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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
異世界吸血鬼は世界欺く初恋少女を紡ぎたい。

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第13話 もう何があっても


 時はエキナがセフィラの魔法で、教会の頂点にある部屋へと、強制転移させられた時へ遡る──



「キャア!?」

「え、なに!?誰!?」


 私は転移魔法独特の浮遊感が終わり、地面へと華麗に着地を決めました。

 こう見えても運動神経はいいんですよへへん。

 

 ここは……?どこかの部屋……?


 私が転移してくる瞬間を見ていた、少し冷たい雰囲気を持つ女の子に声を掛けました。


「……あの、すみません……ここがどこだか教えて頂いても……?」

「……はい?不法侵入者に教える事は何も無──」


 とてもスタイルの良い、この世界では珍しいユウ君と同じ黒髪の彼女は、私の顔をじっと見て言葉を止めました。


 な、何でしょう……じろじろと顔や体を見られるのは苦手です……

 ユウ君のおかげ──せいで慣れてはきましたけど。


「……驚いた……貴女、聖女じゃない……どうしていきなり?まさか、滝川を追ってきたの……?」

「滝川……?あ、それって──」


 ユウ君が以前話してくれた、もう一つの世界での名前……!

 ……待って下さい。どうしてこの方がユウ君の前の世界の名前を知ってるんですか?


 ……少々聞かなくてはならない事があるみたいですねぇ……ユウ君。


 でも、今はそれより──


「あの、ユウ君の事を知っているならお願いがあるんです!!」

「な、何よ。言っておくけど返さないわよ滝川は──」

「ユウ君とルークの所に送って欲しいんです!!」

「……はい??」


 私は転移の魔法が使えませんから……


 高坂さんと名乗った彼女に、自分がどうしてこの部屋に来たのかを説明しました。


 すると、高坂さんは──


「あいつ……大精霊に会いに行ってたの……!?私の知らない所で無茶するのは本当に変わってないみたいね……!!」


 唇を噛み締め、冷たい魔力が部屋を覆い始めました。

 ……どうやら、本当にユウ君の事を知っているみたいですね。後できちんと色々聞かないと。


 高坂さんは苛ついたまま、私を睨みました。


「……貴女、聖女なら何で滝川の傍を離れたの……!!」

「わ、私だって離れたくありませんでした!でも突然……!」

「言い訳は聞きたくないわ!滝川に何かあったら許さないわよ……!!」


 ……むっ。何なんですか、さっきからその自分の方がユウ君を心配している、みたいな態度。

 

 普段の私なら、言い返したりしなかったと思います。

 でも何故でしょうか、ユウ君を少しバカされてるみたいで、思わず反論してしまいました。


「あの、ユウ君はそんなに弱くありません。世界最強なんです。あまり過小評価しないで貰えますか?」


 私の言葉を聞いて、ぴきっと額に血管を浮かべた高坂さんは、勢いよく私の胸ぐらに掴みかかりました。


「世界最強が何?滝川が死なない保証がどこにあるの?聖女の貴女が居ないと、滝川の仲間までも死ぬかも知れないでしょう!?」

「ユウ君やルークは死にません!!私が死なせません!!ですから早くユウ君達の所へって言ってるんじゃないですか!!」

「だからそもそも離れるなって言ってるの!それにもし、また滝川の目の前で誰かが死んだら……今度こそあいつは──」

「私の英雄はそんなヤワじゃありません!!」

「……っ……!」


 ユウ君は一度、失意の中へ落ちていきました。

 大事な人を目の前で失って、今も自分自身の心をもすり減らしています。

 ……毎晩、殺した人を夢に見て全然眠りが浅い事も、私は知っています。


 それでも、ユウ君は今も戦い続けています。

 初めて会った時から何も変わらない、優しくて大好きな世界最強の男の子。


 ユウ君はもう何があっても立ち止まりません。振り返りません。

 誰を失っても。例え、私やルークが死んでも。

 

 今のユウ君は、本当に強い人になりましたから。

 だから──


「ユウ君に、これ以上重荷を背負わせたく無いんです……!お願いです、どうか私を2人の元に──」

「……嫌よ」

「! お願いです、私に出来る事なら何でもしますから……!!」


 正直、断られるとは思っていませんでした……

 ユウ君を想う気持ちだけは同じだと思っていましたから……

 食い下がる私に、高坂さんは溜め息をつきました。


「違うわよ、滝川の所へは私が行くわ」

「えっ?い、いや私が行きますよ」

「貴女にはやって貰う事があるわ。それに、自分に出来る事なら何でもするんでしょう?」

「そっ、それは……!」

「なら、そーいうことで──」


 高坂さんはパチン、と指を鳴らし自分の足元にだけ、魔方陣を発生させました。


「え~っと、滝川の魔力は……と」

「ま、待って下さい!私も──」

「じゃあね」

「あっ!」


 瞬間、高坂さんは冷たく微笑みながら姿を消し、部屋には私だけが残されました。

 一体何を考えていらっしゃるのでしょうか……?


 それにしても困りました……

 そもそもここが何処なのかも聞いていませんでしたのに……


 私が立ち尽くしていると、部屋の外側からドアがノックされました。


「聖女様、失礼致します」

「えっ……は、はい」


 黒い装束で、ゆっくりと部屋に入って来た女性は、私に深々と頭を下げました。


「たった今閣下より命が下りました。ぜひ私に付いてきて下さいまし」

「閣下……?高坂さんの事でしょうか……?」

「左様で御座います。では聖女様、どうぞこちらへ」

「わ、わかりました……」


 今は出来る事が他に無い為、いつの間にか傍付きの様な方へ指示を飛ばしていた、高坂さんの思惑に付き合う事にしましょう……


 黒装束の方の後ろを追い、部屋を出た後は長い螺旋の階段を何段も降りて行きました。


「すみません……ハァッ……ハァッ……まだでしょうか……?」

「今で半分ほどです」

「えぇ!?」


 運動神経には自信がありますが、体力には全然自信がありません。

 段々と呼吸が激しくなり、耳がぼんやりとし始めた頃、ようやく階段の終わりが見えて来ました。


 最奥へと辿り着くと、精密な機械の様なもので出来た扉が立ち塞がりました。


「あの……ここは……?」

「ここから先、私は立ち入りを許されていません。聖女様ご自身でお確かめ下さい」

「一体何が──」


 黒装束の方が、中心にある手形の様な物に触れると、そこから光の筋が浮かび、ゆっくりと扉が開かれていきます。


 一歩、一人で踏み出すとそこには──


「え、どうして……!?ユウ君……!?」


 ユウ君と同じ顔をした男性が、十字架へと(はりつけ)にされていました──

お読み下さりありがとうございます!

次回もまたよろしくお願い致します!

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