第27話 これは史上最悪の
「エキナ!!起きてくれエキナ!!!」
「……ユ……く……ん……?」
「悪い!起きてくれ!!」
兄貴がいきなりボロボロで現れてから、急いで部屋に戻ると、エキナとルークは既に眠っていた。
当然だ。もう日付も変わっており、今日はこっちの世界に来たりして大変だったからな。
だけど事態は急を要する。
て言うか、さっきからエキナの体を揺さぶってるというのに、全然起きてくれないんだけど!?
「エキナーー!!」
俺は一緒のベッドで横になっているルークを踏まないように、エキナの体の上に乗っかった。
……馬乗り……これ、誤解されそうだな。
だが今は仕方ない!!
俺はエキナの全身を、脳震盪が起きるかも知れない勢いで揺さぶった。
エキナには悪いけど、何かあったら自分で治せるだろうし、なんなら俺もそれくらいなら治せる。
「エキナーーー!!起きてくれーーーーー!!」
「ひゃい……起きました……ユウ君のエキナが起きましたよ……」
「お、おぉ……寝起きで悪いけど大変なんだ!こっちに来てくれ!!」
エキナは口では起きたと言ってるが、体は寝たままだ。
なので、エキナの頭の横に手を付いて、顔を近付て覚醒を促した。
すると──
「……ユ、ユウ君……寝込みを襲いに来たんですか……!?強引なのもいいですけど……心の準備が……」
「あーもう!!寝ぼけてる場合じゃないんだって!!」
鼻と鼻が触れあう距離で話していた為、変な勘違いをされてしまった。
そして、最悪のタイミングで奴が目覚める。
「ユウ……?何回言えば解るの……?初めてはあたしとしてって言ってるよネ……?」
「ル、ルーク!!待て、本当にこんな事やってる場合じゃないんだ!!」
最近のルークは、怒りがピークに達すると、目を充血させながら、開ける限界まで見1開いて視線を向けてくる。
……これの怖いのなんのって……
くそっ、こうなりゃ強行突破だ……!
「エキナ、悪いが無理矢理連れてくぞ!!」
「ひゃう!?」
「あ、こら待ちなさいユウーー!!」
仕方ないので、エキナを抱えて俺は部屋を出た。
パジャマ姿のエキナはやけに良い匂いがして、ドキドキした。
……同じくパジャマ姿のルークが、後ろから追い掛けてくるから、そっちのドキドキかも知れんが。
兄貴が倒れているライネルさんの部屋の前に着き、開けっ放しにしてたドアを通る。
「ライネルさん!エキナを連れて来ました!少し離れてましょう!!」
「遅いぞ!もう息が……!」
「すみません!エキナ、兄貴が死にそうなんだ。治してやってくれないか!?」
「え、これどういう……!?と、とにかく学園長を治すんですね。分かりました!」
エキナを降ろし、そのまま治療に入って貰った。
遅れてやって来たルークも、この光景を見て驚いている。
「こらーユウーー!!エキナと何するつも──え、どしたのアデラート!?」
そうだ、丁度良い。
他の皆にも何があったか知って貰う為にも起こしに行くか。
「ルーク!皆を起こしに行こう!俺も何があったかまだ分かっていないし、兄貴ならエキナが居ればすぐ目覚めるだろう。話を聞くなら皆で聞こう!」
「わ、分かった!」
俺とルークは、現場をライネルさんとエキナに任せ、皆を起こしに部屋を出た。
エキナと違って、皆すぐに起きてくれたのが救いだったな。
少々狭いが、ライネルさんの部屋に全員が集まると、既に兄貴も目を覚ましていた。
さすがエキナだ。
ゆっくりと体を起こした兄貴は、この場にいる全員に、何があったのかを語り始めた。
※
「……皆驚かせてすまないね……エキナ君、ありがとう……さて、どう言ったものか……」
兄貴はエキナが治してくれた左腕の感触を確かめながら、ベッドに腰を掛ける。
