第32話 英雄を、聖女を守る為に。そして
「なっ……隕石だって……!?」
エキナの話によると、兄貴は得意の予知で世界中に大量の隕石が堕ちてくると言う。
遥か上空に浮かぶ青い月が、強烈な引力を持っており、その影響らしい。
「とにかく兄貴の所に戻るぞ!」
「うん!」
「はい!」
隕石も問題だが、あの月ももうすぐ魔力を解放してしまう。
俺は枝に巻き付かれている高坂を、魔力で精製した剣で切り離す。
彼女を抱えて急いで地上へと戻ると、京都タワーの下に、兄貴やレオン達、皆が集まっていた。
ん……?何やら見覚えの無い連中も居るぞ……?
「夕!」
皆が集まっている輪の中から、兄貴が一歩踏み出した。
俺はさっきの話を念の為に確認する。
「兄貴!隕石が堕ちてくるって本当か!?」
兄貴は首を縦に振り、焦っている俺とは反対にニヤっと笑った。
「あぁ間違いない。だけどね、安心しろ」
後ろを振り向いた兄貴は、見覚えのない彼らの紹介をしてくれた。
「夕が出て行った後、世界中を巡って生きていた彼らに集まって貰ったんだ。彼らは──」
「爺や!!」
「お久しぶりですな姫様」
兄貴の言葉を遮って、俺の隣に居たルークが飛び出した。
まさか、ここに居るのって!
「……やれやれ。そう、僕の転移で集めたのは魔族だよ」
「マジか……!」
これは凄い戦力だ……!
ルークの話に聞いていた、赤いツノと青いツノを生やした双子や、ゲンヤって名前だったか?ルークが嫌っていた奴まで居る。
ざっと50人くらいか?
双子が俺の所に来て、呆気に取られた顔をしている。
「驚いた、本当にマーネそっくり」
「思い出すわね。あの激しい日々を……」
「ユウ!?さっそく浮気!?」
「ちげーよ!お前はそっちで爺さんと話しとけよ!」
いや待て、話してる時間なんか無いぞ……!?
月の魔力が今にも解放されちまう!
「おいっ!皆悠長にしてる暇無いぞ!?上見ろ上!」
焦る俺を他所に、ルークやエキナを除いた全員が俺を見て笑う。
「……本当に懐かしいですな、英雄殿。ようやく貴殿に恩を返せます」
「じ、爺さん!何を──」
ルークが爺やと呼ぶ彼は、月に両手を掲げ、それに倣うように他の魔族も手を上げた。
「お、おい、お前らどうするつもりだ!?」
「かつて、我々魔族は皇帝の放った魔力で殺されました。それを救って下さったのが先代聖女様です。そこにおられるお嬢様と、少し雰囲気が似ていらっしゃる」
「そ、それが今何の関係が──」
爺さんに見られたエキナも、逼迫したこの状況に冷や汗を流している。
本当にどうするつもりなんだ!?
さっさと俺が真祖の槍で、月を破壊する方がよっぽどマシなんじゃないか?
……魔力の残量が怪しいけどな。
だが、爺さんは焦る事なく、俺の疑問に答えてくれた。
「我々魔族は、研鑽を高めてきました。次に生まれてくる英雄を、聖女を守る為に。そして、姫様を二度と悲しませない為に──」
魔族の全員が同時に、呪文を口にした。
『ワールドウォール!!』
瞬間、青白い光の粒が上空へ導かれ、空を覆っていく。
それは止めどなく広がっていき、俺の魔力探知では、地球丸ごとを包んでいるようだ。
ルークとエキナがそれを見て、感嘆の声を上げている。
「キレイ……」
「凄いですね。これならあの月の魔力も受け止めてくれそうです」
だが、それをルークが否定した。
「ううん、あれだけじゃダメだと思う。たぶん一撃で消されちゃう」
「え、一撃を止めるんじゃ無いんですか?」
俺がルークの代わりに続いた。
「あの攻撃には2射目があるんだ。それも、飛びっきり強力な」
「そ、そうなんですか……!?」
俺達の会話に、先程の双子の赤ヅノの方が無表情に口を挟む。
「大丈夫。二発目も耐えれる──」
「本当か……!?」
そして、青ヅノの方が続く。
「魔族を舐めないで!!」
月の輝きが一層強くなり、いよいよ遠い宇宙から、青い閃光が地球全土目掛けて堕ちてくる。
青白い光の粒達と、月から放たれた閃光がぶつかり合う。
少しずつ粒子が削れ、段々と青い閃光もその勢いを落としていった。
上空を見上げ、オリウスがうやうやしく声を上げた。
「……いけるんじゃないかい……!」
ばかっお前それフラグ──
『た、大変!これ、200年前のより威力が強い!!』
「や、やっぱりか!」
双子らしくユニゾンをかましてるなぁ……
って、そりゃそうだ!
丸ごと200年分の魔力が全て集まってるんだからな!
だがどうやら青い閃光は止められそうだ。
なら俺が2射目を止める!
「皆離れろ!俺が何とかする!」
しかし、それをルークが止める。
「ユウ、魔力残ってるの?随分減ってるでしょ」
……確かに高坂に魔力を流したり、ソウル・バニシングを使ったりと、かなり魔力が減っている。
特にソウル・バニシングは、マジで半端ない消費だった……出来れば二度と使いたくない。
だけど、今やらないと……!
「少しくらい抵抗は出来る!だから後は頼──」
「……血、吸っていいヨ」
「え……?」
ルークがモジモジしながら、頬を赤くしている。
そして、横に居るエキナも俺に一歩近付いた。
「ユウ君、私のも吸って下さい!」
「い、いや……でも皆が見てる……」
ほら、皆が生暖かい顔でこっちを見てるじゃないか!!
「悩んでる時間は無いヨ!早く!!」
「ユウ君!!」
くそっ!やるしかないのか!?
「もーー!皆目と耳を塞げよーーー!!」
ルークとエキナは同じタイミングで、同じように服の首もとを緩めた。
綺麗な首筋を露にし、俺の正面から2人が抱き付いてくる。
「ユウ……急いで……」
「どっちからでも構いませんから……!」
ドクン、と心臓が跳ねた。
視界が赤く染まっていき、喉が乾いていく。
「優しくしてる暇は無いからな、覚悟しろよ2人共」
俺はルークとエキナを優しく抱き締め、吸血鬼特有の牙を剥き出しにした──
お読み下さりありがとうございます!
少々更新が不安定になってしまいすみません。
ですが必ず完結させて頂きますので、ぜひ最後までお付き合い下さいませ!




