死んだと思った。
「あ。起きた。よかった!一緒に家に帰ろうね」
上から声が聞こえた。
めちゃくちゃデカイ声だな、
あれ。
オレ。いきてんのか?
死んだと思ってた。
目が開いたんだから生きてるんだな。
でも、なんで死んだんだっけ?
視線を感じて、顔を上げてみる。
この女は誰なんだろ。
でかく見えるな。
そういえば、
毎日、毎日お腹空いて。
雨に濡れて。
寒くても、暑くても
それが当たり前だと思っていたような。
どっかで長いこと寝てたような気がするのに。
ここはどこなんだろ。
なんだか暖かいし。気持ちいい。
頭も体も軽い気がする。
「先生。この子元気になってよかったです。
ありがとうございます。」
女に先生と呼ばれた男は、オレの頭らへんから体にかけて
撫でながら返事をした。
「高田さんが見つけて保護してくれたから
助けることが出来ましたよ。その上、引き取って
頂けるなんて。この子はとてもラッキーだ。
強く生きるんだぞ?」
男は、オレの顔をきゅっと掴んで
自分の鼻とオレの鼻をくっつけた。
げげ。
ちょっと。
止めて欲しい。おっさんと鼻擦るとか
結構きついっしょ。
頭をぶるぶる振る。
思ったよりも勢いよく振れたな。
なんなんだ。
この状況は。
てか、男の手がデカイ気がする。
オレの体を撫でてるけど。
気持ちいいけどね。何て言うの?不思議なんだよな。
この二人、話してるのが結構上の方でさ。
何かデカイ。やっぱりデカイよ。
オレ、どーなってるんだろう。
うつ伏せ?なのかな?自分の体制もよくわかんねーや。
それよりも、聞いてみるか。
声。出るかな。
出してみるか。
「みゃー」(あの、ここはどこですか?)
みゃー?猫でもいんのか?
キョロキョロ回りを見回すが何も居ない。
ってか、周りのものが全部デカイ気がする。
「あ!カワイー鳴いた」
女はオレを見てる。
何がどうなってんだ?
「高田さん。」
男が話し始めた。
「この子、多分13才越えてるかもしれないですね。
大分おじいちゃんです。
4~5年で看取ることになるかもしれませんね。」
なんの話だ。
「そうですね。おじいちゃんですね。」
返事をした女を見ると
なんか、ピンと来た。
この女は、どこかで見たことがあるんだよな。
どこだっけ?
「でも、縁があって出会ったと思うんです。
私のマンションペット可だし。私も一人で寂しいし。
最後までお世話します。
先生、これからも宜しくお願いします。」
考えてたら、急な浮遊感にびっくりした。
体を反転さして、しがみついた。
なんとびっくり。
さっきの女に抱かれてる!
え?
良いの?こんなの
「わー!大人しい子!」
女にも頭を撫でられた。
抱き抱えられて、どこかに向かう。
廊下の様なところを歩いていく。
高さがハンパない。
でも、不思議と怖さはないんだよ。
いける高さだ。と不思議な感覚がある。
廊下に、鏡が掛かっていた。
そこで女が立ち止まる。
女とオレが鏡に映ったんだ。
「みゃっ」(え?!)
「あ、鏡かな?びっくりしたの?」
「みゃー?!みゃー?!」(なにこれ?!オレどこなの?!)
みゃーみゃー鳴いてるのはオレが抱かれているはずの
女の腕にいる猫だ。
え?!オレ鏡に映ってなくない?
「みゃーみゃー」(どう言うことですか?オレは。。)
何度見てもオレが喋ると猫が鳴く。
えー?
オレ
猫なの?
「気が済んだかな?鏡好きなんだね。」
女がオレの頭を撫でながら言った。
いやいや好きじゃねーし。
気が済むとか無い。落胆してんだよ。
猫なの?オレ。
猫なの?
まぢか。
「イイコね。一緒に帰ろうね。」
女はどこかに向かって歩き出した。
オレを抱いたまま。
でも、そんなことに構っていられない。
なぜなら。。。
オレは、現実を受け入れるのに時間が掛かってしまった。
当たり前だよな?
猫だよ?
喋れないし。
猫って何すんだろ。
オレ、多分人間だったと思うんだけど。
急に?急に猫とかあるの?
まいった。こんなのってありかな?
オレ、人間の時そんな何かしたのかな?
思い出せない。
そんなこんなで、悶々としていたら
女の家に着いたようだった。
「さー!お家だよー!君が元気になるまでに
色々揃えておいたんだけど!気に入ってくれるかな?」
と下ろされたのは。
なんだ?
上まで登れる。
俗に言う。キャットタワーだな。
バカにしてんのか?オレは元人間だし。こんなの。
こんなのさ。
こんなの。別に。
と思っていたのに。
気がついたら、オレの下半身力が入ってきた。
飛べるな。行けるよ。
てか、むしろ行きたい。高いところに登りたい。
ヤバい!テンション上がって上がって
えい。
ほら、余裕。
どうよ。オレ。まだまだ行けるよ。
と、どや顔。
「わー!スゴいね!おじいちゃんなのに
良かったよー組み立てるの8時間位かかったんだからね?
