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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
異世界吸血鬼は世界欺く初恋少女を紡ぎたい。

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第16話 貴方を助けられるなら何だって


「高坂、早く帰ろうぜ」


 高校1年生の12月、俺は中学の頃から仲の良かった女の子、高坂遥を誘って家に帰ろうとしていた。

 彼女とは家も近く、よく登下校を共にしていたんだ。


 俺達は特に部活も入っていない。

 だから放課後は特にする事も無く、大して仲の良い奴も居ないから、いつも唯一絡みのある高坂を誘うのだが──


「貴方、いい加減私以外にも友達作りなさいよ」


 今日の高坂は機嫌が悪かった。

 とあるブタ野郎ならここで「生理か?」と聞くのだろうが、俺にそんな度胸は無い。

 だって殺されちゃう!


「もー手遅れだよ。ほら見ろ、クラスで一番の美人に話し掛ける俺に向けられる視線を」


 妬み嫉み恨み……まぁ挙げればキリが無い。


「気付いているならもうあまり私に話し掛けない事ね」

「……何だよ、今日はいつにも増して機嫌が悪いな……」

「そんな事無いわ。いつも思っている事よ」

「……」


 ……何かあったのだろうか。それか俺が何かした?


 でもなぁ、高坂ってさっきも言った通り、クラス……いや学校でも一番の美人で、頭も良く、運動だって出来るスーパーウーマンなのだ。

 そんな奴の考えなんて俺には分からん。

 俺に出来るのは、こいつの機嫌を直す事だけだ。


「……いいから、ほら行こうぜ?ジュースくらいなら奢ってやるからさ!」

「……貴方の為に言ってるのに……はぁ、もういいわ。帰りましょうか」

「おう!!」

「ジュース、どれにしようかしら」

「あ、それはちゃんと請求してくるんですね」


 俺達はガラガラガラと、ドアを開けて教室を出た。


 ──この時の俺は、何も気付いちゃいなかった。高坂への陰湿なイジメは、もう始まっていたのだ。



 今日も私は滝川と一緒に登校し、クラスに着くと滝川には冷ややかな視線が送られていた。


 私はこの視線が大嫌いだ。

 

 私の好きな人にしていい態度じゃないでしょ。

 とても許せるものじゃなかった。

 だから、滝川の居ないタイミングを見計らって、クラス全員に一度注意した事があった。


 滝川への態度を改めろ、と。


 滝川は目付きの悪さを除けば存外顔も良く、結構社交的な方だと思うんだけど、少々性格が悪いせいで友達が居ない。

 あいつに余計なちょっかいを出して、倍返しに遭った人も少なくない。自業自得な面があるのも否めないけども……

 

 とにかく、そんな人間を庇うような事を、きつい言い方で伝えてしまったものだから、私も最近はクラスで浮き始めていた。


 SNSって怖いよね。

 彼ら彼女らの中で私は、滝川とヤりまくってて、援交で稼いだお金で滝川を支援してる、超が付く地雷女なんですって。


 そんな風に思われるのは別に構わない。

 だけど、それで滝川に迷惑を掛けたくない……

 

 中学の頃に出会って、こんなきつい性格のせいで一人だった私と仲良くしてくれる、優しい男の子。


 ──私は滝川が大好きだ。


 いつかこの想いを伝えたい。

 だけど今は駄目だ。


 こんな風にちょっかい出してくる奴らが居るから──


「遥ぁ、今日もちょーっとお願いあるんだけどぉいいよね?」


 私に声を掛けたのは、髪を茶髪に染めた女を中心にした女5人のグループ。

 お昼休みに、トイレから教室に戻る際に、近くの踊場へと連れ出されてしまった。

 最近、こうやって絡まれる事が増えたのよね。


「……いい加減にして頂戴。お金ならこの前渡したでしょ……」


 2日前の事だ。

 こいつらに上履きを隠され、トイレで見付けたと思ったら、囲まれてお金を要求された。

 返して欲しいなら5千円寄越せと。


 高校生からしたら結構な額だ。

 素直に渡したくなんかは無かった。


 だけど、人間5人に囲まれて抵抗出来る程、私は強く無い。

 これ以上余計なトラブルに巻き込まれるのも嫌だったから、その場では財布に入っていた5千円を渡したのだが……


「またまたぁ~あんた結構稼いでるんでしょ?男に使うくらいなら、友達に恵んだ方がいいじゃない!」


 誰が友達よ……!

 以前ほとんど抵抗無くお金を渡したのは失敗だったか……

 もういい、今日は別に何かを隠されたりしていないし、このまま無視させて貰──


「あんた、何シカトこいてんのよ!」

「痛っ……!」


 いきなり髪の毛を鷲掴みにされ、壁へと押し込まれてしまった。

 私の姿を隠す様に、残った4人が周りを取り囲む。


「……あーあ、今日は私も気分が悪くなってきたから、3万くらい頂いちゃおっかなぁ~」

「お、いいじゃん愛莉(あいり)~!これで遊び放題じゃん!」


 取り巻きの女の一人がはしゃぎながら同調している。

 愛莉とは、私の髪を掴んでいるリーダー格の女のことだ。

 私はムカつくから茶髪と呼んでる。


「そんな額、無理に決まってるでしょ……!もう私に関わらないで……!!」


 私の家はかなり貧しい方だ……

 それでも厳しい中、母親が一人で私を育ててくれた。

 私がアルバイトをすると言っても「お金を稼ぐのは親の役目よ。貴女はいいから勉学に励みなさい、そして出来れば恋でもしてみなさい」と、そんな風に言ってくれる優しい母親だ。

