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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。
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第6話 獄中で


 ルークの寿命が残り1ヶ月だと聞いて24時間程経ち、今現在でさえ俺は彼女に何も言ってやれていなかった。


 彼女は、俺を異世界へ招き吸血鬼にした。

 それも真祖と呼ばれる始まりの吸血鬼だ。

 これはつまりルークが始まりの吸血鬼であり、この異世界の歴史の全てを知っているということだ。


 だがそんなことはどうでもいい。

 

 問題を設定しよう。

 俺は彼女をどう思っているのか?

 ──わからない。そもそもまだ答えを出せるだけの関係を築いていない。

 俺は彼女に何が出来るのか?

 ──わからない。そもそも彼女のことすらちゃんと知らない。

 俺は彼女を助けられるのか?

 ──わからない。そもそも彼女は助けて欲しいのだろうか。


 俺は彼女が死んでもいいのか?


 ──駄目に決まってるだろうが!!!


 自問自答する前から結論は出ている。

 もう二度と誰かが死にそうな時に無関係でいたくない。

 行動を開始し、行動によって彼女を1ヶ月のタイムリミットから解放する。


 疑問はある。

 不死身の吸血姫なのに何故死ぬのか……

 だがどうでもいい。

 全ては彼女を助けた後本人から聞けばいい。

 

 原因すら今は要らない。

 一応確認できそうならしてみるが、彼女を救う方法なら正直一つしか思い浮かばないからな。


 この世界で俺が生きる目的、意味はきっとルークなのだ。

 ……あいつを死なせたくないと、心からそう思う。

 だから、手始めにお前を救ってやるよ。ルーク。

 

 さて、俺が何故ゆっくり独白を公開しているのか。

 理由は簡単で、現在地はエスタード王国王宮の、地下牢獄。

 ……幽閉されております。




 時は滝川夕が投獄される少し前に遡る──


 エスタード王国王宮の客間。

 レオン・デル・ハーミットは、茶髪をいじりながら、学園長であるアデラート・ジル・リレミトにとある報告していた。


「学園長。ユウは現在昏睡中、ダンジョンは30層中10階層まで崩壊。おまけに王太子は全身骨折の重体です。幸いにもダンジョン崩壊に巻き込まれた死者はおりません」

「……ご苦労様」

「あぁ、それと、ユウに捕縛令が出ました」

「分かってる。だから、僕はここにいる」


 アデラートはその美しい顔面を青ざめた表情へと変えていた。


「レオン君、君には夕の監視を頼んだ訳だけど、……僕は何を間違えたと思う?」

「……ユウを殺さなかったことかと」

「ハハ……それは出来ないんだよねぇ」

「何故ですか?」


 レオンはアデラートが吸血鬼を、例え真祖でも殺せる弾丸を所持していることを知っている。当然の疑問だろう。


「夕の隣には彼女がいるからね。そして、僕が平民の中からスカウトしたあの子も最近夕と一緒にいてるね。やはりあれもいい……」

「例え、それら全てを敵に回しても負ける貴方ではないでしょう?」


 アデラートは断言する。


「いいや、負けるね」

「……それほどですか真祖というのは」

「ん~ちょっと違うよ」


 アデラートはレオンにはよく分からない答えを告げる。


「なんたって僕の弟だからね!」

「あくまで戸籍上のでしょう……?」


 それ以上アデラートは何も答えない。



「ユウ君!!」

「お、エキナか?」


 獄中の俺に面会に来てくれたのはエキナだった。

 グレーの髪を右目にかかるように切り揃え、その豊満な体は牢獄の中でささくれだちそうになっていた俺の心を癒してくれた。

 それにしたってどうしてここに……?


「ユウ君、一体何でこんなことに!?」

「いやいや、エキナこそどうやってここに?」

「私がお連れしてあげましたのですわ」

 

 エキナの後ろから現れたのは、ディセート・メア・ボルゼキア。

 最近知ったのだが、オリウスとは婚約しているらしい。

 輝く金髪を縦に巻いた、もはや化石の様な姿のお嬢様だ。何て失礼な紹介だ……


「エキナ、これで借りは返しましたわよ」

「はい!!本当にありがとうございます!!」


 エキナは腰から頭を下げている。

 一体、何が何だか……

 とりあえずエキナに余計なことが出来んように牽制しておくか。


「おい、縦ロール。エキナに何を──」

「ユ、ユウ君!ディセートさんは私をここまで連れてきて下さったんです!」

「いやまぁそうっぽいけど……」

「貴方本当に躾がなっておりませんわね全く」

「……とりあえず説明してくれ」


 ディセートは、檻越しに今までの経緯を語り出した。


「まず、貴方が投獄された原因ですが、王太子殺人未遂とダンジョン破壊工作。この二つですわ」

「……両方身に覚えがない」

「私の目を見て答えなさいな」


 呆れ顔で俺を見下ろしてくるディセート。

 

