おかしな時代
「まったく、もう仕事なんてやめたい。面白みがないんだ!」
「ええ、そうでしょうとも。わかりますよ」
「はぁ……大体ねぇワタシはもっと出来る奴なんですよ!」
俺は仕事終わりにバーに立ち寄るのが好きだ。
こうして隣の席に居合わせた奴と愚痴をこぼし合う。
いや、何なら愚痴を聞くのが好きだ。
俺の趣味を変わっているという奴もいるがこれには訳がある。
「でね、上司が言うんですよ。それじゃ困るって!」
「はい、ええ、はい」
「もっと休んでくれって!」
「ええ、ええ、ささ、どうぞもう一杯」
「作業スピードが速すぎる。もっとペースを落としてくれこれじゃ疑われるってね!」
「そうでしょうとも、さささ」
「まったくやってらんないよ!」
そう言い、奴は酒を一気に流し込んだ。
今夜は中々のペース。体の中で酒が溜まる音が聴こえてくる。
おかしな時代。
多分、今はちょうどいいところを見つけるための擦り合わせの最中なのだろう。
人間によるロボットの破壊、差別、虐待が横行し
彼らにも人権をとの声が高まった。
弱者の味方をすれば票が取れる。そう考えた政治家達はこぞって推進を表明。
その結果、ロボットにも様々な権利が与えられた。
より人間らしく。人工知能に新たに複雑な感情が追加され
彼らは楽しさ、つまらなさを知り、疲れを知り、酒の味を知った。
しかしその結果あれこれ悩み、病む者まで。
働かせすぎれば改造、機能を排除したのではないかとすぐさま企業に監査が入った。
この時代、ロボットから人間らしさを奪うのはご法度なのだ。
俺からすればこうして悩んでくれる方がありがたい。
横で無表情で休みなく淡々と働かれると
こっちが無能だと言われている気分になるのだ。それに……
「いやあ、長々と愚痴を聞かせて申し訳ない。では、ワタシはそろそろ」
「いえいえ、いいんですよ。ところで……」
「ああ、これですか、どうぞ」
俺の視線から察したのかロボットは腹部をパカッと開け
中に溜まった酒を取り出した。愚痴を聞いた報酬だ。
ほらな。まったくおかしな時代だが、楽しみようはあるものさ。