第18話 マニピュレイト
「……私は、あれから気付くとこの世界に来ていたわ。それが今から大体3年前くらいよ」
「そうだったのか……」
俺達は随分と長い間、過去を思い出していた。
10年越しに、ようやくこの問いをする事が出来るな。
「……聞かなくても分かってる、だけど確信が欲しい。高坂、あの8人を殺したのはお前か?」
高坂は黙ってこくん、と頷いた。
その瞳に後悔は感じられない。
それだけが救いかな。
「……最初、あの茶髪の女を屋上に呼び出して、油断してる所を後ろから突き落としたの。その後は簡単、男を一人ずつ誘ってあげたら喜んで来たから、また──」
「……もういい」
「安心して?私まだ処女よ?」
「それは聞いてない!!」
「滝川の為にとってあげてるの」
「お、お前なぁ!?」
「うふふふ、貴方と居ると本当に楽しい、幸せだわ……」
高坂は本当に幸せそうに笑っている。
自然と、俺も頬が緩む。
何も答えずに、高坂を見ていた俺に不安を覚えたのか、威勢の良かった彼女が、少しシュンとした。
「ごめんなさい……こんな人殺しと一緒に居たくはないわよね……」
「……そんな事ねぇよ。俺も……この世界に来て沢山人を殺したしな……」
「そうだったわね……全く、私の部下だったのに」
「あぁそう言えば今のお前って、"聖職者達"のトップだったな。てかなんで女皇なんて地位に?」
高坂は少し懐かしむ様に表情を柔らかくした。
「私がね、ここに来た時大精霊が目の前に居たの」
「え、セフィラが……!?」
……偶然か?
とてもじゃないがそうは思えないぞ……
「大精霊は何も知らない私に色々教えてくれたわ。私を女皇に据えたのも彼女だしね」
「……お前、セフィラを──」
「いいの。どの道私も大精霊を殺すつもりだったもの」
「……どういう事だ……?」
俺の問い掛けに、高坂は怪しく微笑んで答えた。
「私の目的には、彼女は邪魔だったから」
「……いい加減教えてくれるんだよな……?」
「だから、知りたいなら私の初めてを奪って頂戴」
「……こっちに来い」
「……!」
高坂の手を引っ張り、俺はセフィラと前世の俺の写真があった部屋へと戻った。
そして、そのままベッドへと高坂を押し倒す。
「覚悟は出来てるんだろうな?」
「……本気なの?」
「あぁ、お前がそこまで強情だとは思って無かったからな」
「……嘘よ。貴方、嘘をつく時目を逸らす癖直ってないのね」
「……嘘じゃないさ──」
「……えっ……!?」
俺は高坂が着ていたパジャマを無理矢理脱がした。
ボタンを引きちぎり、下着しか着けていない、無垢な体が露になる。
俺は覆い被さったままの高坂に、ゆっくりと体重を掛けていく。
「……お前が一度言った事を曲げないのを俺は知ってる。だから、こうするしかない」
「……嬉しい。これでようやく私も目的の為に動き出──」
──真祖の魔法には、最悪の魔法と呼ばれる7つの魔法がある。
俺は、ルークと契約をした時点で、その全ての全容を知った。
そしてその中でも、この魔法は最悪と呼ばれるに相応しい魔法だ。
使いたくは無かった。
だが高坂は本当に俺が手を出さない限り、真相を話してはくれないだろう。
だから、ごめんな高坂。
俺は例えお前でさえ、敵に回してでもやらなきゃいけない事がある。
右手の紋章が黄色く輝き出す──
「──マニピュレイト」
瞬間、高坂の体はその動きを停止した。
目を見開いて、俺からの指示を待つロボットの様な姿となっている。
これは人を操る魔法。
生物の尊厳を奪う魔法だ。
この状態になった者は、俺が良いと言うか、俺の魔力が尽きるまで、意識を取り戻す事は無い。
さてと、まずは──
「高坂、服を着直せ」
「……了解」
無機質な声色で返事した高坂は、ボタンの外れたパジャマで、出来る範囲で前を隠してくれた。
俺達は起き上がり、ベッドに座った状態で向かい合った。
「なら次だ、お前の目的を話せ」
「……了解。簡潔に言うと、滝川夕……貴方を王にする事です」
「王?どういう意味だ?」
「この世界のエネルギー全てを凝縮したものを鍵として、世界の改変を行うのです。そこには私と貴方2人だけが存在する、幸せな世界です」
……これ聞いたら、俺が止めると分かっていたんだな。
本気だったのだろうか……?