 

 だから、本来こんな奴らに渡せるお金は一銭も無い。

 この前はお母さんに黙って始めた内職の分だったから良いけど……


 私のこの反抗は、茶髪にとって心底受け入れ難いものだったらしい。


「はぁ?」


 私がこうも反抗するのは予想外だったのだろう。不快そうに顔を歪めてるわ。

 ふんっ、いい気味──


「ねぇ、これなーんだ?」

「!?」


 茶髪が私の髪を掴んだまま、スマホの画面を見せてきた。

 

「な、なんでこれを……!」

「あんたの男がさぁ、私の彼氏ボコボコにしてるところを、私の連れが撮ってたの。これ見られたら、あの滝川だっけ?あんたの男も退学だね!!」

「……っ……!」


 ニヤニヤと……!

 私が困っているのを楽しんで……!


 滝川が喧嘩を吹っ掛けた訳じゃないんだろう……

 敵の多い男だからね、こっそりと闇討ちでもしたんでしょう。

 あいつ……絡まれてやり返さなかった事が無かったら、その光景が目に浮かぶけど……爪が甘いわよバカ!!


 ……でも、これでようやく恩返しが出来るかな。


「……さい」

「はぁ?なに?はっきり言いなさいよ?」

「私に出来る事なら何でもするから、それを誰にも見せないで下さい……」

「いーねぇ!契約成立だね!ほら、じゃあまずは3万♡」

「い、いやそんな額……!」

「あんた援交やってんでしょ?そこら辺の親父から貰って来なさいよ。それか滝川にでも借りれば?元はあんたのお金なんでしょ。そうだ……滝川から借りなさい、その方が面白いわ!」

「……分かったわ……明日には用意するから。だからお願い……その画像を今すぐ消して……」


 憔悴しきった私を見て、余程嬉しいのか、彼女はすぐに私の目の前で画像を消してくれた。


「ほら、じゃあ約束ね。そうだ、せっかくだし今からにしよっか♡」

「……え、それは──」

「じゃないとあんたが滝川から借りる保証無いじゃん。返事は?」

「はい……」


 私は──



「あれ、高坂は休みか?」


 昼休みが終わり、世界史の教員が出席の確認中、高坂が居ない事に気付いた。


(あいつ、どこ行ったんだ?連絡も返ってこないし……) 


 こんな事は初めてだ。

 優等生のあいつが授業をサボるなんて。


 それに何やらクラスカースト上位の、ギャル集団達から、チラホラ高坂の名前が出ている気がする。

 いつもその中心に居る茶髪の女も居ないし。


 ……まさかな。


 そこまで考えた所で太ももに、スマホのバイブレーションの感覚が。

 高坂か!?

 俺は教員にバレない様に机の中でも着信を確認した。


 そこには、やはり高坂から連絡が来ていた。


『いきなりごめん。授業抜けられる?いつもの公園に来て欲しいの』


 考えるよりも先に体が動いていた。


「先生、すみません。めちゃめちゃ腹痛いからトイレ行ってきます!!たぶんもー戻れないかも!!」

「え?あ、あぁ……踏ん張れよ……?」


 いきなり何事か、とクラスの連中が俺を奇異の目で見ていたが、んなことどうでもいい。


 俺は高坂の元へと急いだ。



「高坂っ!!」

「……」


 あぁ……やっぱり来ちゃうのね……滝川。

 呼び出した私が言うのも何だけど、本当に優しい人。


 私は今からこの人の信用を失う。

 ……それでも良い、貴方を助けられるなら何だって。


「……滝川、何も聞かずに私のお願いを聞いて欲しい」

「……お願い……?」


 ……体が震え始めた。怖いんだ。

 

 ──何よりも、滝川に嫌われるのが。


 それでも──

 

 私は指示された言葉を口にした。


「……滝川、お金を貸して欲しいの。体を売ってすぐに返すから、どうか今すぐお願い……」


 言ってしまった。

 とてもじゃないけど、滝川の方を見れない……


 視界の端に、滝川からは見えない位置で、茶髪が私達を撮影している様子が見える。

 

 ──これで満足……!?


 さぁ後は滝川に断られ、嫌われておしまい。

 むしろそうじゃないと──


「おう、いいぞどれくらい必要なんだ?それに俺らの仲だろ、別に返すのはいつでもいいよ」

「……っ……!?」

「おーい、聞いてるか?」


 ……なん、っで……!!


「どうして貴方は……!理由も知らないのに……!!」

「いや、聞くなっつったのお前じゃん」

「そうだけどっ……!!」


 気付けば私の目からは涙が溢れていた。

 私はしゃがみこんでしまう。

 すると、髪の毛で隠して付けているイヤホンから、新たな指示が飛んでくる。


『良かったじゃな~い。ほら、さっさと金を持って来させなさい。写真、消してあげたでしょ?』


 正直、バックアップがあったりするんだろうとは思ってる。

 いずれそれも消させるけど、その為にも今は逆らえない。


「……滝川、ごめん……3万円貸して欲しい……」

「貯めてる年玉もあるし任せろ!無かったら兄貴から奪ってくるさ!」

「ごめんなさい……っ……ごめん、なさい……!!」

「ほら、泣くなよ。俺んち行こうぜ」

「うんっ……」


 ──イヤホンから聞こえていた、通信中に聞こえるノイズの音が消えた。

お読み下さりありがとうございます!

2人の過去話は今回、そして次回の2本立てでございますので、重い話ではありますがお付き合い頂ければ幸いです。

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