第24話 乾杯
「ねぇユウ」
「どうした?」
ホテル2階にある調理師室で俺とルーク、そしてエキナの3人で、皆の飯の準備をしている最中、ふとルークに呼び止められた。
ちなみに、俺とエキナはサイドメニュー担当。
ルークがメイン料理担当だ。
「あのさ、気になってたんだケド、アデラートの事兄貴って呼んでたよネ?どういう事?」
「あ、それ私も気になってました」
あーそう言えばまだ言って無かったっけ。
俺は本来ディナーで出す予定だったであろう、サラダの盛り付けをしながら2人に答えた。
「こっちの世界に居た頃、俺には兄貴が居たんだ。それがまさかのアデラートだったんだ」
「す、凄い偶然ですね……」
「へぇ……ん?待って。じゃあユウと子供が出来たらアデラートの血も継いでるの……!?」
「あー……まぁそんな時が来ればそうだな」
「う、うそでしょ……!?……ユウとの子供は欲しい……でも……うぅ~~~……!!」
お前は何に頭を抱えてるんだ何に。
「ユウ君!私はそんな事気にしませんよ!」
「何のアピールだよ。お前ら、飯の準備に集中しなさい!」
『はーい!』
ったく。
しかし、ルークやエキナとの子供か……
母親似の女の子だったら、きっと世界一可愛い子供で、俺似の男の子だったら、すげぇクソガキになんだろうなぁ──
「ユウ、なにニヤニヤしてるの?」
「……おっと」
「ルーク、そんなの聞かなくても分かりますよ。きっと私達との子供の事を──」
「エキナ、パンツ見えてるぞ」
「ひぇっ!?って、嘘じゃないですか!スカート翻って無いですし!」
「さぁほら、パッパ終わらせようぜ!」
「……流したねユウ」
要らんこと言うなよ。
いつものくだらないやり取りをしつつも、テキパキと食事の用意を終えた。
1時間足らずじゃ誰も温泉へは行っていなかったので、全員揃って食事を取る事となった。
皆エレベーターの使い方を覚えてくれたみたいで、エキナが呼びに行くと、ぞろぞろと自分達でディナー会場へやって来た。
テーブルにはちゃんと全員分用意した料理が並ぶ。
それを見て、レオンが深く感心している。
「へぇ、旨そうだな!ユウの故郷の味って奴が楽しみだな!」
「まぁあっちの世界でも食べれるメニューだけど」
2階のディナー会場は、ビュッフェスタイルの為かなりの広さだったが、全員が同じ縦長の団体席に座る。
ビュッフェを用意する余裕は無かったので、献立は白米に味噌汁、ハンバーグにサラダという家庭的な食事となった。
国王やレインさん達貴族方には、所謂上座へと行って頂く気配りも勿論忘れない。
なのだが……
「ユウ・ジル・リレミト伯爵、何をしている?貴殿の席はこっちだ」
「え?」
国王陛下が俺に長テーブルの上座を譲りやがった!?
「い、いやおかしいでしょ?俺一般人ですし……」
「何を言ってる。貴殿は我が国の英雄だぞ?それにここは異世界、今現在において身分は関係無い、治外法権というやつだ」
「それ、使い方違うでしょ……」
「合っている。私は王だぞ言う事を聞け」
こいつ、無茶苦茶言ってるの気付いてるか?
俺が国王を睨んでいると、オリウスまでも同調してくる。
「リレミト伯爵、父上の言う事は絶対だよ?」
「ニヤニヤしながら言ってんじゃねぇよ……あーもう分かったよ!」
俺は出入口から一番遠い席へ、どすんと音を立てて座ってやった。
「ユー君、さぁ乾杯の音頭を」
「レインさんまで……普通貴女達王族の役目でしょう……?」
「あら、レイちゃんと呼ばない貴方に拒否権は無いわ」
「……この年増が……」
「何かしら?」
止めて、その笑顔超怖いです。
俺が懸命に嫌そうな顔をしていると、今度はディセートが指を差して来た。
「ユウ・ジル・リレミト、早くして下さいまし。せっかくの異国の料理が冷めてしまいますわ」
「金髪縦ロール、お前の事は何だかんだ良い奴だと思っていたのにっ──」
ひぃ!?ディセートのご両親が俺を真顔で見ている!?
お願い!瞬きして!?
「ほらユウ、さっさとしなって」
「そうですよユウ君!」
「お前らまで……」
……俺は渋々ワイングラスを持って立ち上がった。
ちなみに目の前にはルーク、隣にはエキナが居る。
後は皆あちらの世界での序列通りだ。
国王、レインさん、オリウスにディセート一家、そしてメリア先輩のご両親ウィーネ夫妻、最後にレオン。
何でルークとエキナがこのメンツよりも上の位置に居るんだよ。
いやまぁ見方によっては俺より立場が上の2人なんだけどさ……
「英雄殿、皆をまとめる一言を頼むよ」
「ライネルさん、ハードルを上げないで下さい……あと英雄止めて」
ウィーネ婦人もクスクスと笑っている。
はぁ……こーいうの苦手なんだよな……もうやるしかないんだけどさ。
そして最後にお一人様のレオンが、俺を冷やかした。
「おいおいユウ、まさか緊張してんのか?」
「黙れ」
「俺の時だけ雑くない!?」
良いんだよレオンだし。
……さて。
俺はグラスを目線の高さまで上げた。
本当は皆の目を見て話さなければならないのに、視線は下を向いてしまう。
どう言ったものかなぁ……
飲み会でこんな風に、乾杯一言賜る事なんか無かったし。
そもそもほとんど誘われなかったしな。
あー……そうだな、今心にある想いを伝える事にしようか。
……上手く言葉に出来れば良いが。
「……世界が入れ替わる異常事態が起こってしまったけど、皆で生きてあの世界へ帰ろう。必ず帰るとは言えない……皆を守るなんて、俺には過ぎた役目だって思ってるしな。だけど、俺は──」
ふと、ルークとエキナと視線がかち合った。
2人が俺を真剣な眼差しで見ている。
──言いたい事は目を見れば分かってしまった。
そうだったな。
俺の命は一つじゃ無い。
「──俺達は、皆の命を諦めない。世界最強の吸血姫と、奇跡の力を持つ聖女様が、俺の隣に居る限り」
ルークとエキナは、少しだけ口角を上げて微笑んでくれた。
やっと分かってきたか、そう言わんばかりに──
俺は、全員の目を見て目線にまで上げていたグラスを、腕を目一杯伸ばして突き出した。
そして、皆もグラスを掲げて──
「長くなったけどそれじゃ最後に、これまでの皆との出会いに──乾杯!」
『乾杯!!』
大役……を果たし終え、皆に遅れて俺も食事へありついた。
俺は日本特有の優しい味付けに、懐かしさを噛み締める。
ルークの調理の腕前はさすがで、非常に美味な食事を楽しむ事が出来た。
だが誰かが、これが最後の晩餐かも……と言った瞬間、テーブルが凍り付いた事を、俺は忘れる事は無いだろう。
……オチだけ持って行きやがって、レオンの奴め。
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