操り状態だし、嘘じゃ無いんだろうが……全てだとは思えない。
もう少し探るか──
「あまりに失敗する確率が高過ぎる話だ。もう少し詳細に話せ」
「それを語るには、深層心理に掛けられた魔法の解除が必要です」
「!? 高坂、まさか真祖の魔法の対策を──」
「──……かはっ……ハァ……ハァ……そこまでよ、滝川……」
おいおいマジかよ……真祖の魔法を自力で解除しやがった……!?
「……本当っヘタレね滝川……私に手を出すならあのままにしてあげたのに……」
「お前……どうやって……!?」
「簡単な事よ……私は貴方の魔力に抵抗がある……」
「一体何で……!?」
「"聖職者達"は、前世の貴方、英雄マーネの遺体を保存しているわ。そこから得た力よ……」
高坂は喉を抑えながら、苦しそうに説明をしてくれている。
マニピュレイト……この魔法は本当にヤバい魔法だな……
呼吸をしろというまで、空気を吸わないのかも知れない……危険すぎるな……
高坂は苦しそうにしながらも、俺の頬に手を触れて、潤んだ瞳で見つめてきた。
「……滝川……私はね……貴方が居ればそれでいいの……今度は貴方の目的をきちんと教えて……」
「俺の目的は……」
「正直、予想は付いてる。貴方の事で分からない事なんか無いもの。だけどね、許せない事があるの」
「……許せない事?」
「えぇ──」
俺の頬に触る力が、段々と強くなっていく。
え、ちょっと待って本当に痛──
「……貴方が頑張る理由が、私以外の女の為という事……」
「……え……?」
「……私は自分の命を貴方に捧げたわ……なのに、来世と読んで差し支えないこの世界でも出会えた貴方が……他の女と運命で結ばれている……?それも2人もですって……?」
「……あ、あの……高坂……さん?」
「うふふふ……殺しちゃってもいいわよね……?」
「良いわけないだろう!?」
こいつ、まさかのヤンデレだと!?
「私……滝川が居ないと駄目なの……貴方の為なら何だって出来るわ、知ってるでしょう?だからお願い──」
「お願い……?」
「あの女達を一緒に殺しにいきましょう……?」
「ひぃ!?」
じょ、冗談で言って訳じゃ無さそうだ!?
た、確かに……こいつの微妙なメンタルの弱さ、俺への執着心、目的を遂げる為の強引さは、むしろヤンデレヒロインになる以外の道が無い……!!
「……女がここまで言ってるのだから、少しは反応しなさいよ」
「ひゃう!!」
高坂は、そっと俺の股間を撫でていった。
……恐怖のあまり縮こまっていたが……
「……ま、今のは大袈裟だとしても、あの2人と縁を切って欲しいのは本当」
「嫌だ、と言ったら?」
「貴方を自分の物に出来ないならまた死ぬわ。貴方の居ない人生なんて要らないもの」
「……3人目でもいいって言ったくせに」
「気が変わっちゃった。だって、貴方嘘をついたんだもの」
「そ、それは悪かった……」
俺はどれだけこいつに振り回されているんだよ……
……まぁいいか。そろそろ夜が明ける。
俺の目的に高坂は必要だしな。
そろそろこの話を終わらせよう。
「……俺の目的だったな、それは──」
「──まぁ、大体予想通りね」
「……高坂、手伝ってくれるか?」
「ハァ……私以外の女の為なんて許せないけど、貴方と一緒に居られるなら我慢してあげるわ」
「……助かるよ」
俺と高坂はそのままベッドへ横になった。
睡魔に襲われながら、2人は眠りに落ちていく。
俺の目的、過去へ戻る方法を今一度頭で整理しながら──
お読み下さりありがとうございます!
申し訳ございません明日は休載とさせて頂きますm(_ _)m
また次回、よろしくお願い致します!




