第19話 がぶり
……ぁあ~……眩しい……
……なんか重いし……
……それに何か……首筋が……痛……い……??
「ちゅ~~~」
「ルーク……?」
「んぱっ、おはよユウ!良く眠れた?」
どうやらルークが俺の体の上に乗っかって、血を吸っていたみたいだ。
ん?昨日の舌足らずな声じゃ無いな。
「お前……体戻ったんだな?」
「うん!」
「良かったよ。……え、なにこれ……!?」
俺は、ベッドの布団が血塗れである事に気付いた。
スプラッター映画顔負けのグロさだぞ!?
「あ、あの、ルークさん……?」
「どうしたの?」
「これは一体……?」
「え?言わなきゃ分からない?」
「ひっ……!?」
なんだ!?ルークの顔がめっちゃ笑顔なのに、全然温度が無い!!
エキナを彷彿とさせる怖さだ……!
ルークは察しの悪い俺を見かねてか、目を開けるギリギリまで開いて、俺の横の方を指差した。
「あのさぁ……あたしが眠ってる間、この女と何してたの……?」
「!? お、おいルークさんや?お前は今とんでもない勘違いをしているぞ……?」
俺の隣には高坂が寝ていた。
あ、あれ俺高坂と一緒に寝たっけ!?
夜中に色々話して、そのまま疲れて眠ってしまったのだが……
うん、よく考え無くてもそりゃ高坂も居るわな。ははは。
「……あたしがこの光景を見た時、どんな気分だったか分かる……?」
「そ、それは……」
……なんだろう、浮気がバレた時ってこんな感じなのかな……
い、いや別に何もしてないけどな──
「……んっ……」
高坂がゴロン、と寝返りを打つ。
すると、ボタンの弾けたパジャマがハラリ、と高坂の白い肌をさらけ出す。
はは、そうだ……パジャマのボタン、全部無理矢理剥いだんだった……
ギリギリと、高坂の体から視線をルークに戻す。
わぁ……すっごい濃い魔力が渦巻いてるやぁ。
「……ユウ、もう一回聞いてあげようか?あたしが、寝てる間、何してたの……!?」
「誤解だぁぁあーーー!!!」
「……がぶり」
ルークは俺の首筋へ、肉を噛みちぎる勢いで牙を沈めてきた。
「ギャーーーー!!!」
俺の首筋から大量の血が噴き出した。
あ、あぁ……このベッドに付いた血液は……こうして付着したのか……
「……うるさいわよ……何の騒ぎ……?」
「……高……坂……ぐふっ……」
目覚めた高坂がドン引きした顔で俺達を見ている。
力尽きた俺は、そのままパタリと意識を失った。
※
「……見てんじゃないわよ」
あたしはユウの首筋から口を離し、鋭い目付きでこちらを見ている、高坂とか言う女を睨んでやった。
「別に。ただ貴女、あんまり滝川を困らせないで頂戴、不愉快だわ……!」
「ハァ?あんたに関係無いでしょ、ユウとあたしは運命で結ばれてるの。あんたの入る隙間なんか無いからネ」
意識を失ったユウをぎゅっと抱き締めて、べっと舌を出す。
ふんっ、不愉快なのはこっちだっての。
まぁいい、丁度ユウも気を失ったからネ。
今の内に聞いておきたい事がある。
「ねぇ、あんたそのおかしな魔力、どこで手に入れたの?」
「……気付いていたの」
「ヒヒ、年季が違うよ。それにその魔力には覚えがあるし」
「……」
だんまり決めちゃって……
ならあたしも核心を突いてやるんだから。
「あんた、どうしてあの皇帝とかいう奴の魔力を持ってるの?」
「……あれ、見えるかしら?」
「あれ?」
高坂という女が指差したのは、聖国の中心から伸びる大きな樹だ。
200年前はあんなの無かったケド……
「あれは現在聖樹と呼ばれこの国……いや、世界を支えているわ。負のエネルギーを一身に吸い込んでね」
待って、何か繋がる気がする……
この女の魔力……皇帝……聖樹……
まさか──
「……あの樹、リースが樹へと変えた皇帝の成れの果てなの……!?」
「正解よ。さらに言えば私はあの巨大な樹のエネルギーを自由に扱える。だから私は"聖職者達"の女皇なのよ」
「あ、あんた"聖職者達"のトップ……!?」
「あら?大精霊もそう呼んでたでしょう?」
い、いやそんなの知らないヨ!
