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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
異世界吸血鬼は世界欺く初恋少女を紡ぎたい。

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第26話 もしもの話


 国王との交渉を終え、俺とレオンは2人で10階にある、それぞれの自室へと向かっている最中だ。


 ……今の部分だけを聞いた人は、何か会議でもしてたのかと、勘違いしてくれそうだな。


 オリウスは少し外の空気を吸いたいと言ったので、俺達とは一旦別れる事となった。

 そう言えば、あいつは俺達と話している時も、ずーーーっとディセートの写真を見て頬を緩めていたよ。


「にしても、俺達はこんな所まで来て何をやってんだろうな……」

「お前が言い出しっぺだろうが」

「んだよ、ユウだってノリノリだったろ?」

「……まぁ否定はしないけど……」

「ったく、ルークちゃんのが上手く撮れなかったからって拗ねるなよ」

「そ、そんなんじゃねぇよ!」

「はいはい、いい加減素直になってさっさと結婚でもしちまえよなー」

「うるせっ」


 軽口を言い合いながらも、エレベーターに乗り、10階へ着いたので、俺とレオンも別れようとした時だった。


「リレミト伯爵、少しいいかい?」

「あ、ライネルさん」


 エレベーターのドアが開くと、近くの椅子に座っていた、ライネルさんに呼び止められた。


 こんな所でどうしたんだ?俺を待っていたのだろうか?


 俺は隣に居るレオンに断りを入れ、ライネルさんの用事を聞くことにした。


「レオン、悪い」

「おう。ウィーネ侯爵も、失礼します」

「すまないね」


 レオンは軽く挨拶をした後、お一人様の自室へと戻って行った。


「さてリレミト伯爵、私の部屋に来て貰ってもいいかな?」

「え、えぇ。構いませんよ」


 時刻は既に23時を迎えようとしており、あまり長話をするつもりでは無いと思うのだが……

 

 正直、ライネルさんと2人きりというのは、あまり気が進まない。


 俺はこの人の大事な娘さんを、目の前に居ながら死なせてしまった。

 ライネルさん自身は、葬儀の際、俺に責任は無いと言ってくれてはいる。

 ……本当に、凄まじい胆力の持ち主だ。


 でも、あれは俺の弱さが招いてしまった事だし、だからこそ必ず俺はメリア先輩を甦らせる。

 

 今俺の中にある聖女の力を使えばそれが可能だ。

 俺の命と引き換えになってしまうから、それはエキナに頼むつもりだけどな。

 

 その為にも、早く俺達はあの世界に帰らなければならない──


「……爵」

「……え?」

「リレミト伯爵、どうしたんだいぼーっとして。さすがの君もこの異常事態にお疲れかい?」

「あ、いえすみません大丈夫です」


 しまった、少々考え込んでしまったな。


 ライネルさんの部屋に入った俺は、ベッドに座る彼の向かいにある椅子に、腰掛けさせて貰った。


「さてと、私が君を呼んだのはね、少しゆっくり話がしたかったからなんだ」

「……一体どんな……?」

「……アデラート学園長から聞いたんだよ、君がメリアを甦らせようとしているとね」

「!」


 兄貴……余計な事を……

 だがあいつのことだから、ライネルさんに伝えた方が、良い未来に繋がってるって事なのかも知れない。


 俺は、素直に首を縦に振った。


「……まだ確実に成功するとまでは言いきれなかったので伝える事が出来ませんでした。すみません……」

「気にするな。私も君と同じ立場ならそうするさ」

「……すみません……」


 俺はライネルさんに少し頭を下げた後、彼の言葉の続きを待った。


「アデラート学園長は、未来予知でこの事態が視えた瞬間、転移を使って私達だけは集められたんだ、その時に聞いてね」

「あ、あぁだから皆さんは兄貴と一緒に……」

「家が近い者と身分の高い者を必死で集められる範囲で集めみたいだ。全く、凄い兄弟だな」

「はは……」


 そう言われれば、確かに俺達兄弟は凄まじい力を得ているな……

 兄貴は未来予知に恐ろしい精度の転移魔法。

 そして俺は、伝説の吸血姫の力に、精霊と聖女の力まで……どうしてこうなったんだろうな本当。


 ライネルさんは、目線を外しながら笑う俺に、真剣な顔をして口を開いた。


「それでなんだがね……」

「? はい」

「君に、頼みがあるんだ」


 言いながら、ライネルさんはベッドから立ち上がり、さっきの俺よりも深く頭を下げた。


「どうか、メリアを甦らせる事が出来たら、あの子を妻に貰ってやって欲しい」

「え……!?」

「……こんな事を言ったと知られたら、あの子に怒られるかもしれないけどね──どうか頼む」

「い、いや、そんな事を言われても俺は──」


 俺は、先輩を守れなかった男だ……

 そんな俺が、ライネルさんの大事な娘さんを貰う訳にはいかない……


 ライネルさんは頭を上げ、俺の顔を苦笑しながら見ている。


「……あの子が居なくなってから、私達夫婦はあまり会話をする事が無くてね。だけど、この世界に来て君と行動を共にしてから、あいつが笑顔を見せてくれるようになってきたんだ」


