第13話 もう何があっても
時はエキナがセフィラの魔法で、教会の頂点にある部屋へと、強制転移させられた時へ遡る──
※
「キャア!?」
「え、なに!?誰!?」
私は転移魔法独特の浮遊感が終わり、地面へと華麗に着地を決めました。
こう見えても運動神経はいいんですよへへん。
ここは……?どこかの部屋……?
私が転移してくる瞬間を見ていた、少し冷たい雰囲気を持つ女の子に声を掛けました。
「……あの、すみません……ここがどこだか教えて頂いても……?」
「……はい?不法侵入者に教える事は何も無──」
とてもスタイルの良い、この世界では珍しいユウ君と同じ黒髪の彼女は、私の顔をじっと見て言葉を止めました。
な、何でしょう……じろじろと顔や体を見られるのは苦手です……
ユウ君のおかげ──せいで慣れてはきましたけど。
「……驚いた……貴女、聖女じゃない……どうしていきなり?まさか、滝川を追ってきたの……?」
「滝川……?あ、それって──」
ユウ君が以前話してくれた、もう一つの世界での名前……!
……待って下さい。どうしてこの方がユウ君の前の世界の名前を知ってるんですか?
……少々聞かなくてはならない事があるみたいですねぇ……ユウ君。
でも、今はそれより──
「あの、ユウ君の事を知っているならお願いがあるんです!!」
「な、何よ。言っておくけど返さないわよ滝川は──」
「ユウ君とルークの所に送って欲しいんです!!」
「……はい??」
私は転移の魔法が使えませんから……
高坂さんと名乗った彼女に、自分がどうしてこの部屋に来たのかを説明しました。
すると、高坂さんは──
「あいつ……大精霊に会いに行ってたの……!?私の知らない所で無茶するのは本当に変わってないみたいね……!!」
唇を噛み締め、冷たい魔力が部屋を覆い始めました。
……どうやら、本当にユウ君の事を知っているみたいですね。後できちんと色々聞かないと。
高坂さんは苛ついたまま、私を睨みました。
「……貴女、聖女なら何で滝川の傍を離れたの……!!」
「わ、私だって離れたくありませんでした!でも突然……!」
「言い訳は聞きたくないわ!滝川に何かあったら許さないわよ……!!」
……むっ。何なんですか、さっきからその自分の方がユウ君を心配している、みたいな態度。
普段の私なら、言い返したりしなかったと思います。
でも何故でしょうか、ユウ君を少しバカされてるみたいで、思わず反論してしまいました。
「あの、ユウ君はそんなに弱くありません。世界最強なんです。あまり過小評価しないで貰えますか?」
私の言葉を聞いて、ぴきっと額に血管を浮かべた高坂さんは、勢いよく私の胸ぐらに掴みかかりました。
「世界最強が何?滝川が死なない保証がどこにあるの?聖女の貴女が居ないと、滝川の仲間までも死ぬかも知れないでしょう!?」
「ユウ君やルークは死にません!!私が死なせません!!ですから早くユウ君達の所へって言ってるんじゃないですか!!」
「だからそもそも離れるなって言ってるの!それにもし、また滝川の目の前で誰かが死んだら……今度こそあいつは──」
「私の英雄はそんなヤワじゃありません!!」
「……っ……!」
ユウ君は一度、失意の中へ落ちていきました。
大事な人を目の前で失って、今も自分自身の心をもすり減らしています。
……毎晩、殺した人を夢に見て全然眠りが浅い事も、私は知っています。
それでも、ユウ君は今も戦い続けています。
初めて会った時から何も変わらない、優しくて大好きな世界最強の男の子。
ユウ君はもう何があっても立ち止まりません。振り返りません。
誰を失っても。例え、私やルークが死んでも。
今のユウ君は、本当に強い人になりましたから。
だから──
「ユウ君に、これ以上重荷を背負わせたく無いんです……!お願いです、どうか私を2人の元に──」
「……嫌よ」
「! お願いです、私に出来る事なら何でもしますから……!!」
正直、断られるとは思っていませんでした……
ユウ君を想う気持ちだけは同じだと思っていましたから……
食い下がる私に、高坂さんは溜め息をつきました。
「違うわよ、滝川の所へは私が行くわ」
「えっ?い、いや私が行きますよ」
「貴女にはやって貰う事があるわ。それに、自分に出来る事なら何でもするんでしょう?」
「そっ、それは……!」
「なら、そーいうことで──」
高坂さんはパチン、と指を鳴らし自分の足元にだけ、魔方陣を発生させました。
「え~っと、滝川の魔力は……と」
「ま、待って下さい!私も──」
「じゃあね」
「あっ!」
瞬間、高坂さんは冷たく微笑みながら姿を消し、部屋には私だけが残されました。
一体何を考えていらっしゃるのでしょうか……?
それにしても困りました……
そもそもここが何処なのかも聞いていませんでしたのに……
私が立ち尽くしていると、部屋の外側からドアがノックされました。
「聖女様、失礼致します」
「えっ……は、はい」
黒い装束で、ゆっくりと部屋に入って来た女性は、私に深々と頭を下げました。
「たった今閣下より命が下りました。ぜひ私に付いてきて下さいまし」
「閣下……?高坂さんの事でしょうか……?」
「左様で御座います。では聖女様、どうぞこちらへ」
「わ、わかりました……」
今は出来る事が他に無い為、いつの間にか傍付きの様な方へ指示を飛ばしていた、高坂さんの思惑に付き合う事にしましょう……
黒装束の方の後ろを追い、部屋を出た後は長い螺旋の階段を何段も降りて行きました。
「すみません……ハァッ……ハァッ……まだでしょうか……?」
「今で半分ほどです」
「えぇ!?」
運動神経には自信がありますが、体力には全然自信がありません。
段々と呼吸が激しくなり、耳がぼんやりとし始めた頃、ようやく階段の終わりが見えて来ました。
最奥へと辿り着くと、精密な機械の様なもので出来た扉が立ち塞がりました。
「あの……ここは……?」
「ここから先、私は立ち入りを許されていません。聖女様ご自身でお確かめ下さい」
「一体何が──」
黒装束の方が、中心にある手形の様な物に触れると、そこから光の筋が浮かび、ゆっくりと扉が開かれていきます。
一歩、一人で踏み出すとそこには──
「え、どうして……!?ユウ君……!?」
ユウ君と同じ顔をした男性が、十字架へと磔にされていました──
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