あたしはユウを抱えたまま、ステップバックで距離を取った。
「……そ、それ以上近付かないでネ……!」
「そんなに警戒しなくても何もしないわよ」
「敵意が無いのはない分かってるケド……さすがに危険すぎるよあんた」
「貴女の方がよっぽど危険だと思うのだけれど……
まぁいいわ、ほらさっさと教会へ戻るわよ」
「むぅ……」
エキナも待ってるし、確かに戻らないといけない……
仕方ない、あんまり行きたくないけど今は言う通りにするか……
「分かったヨ……ただし!」
「なによ……?」
「ユウには指一本触れちゃダメだからネ!」
「余裕の無い女は嫌われるわよ?」
「なにおぅ!?」
「ふんっ」
……ほんっとムカつく女ダヨ。
でもこいつもユウの大事な人間なんだよネ……
あたしは腕の中の愛しい人を見る。
傷も治ってすやすや眠ってるヨ……
浮気性なんだから、全く……
今に始まった事じゃないけどさ。
今回も大目に見てあげるから、お願い。
もう勝手にどこかへ行かないで──
※
「エキナ!!」
「ユウ君!ルークも!」
「元気そうで良かったヨ」
俺達は教会天辺、エキナが待つ部屋へとやって来た。
ここへ来る道中、ルークと高坂がずっと喧嘩してうるさかったが。
俺はエキナを見て安堵のため息をつく。
「ふぅ……これでようやく一安心だな」
「ご心配をお掛けしました。それで……セフィラさんとは……?」
「あぁ今教えるよ──」
俺はエキナが居なくなってからの経緯を話した。
そして、ルークはポケットから、セレントの卵を手渡した。
「エキナ……これ、セフィラから……」
「これは……?」
「中にはセレントの魂が眠ってるみたい。セフィラは最初からセレントを本当に殺すつもりは無かったのかな……」
「セレントちゃん……」
エキナは涙ぐみながら、卵を受け取る。
頬に寄せて、その温度を感じながら。
「ルーク、ありがとうございます。私、必ずもう一度セレントちゃんと会う為に、大事にしますから」
「うん、そうしてあげて。あ、そうだエキナの覚醒はどうだったの?」
「そ、それがですね……」
……上手くいかなかったのか?
エキナは沈んだ顔をしながらも、何があったのかを教えてくれた。
「え、覚醒出来ない……?リースがそう望んだから……?それに、マーネの遺体もやっぱりここにあったんだネ……」
「はい、私が見た限り、本当にユウ君にそっくりでした」
2人が俺の方を見る。
ルークが「ま、目付きはユウの方が悪いケド」と、補足したせいで少し傷付いた……
「こほん、それよりリースって、先代の聖女だよな……?」
「あ、はい……どうやらその願いから生まれたのが私の様で……はは、これで完全に手詰まりです……」
乾いた笑いを溢すエキナだが、どうやら本当に参っているみたいだ。
それを見て、高坂が感情の読めない表情で、視線をエキナに向けた。
「貴女、想像以上に期待外れだわ。聖女なのに覚醒出来ないなら、正直ここから出ていって欲しいのだけれど」
冷たく言い放った高坂を、ルークが睨む。
「あんたねっ……!」
「ル、ルーク……いいんです。足手まといなのはいつもの事ですから……」
「そんなことない!!エキナはあたしを救ってくれた!足手まといだった事なんて一度も無かった!!」
「ルーク……」
ルークとエキナは本当に仲良くなったな。
高坂とも仲良くなってくれるのが一番なのだが、その高坂と言えば……
「死者蘇生の奇跡が使えないなら意味ないわ。私の目的にも使え無──」
「あ、それなら問題ないぞ」
「滝川……?」
「どういう事なのユウ」
3人が俺の方をきょとんとした顔で見る。
む、本当に皆美少女だな。
こんなアホ面っぽいのにめっちゃ可愛い。
……って、見惚れてる場合じゃなかった。
俺は体に眠る奇跡の力を、解放した──
「ユ、ユウ!?」
「嘘……ユウ君……!?」
「……やるじゃない」
先代聖女、リースもこんな風に黄金の輝きを放ったのだろう。
漲る黄金の光が部屋中を包み込んでいる。
これが聖女の力。
セフィラが託してくれた、奇跡の力だ──
お読み下さりありがとうございます!
また次回もよろしくお願い致します!




