4話
人々が群がる足の隙間から、騒ぎを聞きつけた杉本運転手が、あたふたと店内に到着するのを確認する。
「お嬢様!」
ストーカーに狙われた、か弱い少女を呼ぶ人物の登場に、人々はほっと胸をなでおろす。
そして、今度はその柔らかい視線を鋭利な刃物のように変え、地面に押さえつけられる俺に向ける。
「あの……これは一体…………」
おっさんは俺は囲んでいる警官たちに尋ねる。
「いやあ、本当に危ないところでしたよ。我々が到着する前に、お客さんたちの協力のおかげでストーカー犯を捕まえましてね。
お嬢さんがご無事でなによりです」
警官たちの肩の間から、おっさんは俺の情けない姿を覗く。
「東雲……くん……?」
「犯人はお知り合いでしたか! いやはや、本当にストーカーというものはどこから湧いて出てくるかわからないものでしてね。今回もそのパターンでしたか」
「あ、いや…………」
おっさんの煮え切らない態度に警官や客、店員が首をかしげ、俺はやっとかとため息をつく。
「その人は、犯人ではなく、お嬢様を探していたうちの執事です…………」
「「「「ええ!」」」」
「だから何回も言ったでしょうが!!」
上司らしき警官がうなずき、俺を取り押さえていた勘違い偽善者どもが手を離す。
「はあ…………」
俺はゆっくりと膝を立て、スーツのほこりを払いながら、立ち上がる。
「し、東雲くん……大丈夫?」
「これが大丈夫に見えますかっての! 俺は今まで力づくで地面に組み伏せられながら、カス人間だの、社会のゴミだのって罵倒されまくったんですよ!
心身ともにボロッボロですよ!」
周囲の連中が申し訳なさそうにうなだれる。
俺は正面にいる一番立場の偉そうな警官に向かって、両手をたたく。
「で! な、に、か! 言いたいことは! あ、り、ま、す、かぁあああ~?!!」
「も、申し訳ない…………」
俺は今回の分に加え、今までさんざん警察にコケにされてきた分、思いっきりあおり倒す。
「あのですねえ! 謝って済むんなら、警察はいらないんですよ!
あーでもぉ?! こんなに無能な連中なら、そもそも警察なんていらないですかねぇえええ?!!」
「そもそもぉ?! 僕はあの少女をこんなダメダメ警察しかいないような、腐った世の中から守るためにぃ? 保護しようとしていただけなんですけどねぇええ!!」
「ぐぅっっ」
「おやおや、こんなに正論をぶつけられていながら、贅沢にもぐうの音のぐうはでるんですねぇええ! これはこれは恐れ入りました!
大したご身分のようでぇええ~??」
「その辺にしなさい!」
杉本は警官に名刺を渡すと、俺のスーツを引っ張り、迷惑お嬢様を連れて、退散しようとする。
俺は背中をつかまれて、半ば引きずられるなか、前髪側なのに、後ろ髪をひかれる思いで、店の外に出ても叫び続けた。
「どんなに謝ってもぉおお!
あなた方が僕の体とスーツを地面に押し付けて埃まみれにしてぇ!
この献身的な精神を踏みにじったという事実わぁ!
かっわりませんよぉおおお~??!」
俺は何度頭をはたかれても、やつらが視界にいる限り、訴え続けた。