「現在、オリウス殿下は意識は取り戻しましたが全身骨折、全身打撲、挫傷。挙げればキリがない重症ですわ」

「おぉ、最高じゃないか!」

「貴方ね……」

 

 そんな睨んでくんなよ、助けてやったろう?


「本来であれば王太子を助け、殿を務めた英雄ですのに、蹴り飛ばし重症を負わせるから殺人未遂罪なんて掛けられるのですわ」

「あの状況じゃ仕方なかっただろ……」

「否定はしませんが普通あんな蹴りはできるものじゃありませんわよ?」

 

 ……人間に出せる威力じゃなかったと気付いているのだろうか。

 取り敢えずはぐらかしておくか。


「お前らに積もった怨みも込めたからなぁ」

「……ぐぐぐ」


 爪を噛んでくやしそうにしているディセート。

 そうそうその顔がお似合いだよ!

 

「ユウ君?ディセートさんをあまり困らせちゃダメですよ?」


 身震いが……!?

 なんで凄い笑顔なのにあんな冷たい声が出せるんだよ、こえーよ。


「こほん。んで、ダンジョンの方は?」


 大人しく話を戻すことにしよう。


「そちらは10階層まで崩壊しております。逆に何があったのか聞きたいくらいですわ」

「あの大型モンスターが自爆したんだよ」

「モンスター1体が生み出せる爆発の威力じゃありませんでしたわよ?」

「……それは俺に言われても分からん」


 わー怪しまれてるぅーー。

 ……これは仮説だが、あの時ルークは魔法陣でモンスターを囲い、密閉された空間で高密度、高威力の魔法を使った。

 そんな地獄のような空間でさらにモンスターが自らの核に全魔力を集中させたせいで、膨れ上がった魔力がルークの魔法と重なって、あり得ない大爆発となったのだろう。


「……貴方、よく生きていましたわね」

「奇跡ってやつだろう?日頃の行いがいいからな」

「またそうやってはぐらかす。無実を証明するつもりがありませんの?」

「え、これって事情聴取だったのか?」

「現場に居た公爵令嬢の言葉があれば少なくとも貴方一人くらい無罪には出来ましてよ」


 ふふんと鼻息を鳴らすディセートは俺を見下ろして笑ってやがる。

 もしかして……


「お前、俺を助ける為にここに来たのか……?」

「か、勘違いしないで下さいまし!貴方達には借りがあるだけですわ。貸し借りがあるのは好まない性格ですの」


 こいつ、ツンデレ属性も身に纏い始めたぞ……

 キャラが渋滞しないことを祈るばかりである。

 しかし、ここを出れるなら助かるな。

 いきなり寮の自室に警備兵が現れて何の説明も無しにここに来て既に24時間程。いい加減うんざりしてきた所だ。


「まぁ出してくれるなら素直に礼を言うよ。だがな……」

「何ですの?」

 

 これだけは言っておかねばならない。

 俺は檻を掴んで、ディセートに顔を近付け睨み付ける。


「俺はエキナを傷付けたことを許す気はない。この子が入学してからどんな思いで過ごしてきたと思ってる」

「……構いませんわ。私は殿下が全てです。あの方の覇道の前に邪魔になる存在は全て排すると決めておりますの」

「ユ、ユウ君!私は気にしてませんから!」

「駄目だ。こいつにはきっちりと謝罪させる」

「それならもうしてもらいました。なので本当に大丈夫です」

「え?」


 エキナは困った様に笑っている。

 ディセートも、少し申し訳無さそうにエキナを見ている。

 

「殿下は優しすぎます。万が一にも殿下を軽んじる者が出ない様にするのが私の役目ですの。エキナにも謝罪と事情を説明した文を私の取り巻きに持たせたと言うのに……」

「それって……」


 エキナの寮に置いてあったという手紙か?