 今日の食事を始める前にも、確かに笑ってくれていたな。

 ……それと、温泉でも。これは死んでもライネルさんに言えないが。


「メリアが愛した君に、あったかも知れない幸福な未来を見ているのかも知れない」


 俺と先輩が、幸せに暮らす未来か──

 それはどれ程幸せな未来だろうか。


 だけど、あったかも知れない未来を奪ったのも俺だ。

 この申し出を受ける訳には──


「リレミト伯爵──いや、ユウ(・・)。君があの子の死にずっと責任を感じているのは見れば分かる。ならばもう、責任を取ってあの子を今度こそ幸せにしてやってくれ」

「ず、ずるくないですか……その言い方は……」

「そんな事は無いだろう。それに気が早すぎる話だし、もしもだよ」

「もしもの話にはしませんよ……絶対」

「……あぁ、期待しているよ」


 ライネルさんは、モヤが晴れたように笑うと、俺に手を差し伸べてきた。

 俺もそれを受け取り、ゆっくりと立ち上がった。


「君には本当に多くの感情を持って複雑だが、娘の事をこれ程想ってくれる男もそう居ないな」

「……それ程長い付き合いじゃ無いんですけどね」

「想いの深さは時間の長さと比例しないさ。大事なのは君という男の器だよ」

「器、ですか……?」

「そうだ。君の器には、メリアが君に注いだ全てが一つも溢れず収まっている。それが大事なんだよ」

「……俺は、一度先輩の願いを踏みにじったのにですか……?」


 "聖職者達"の一人、キングと呼ばれた男を、俺は自らの憎悪に任せて殺した。

 それは先輩の想いと反する行動だった筈だ。

 それでもライネルさんは俺を……?


「溢れた想いを、君の大事な人達が掬ってくれたんだろう?見ていれば分かるよ。そんな人達に囲まれている君だから頼むんだ」

「……ライネルさん……」


 頭に浮かんだのは、ルークとエキナ顔だった。


「ただね、君に対して怒りがあるのは否定しない。未だどうしてメリアを守ってやれなかったと、思わない日はない」

「……」

「約束してくれ、もう二度とあの子を失わないでくれ。私達の英雄で居てくれ……!」


 俺の肩に置かれた手は、熱く重い。


「……全ては、あの子とまた会えてからの話だけどね」

「これだけは絶対やり遂げます……!」

「ありがとう……そうだ、あの子ともう一度会えたら──」

「……?」


 ライネルさんは、俺の肩に置いていた手をどけ、拳をパンっと自らの手のひらに打ち付けた。


「──1発だけ、思いっきり君の顔面を殴ってやるから覚悟しろ!!」

「……楽しみにしてます」

「私もだっ!!」


 今日一番の笑顔を見せたライネルさんは、そのままベッドへと背中から寝転がった。


「長くなってすまないね、話はこれだけだ」

「……分かりました。それじゃ俺も──」


 俺がライネルさんの部屋を出ようと、足をドアへ向けた時だ。


「っ!?」

「こ、これは、転移の魔法陣かい!?」

「兄貴か……!?」


 俺とライネルさんの丁度中間地点で、人一人分の魔法陣が浮かび上がると、予想通り姿を現したのは兄貴だった。


 だが、現れた兄貴は床へと崩れ落ちてしまう。


「お、おい!?」


 すぐに頭を抱え上げ、全身を見ると、兄貴の着ていたスーツがぼろぼろになっており、左腕の肘から先が無くなっている。


「あ、兄貴!?一体何が!?」

「……ゆ……夕……気を付けろ……女皇は……お前を……っ……」


 兄貴は一瞬意識を取り戻したが、何かを言い掛けてすぐにまた眠ってしまった。


「おい!くそっ!!ライネルさん、エキナを呼んで来ます!!兄貴を頼んでもいいですか!?」

「あぁ、すぐに行ってやってくれ!」

「ありがとうございます!!」


 俺の制御しきれていない聖女の力を使う訳にはいかず、慌ててエキナを呼びに行く為、部屋を出た。


 あの兄貴がここまでやられるなんて……一体何があったって言うんだよ!?

お読み下さりありがとうございます!

また次回もよろしくお願い致します!

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