないだろう。


「ロエルお兄様!」

 応接室にやって来たライラ様は、ロエル様の姿を見るや顔をパアっと輝かせて飛びついた。

「ライラ、元気そうじゃないか。母上が心配していたが、こちらで楽しく過ごしているみたいだね」

「はい! みなさんに良くしていただいております」

 おそろいの銀髪を揺らしながら微笑み合う様子が何とも絵になる麗しい兄妹だ。

 

 着痩せするタイプだろうか。ロエル様は騎士のわりにすらっとした体型で、思わずキラキラなロエル様とゴリゴリな我が主を見比べてしまった。



「この度は申し訳ありませんでした。祖父と父が独断でしでかしたこととはいえ、我がグラーツィ伯爵家全体の責任であることは重々承知して反省しております。また最大限の恩情を賜りましたことに感謝申し上げます」

 ロエル様が深々と頭を下げる。

「マリエル様とライラの婚約はこのまま継続し、来年ライラが18になったのを機に結婚という従来の約束通り遂行する運びで何卒よろしくお願いいたします。ライラの輿入れの際の持参金を増額することで今回のお詫びとさせていただきたく存じます」


「顔をお上げください、ロエル殿」

 マリエル様が穏やかな声で告げる。

「ライラ嬢のような愛らしいご令嬢を粗野な猿ばかりの辺境に嫁がせるのは、グラーツィ伯爵としては身を切られるような思いだろうと承知しております」

 

 王都では貴族たちが国境警備隊員たちのことを「粗野な猿」、隊長のことを「ボス猿」と揶揄しているのは、もちろん我々の耳にも入ってきている。

 自虐しているように見せかけて意趣返しをするような高度な真似を我が主が仕掛けたのか否かを判断する前に、それに異を唱える可愛らしい声が響いた。

 

「粗野な猿ではありませんわ。わたくし、マリエル様には子ヤギのような可愛らしい一面があることを発見いたしましたの!」

 得意げにそう言ったライラ様の隣で、マリエル様は意味が分からない様子で首をかしげている。

 ロエル様は、やれやれといった様子で苦笑した。

「妹にはこういう天然なところがあって、我々にとってはいつまでたっても子供のままなのです」

「お兄様ったら! わたくしは天然でも子供でもございません!」

 ライラ様が不満げに頬をぷくっと膨らませる。

 

 いや、だからそういうところですよ。

 そう思いながら口元をニヨニヨさせていたら、目が合ったロエル様に「君にも苦労をかけるね」とでも言いたげな顔をされてしまった。


  ロエル様がモンザーク邸に到着した翌日には、ライラ様を連れて王都へ帰還することとなった。

 休暇の日数がギリギリだからと申し訳なさそうに言うロエル様に向かって、ライラ様はずっと不満を言い続けている。

「わたくし、マリエル様と離れたくありません!」


 そこまで我が主のことを慕ってくれているのならこんなに喜ばしいことはないが、グラーツィ伯爵家にとっては大事な娘を人質に取られたままのような気分になってしまうだろう。


「ライラ」

 マリエル様が優しく声をかけた。

「一旦帰って、ここでどのように過ごしたかご家族に報告してきてくれ。雪が積もったら今度は堂々と遊びに来るといい。一緒に雪だるまを作るんだろう? 春になったら花見をして、夏には一緒に四葉のクローバーを探そう。これまで通り手紙も送るし、私が王都へ赴いた時にはもうかくれんぼはやめて必ず会いに行くから」

 

 そして、跪いたマリエル様がライラ様の手を取った。

「モンザーク辺境伯の名にかけて、そしてひとりの男として、私マリエル・モンザークはあなたのことを一生守り抜き愛し続けることを誓います。あなたが18歳を迎えたら、そこから先の人生は私と共に歩んでくれますか?」


「はい。喜んでお受けいたします」

 アメジストの瞳を潤ませながら晴れやかに笑ったライラ様が、マリエル様に飛びついた。

 マリエル様は片腕をライラ様の背中へと回し、緩く抱きしめる。

 もう片方の腕はもちろん自分の腰に回して激しくつねりあげているところだ。


 まさかの公開プロポーズに、ライラ様を見送りに出ていた警備隊の隊員たちも屋敷の使用人たちもみな顔を真っ赤に染めている。


「ふたりはアツアツのラブラブでとてもお似合いの婚約者同士だから、もう妙な邪魔だてはしないようにと父と祖父によく釘を刺しておきます」

 ロエル様は少々呆れ気味に苦笑していた。

 

 麓の街の門まで愛馬に乗って馬車を先導したマリエル様は、窓から身を乗り出すようにして手を振り続けるライラ様の姿が見えなくなるまで、穏やかな笑顔で見送り続けたのだった。


 

 難攻不落の辺境のボス猿を落とせるのは、銀髪の天使だけ。


 そう言われるようになるのは、もう少し先のこと――。


 

 【完】

 

ここまで読んでくださった皆様、大変ありがとうございました!

これにて本編完結です。

おもしろかったよ!と思ってくださった方は、↓ ☆をポチッと押していただけるとうれしいです。


21時に後日談のSSを投稿して完結となります。


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