1話
「イェーーイ!!!」
俺はクルーザーのスピードをさらに上げる。
「お前ら、飲んでるか~?!」
「「「ウェーーイ!!!」」」
サイレンを響かせながら、後ろから警察の船が追ってくる。
しかし俺は全く焦ったりせず、エアーホーンのボタンを連打して、連中をあおる。
ウイスキーを一気にあおって空瓶にし、べそをかいている(元)操縦士の近くに放り投げた。
「ひぃっ!」
瓶が割れ、その若い気弱な操縦士は頭を抱えて、情けなく鼻水を垂らしている。
「はっはっはー! 俺は無敵だぜぇー!!」
俺は五万のサングラスを金色に派手に輝く前髪にのせ、勢いよく舵を切る。
と、ここで船はひっくり返り、今夜のパーティーはお開きとなった。
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「凪、何か言いたいことはあるか?」
「とぅいまて~ん」
俺畳の上であぐらをかき、親父に精いっぱいの謝罪をする。
「今回のことをもみ消して、お前を留置場から出すのにいくらかかると思っている」
「わかりまて~ん」
「お前の欲しがっていた新型のランボルギーニ三台分だ」
「さすがに高すぎるって、買ってくれなかったじゃん…………」
「それがお前のために大金をはたいた親に対する態度か?」
「とぅまて~ん」
「全く、何度問題を起こしたら気が済むんだ。
今月になってから、もう三度も警察の世話になっているんだぞ。
もう今年から高校生にもなったというのに、何たるざまだ。
金遣いも荒すぎる。今回のクルーズでのパーティーだけで、そこら辺の社会人の年収並みだぞ」
「はぁ…………」
俺は思わずため息をつく。いつまで説教垂れているつもりだ、このおっさんは。
これで日本の経済を牛耳る東雲グループの総帥だというのだから、つくづく部下がかわいそうになる。
本当によく動く口だ。ぴーちくぱーちく、ぴーちくぱーちく、まだまだ続く。
「というわけで、お前には一年間この家を出て、働くということの大変さを思い知ってもらう」
「え? いまなんて?」
「言った通りだ。お前は人を駒のように扱ってばかりで、指示される側の者の気持ちがまったくもって理解できていない。
先方には話を通してある。お前にはこれから、我が親愛なる神代グループのご令嬢の執事として働いてもらう!」
「え、え、え、待って待って待って!
高校は?! 家は?! 俺の人を顎で使う華々しい日々はどうなるの!!」
「向こうの家に住み込みで、高校以外の時間は付きっ切りで執事の仕事に励め!
お前はこれから一年間、自分の力だけで生きていくのだ!!」
「無理無理無理無理、無理ですわ! むりぃぃいいいい!!」
「もし一年間、自分から辞めることなく、あちらから仕事をクビにされることもなく完遂できたら、なんでもひとつ、どんなに高くても一台、車を買ってやる!!」
「…………」
「…………」
「言ったね! いくら高くてもいいんだね! 絶対だからね!」
「もちろんだ! 男に二言はない!!」
「やります」