「最初……皆と別れた後、僕は世界中を見て回ったんだ。僕もここが故郷だし、生前世界を回った経験が役に立ったよ」
「あー……お前一回世界一周とかやってたな」
「おかげで転移の座標をきちんと取れて良かったよ」
兄貴は既に自分がこっちの世界の出身である事を明かしていた為、皆も今の会話に疑問は呈さなかった。
「世界を巡る内、僕はある事に気付いたんだ」
「ある事って?」
ルークが腕を組みながら問う。
兄貴もルークの顔を見ながら答えた。
「死体がね、世界中に沢山転がっているんだ。きっと、この世界に来る時に運悪く車に牽かれたり、崖から落ちたりしたんだろう……」
俺達がこの世界に来てすぐにそうであったようにか……
兄貴はそのまま話を続ける。
「夕、地球の何パーセントが海に覆われているか覚えているかい?」
不意にそんな事を聞かれたものだから、少し思い出すのに時間が掛かったが、きちんと答える事は出来た。
「ん……確か70パーセントくらいだったか?」
「そうだ。つまりだ、この世界に来た時にこの7割のハズレを引いた者は即、海中に沈んで行った」
『!!』
「あちらの世界の人間は水辺の近くにでも住んでいない限り、泳ぎなんて知らない。知ってたしても……例えば太平洋のど真ん中から、泳いで陸を目指すなんて……」
「……不可能に近い話だな……どこに陸があるかも分からないだろうし……」
なんて事だ、高坂が引き起こしたこの異常事態のせいで、多くの死者が出ている……!
「これは史上最悪の大量殺人だよ。しかもこれと同じ事があちらの世界でも起こってるだろう」
「そうだ、しかもあっちにはモンスターだって……!」
「……まぁ、考えてもどうしようも無いけどね。僕達に出来るのは──」
兄貴が言わんとしている事はすぐに分かった。
……分かってしまった。
「──女皇を殺し、世界を元に戻す事だけさ」
「……高坂を殺す事は無いだろ……」
「……本気で言ってるのかい?例え日本の法律でも彼女は死刑を下されるだろう。夕、彼女の命は諦めろ」
「お、お前の私怨だろう!?最初から高坂を殺そうとしていたじゃないか!!」
そうだ、兄貴は最初から"聖職者達"の女皇を殺そうとしていた。
こいつは"聖職者達"を異常に憎んでいる面があるのを知ってる。
そんな奴に──
「ユー君、悪いけれどこんな事件を引き起こした人間を生かしておく事は出来ないわよ」
「レインさんまで……!!」
──この場で、高坂を生かしたいと思っていのは俺だけだった。
「ユウ、そんなにあの高坂って女が大事なの……」
「ルーク……あいつは……高坂は、優しい女の子なんだ。皆があいつを殺すって言うなら──」
「ユウ君!駄目です!!」
俺は、窓の外から見える聖樹を見据えた。
「今すぐ高坂を説得して世界を戻してやる!死んだ奴も、聖女の力で全員生き返らせてやる!!」
それなら文句は無いだろう!
そう思い立ち、俺は精霊化をし翼を広げ、部屋の窓に足を掛けた。
「戻るんだ夕!!聖樹に触れただけで、腕を持っていかれたんだぞ!!」
「兄貴……あの結果を無理矢理抜けて、聖樹に触ったのか。でも高坂に招かれてる俺ならあいつに会えるかも知れない。じゃあな──」
そのまま俺は部屋を飛び出した。
エキナの叫び声が後ろから聞こえるが、俺は振り返らず空を舞った。
「ユウ君ーーーーーー!!!」
エキナの叫びは、俺の頭に重く響いた。
レオンや、皆の声もエキナの後に続いているのに気付いたが、戻る訳にはいかない。
唯一、ルークの声だけは聞こえて来なかった──
お読み下さりありがとうございます!
昨日は更新をお休みしてしまい申し訳ありませんm(_ _)m
また次回も楽しんで頂ければ幸いです!