沢山使ってね?」
え?8時間?
マヂですみません。
てか、上から見てみると。
部屋がヤバいだろう。
散らかってんなー。
汚部屋ってやつだな。
「あー。疲れたー。外でるの疲れるんだよね。
でも、これからは、君と引きこもれるね!
一人じゃないし。楽しいな!
あ!?名前ね決めないとなー。
何がイーかなー?
んー?」
お?オレの名前ね!
かっこいいの頼むよ。
てか、人間の時の名前なんだったかな?
記憶が何もないよ。
異世界転生とかよくあるけどさ、
案外自分の事って結構覚えてるもんじゃんね。
なんでオレこんなに思い出せないんだろ。
ま、いーや。とりあえず名前
格好いいのがイーな。
猫だけど
タイガとかさ レオとか
格好いいじゃん?
女はオレの顔をジーッと見て言った。
「団子かな?」
え?
団子?って餅のやつ?嫌だよ。首をぶるぶるっと振った。
「あれ?嫌なの?じゃーね。
んーと。みたらしかなー?」
いやいや。団子の種類じゃん。辞めて。
ぶるぶるっとまた首を振った。
「えー?ワガママだなぁ!んもぅ。
じゃーね。白玉。」
あ。もちもちしたのが好きなのね。
オレ、白くないからどっちかって言ったら。
おは…
「白くないから、やっぱりおはぎにしよう!決まり!」
やっぱり。
もー、仕方ない。それ以外出てこないんでしょ。
何なんだよ。オレの名前おはぎかよ。
「おはぎ!カワイーな。大好き!」
ピピピピピ
ピピピピピピピピピピピピピピピピ
何だ?デカイ音!耳ヤバい
めっちゃ聞こえる
「あれ?なんで今目覚ましなるのかなー?
あれ?目覚ましどこだろ?んー?」
ピピピピピピピピピピピピピ
ピピピピピピピピピピピ
いやいや探す気あんの?
めっちゃうるせーし。
とんちんかんなとこ探してるし
ダメだわ耐えられないうるささ
オレは、キャットタワーから華麗にジャンプして降りた。
音のなるところに向かっていき、目覚ましを咥えて
女の前に持っていった。
女は、オレと咥えている目覚ましを交互に見て言った。
「え?おはぎ?
スゴいね?凄過ぎるね?えー?めっちゃ助かった」
女は目覚ましを止めてから
オレを抱いて頭を撫でてくれた。
んーーーー。
悪くない。
でもさ。目覚まし。片付けとけよ。全く。
この汚部屋といい。この子なんか…。
「あ!おはぎ!ご飯にしよう。買っておいたんだよ!
これね。」
お皿も得意気に出してきてくれた。
おぉ、ありがたい!
腹減ってたと思う。
「さぁさぁ、お楽しみの…
あ!?」
女は袋を開けようと力を入れながら、
パッケージの文字を読む。
いやいや。オレも気づいてたよ。
思いっきり、犬の写真じゃねーか。
それ、犬のだろ?
オレ、猫ね。
女は、びっくりしたんだろーね。
犬用のドッグフードだったことでね。
「えー?!ドッグフードなのー?」
と言いながら。思いっきり尻餅付きながら袋を引っ張ったんだ。
その勢いで、ドッグフードがバラバラバラと
音を立てて飛び散った。
一瞬の出来事。
ぶふふふ
人間だったら、笑ってるよ。
でも、今のオレは猫だからか。
匂いが、ドッグフードの匂いが鼻について。
これ旨そうって。ヤバい。
飛び散ったのも気になってソワソワするし
遠くに飛んでったのから、追いかけては食べて
追いかけては食べて
ヤバい。本能だわ。オレ今猫だわ。
猫なんだな。
オレが夢中になって食べてる横で、
女はドッグフードを拾い集めたり。
袋をテープで直したり。
あぁだこうだ言いながら。
なんでドッグフードなのか。ショックを受けている様子。
良いよ。旨いから。
喋れたら、そう言ってやれるのにな。
「私ってなにやってもダメだな。ごめんね。おはぎ」
気なすんな。
でも、何か今の台詞は聞いたことがある。
オレが人間だった時に誰かがそう言っていた気がする。
その後、女が寝るまでの間。
水出しっぱなしだったり、スマホ無くしたり。
リモコン見つからなかったり、色々あって。
その都度、助けてやった。
オレも疲れた。
だから、女のベットで一緒に寝たんだ。
悪いかなって思ったけど。
女もオレを呼ぶし、どうせオレ猫だしね。
寝る前に女はオレに言ったんだ。
「おはぎ沢山助けてくれたね。ありがとう。
私ってダメダメだからね。おはぎのお陰で
生きていけそうだよ。
お休み。また、明日ね。」
何とか、猫一日目が終るんだな。
オレもなんとか、この残念な飼い主によって救われた。
これから、どうなるのかわかんないけど
とりあえず、寝るか。
明日、人間に戻ってます様に。