 しかし、内容は食堂へエキナを呼びつける内容だったと聞いているが、エキナやディセートが嘘を付く理由もない……

 考え始めようとした所でエキナが話し掛けてくる。

 

「だから、ユウ君。もう気にしないで下さい。心配してくれて私、嬉しかったです」

「そうか」


 短く返事をし、すとんと床に座り込む。

 本当に良かったなエキナ。


「さて、貴方の今後ですが私が王妃様に貴方の無罪を訴えますわ。王妃様はとても聡明な方ですわ、恐らく貴方をここから出せるはず。ですのでもう少しお時間を下さいまし」

「あ、あぁ。悪いな助かるよ」

「止めてくださいまし。殊勝な顔は貴方には似合いませんでしてよ」

「礼はきちんと言うさ。ありがとう」

「ふ、ふん……」


 ディセートは顔を赤らめて俺達の元から去って行った。

 次会う時にはどんな属性を身に付けているのだろうか、楽しみだ。


「ユウ君、私からもお礼を言わせて下さい」

「エキナ?」


 残された俺とエキナは向かい合う。


「私を助けてくれてありがとうございました。本当は一緒に残して欲しかったですけど……」

「悪いけどまた同じ状況になっても同じ様にするからな」

「……私もっと強くなります。ユウ君を守れるくらい、だからもう心配させないで下さい。お願いします……」

「……悪かった」

 

 エキナは俺を見つめて一筋の涙を溢す。


「ユウ君は私を仲間だと言ってくれました。私、本当に嬉しかったんです。学園で私を認めてくれた初めての人だったから……」

「俺だけじゃないさ、レオンだってお前を認めてる」

「ユウ君のおかげです。……あの、一つ聞いてもいいですか?」


 エキナは少し聞きづらそうにしていたが、俺が「構わないぞ」と促すと、以前と似た質問をしてきた。


「……どうして、私を助けてくれるんですか?私には本当に何も無いのに……」

「前にも言ったろう?」

「……ユウ君、嘘を付くのが下手ですよね」 

「うっ……」


 誤魔化せないか。

 まぁ別に話しても構わないだろう。


「……似ていたんだ。初恋の人に」

「! む、むぅ……」

「まぁ、学校でのいじめに耐えられずに自殺しちまったけどな」

「……すみません」

「いや。……同じ様に一人ぼっちになってるエキナを見てほっとけなかったんだ」

「そうだったんですか……」


 気を使わせてしまっただろうか。

 勿論、前の世界の話だし、エキナと顔がそっくりとかではない。

 ただ、優しそうな所とか、芯のある感じが似ていたんだよ。

 エキナは僅かに下を向き、また俺の方を向いた時、彼女は残念そうに笑っていた。


「私のことが好きなのかなって期待してたのに残念です」

「お、お前そんな冗談言う奴だったか?」

「ユウ君の側に居ればこうなりますよ」

 

 フフっと笑う彼女は、どこか悲しそうに見えた。

 しかし、次に口を開いた時彼女は真っ直ぐ真剣な顔で俺を見ていた。

 

「ユウ君、私は初恋の人の代わりですか?」

「お前に声を掛けたきっかけはあいつだったな」

「今は私を私として見てくれているんですか?」

「エキナはエキナだろう?」

「それを聞いて安心しました」


 エキナはピシッと人差し指を俺に向け、獄中で宣言する──。


「ユウ君、これから覚悟しておいて下さい」

「えと……どゆこと……?」

「内緒です!」


 そろそろ行きますねと言いエキナは嬉しそうに牢屋から出ていった。

 一体何を覚悟しろと言うのか……

 少し、楽しみかもしれない。


(──ユウ、浮気しちゃダメだよ?)

(!?)


 いきなり頭の中に響いたのはルークの声だ。

 こいつ、血の中からずっと見ていたのか……

 俺も頭の中でルークに返事をする。


(お前な、いきなり話し掛けてきて浮気って……)

(せっかく勇気出してキスしたのに、まさかたった1日で他の女に行かれるとは思わなかったよ)

(行ってないって!)

 

 心惹かれたのは確かだが。


(ユウの初恋の女っていうのも聞いてないシ?)

(わ、わざわざ言うことじゃないだろ)

(……そうだね、ごめんね。)


 いやそんな気を使って貰わなくてもいいんだけどな。

 もう何年も前の話だ。俺の中でも消化できてる事だし。


(そうだ!残り少ない時間だし、もっとユウのこと教えてよ!)

(……)

(ユウ?)


 俺は未だルークに伝えるべきこと、聞きたいこと、何一つ口に出来ていない。

 ──今、言葉にしなければいけない。

 今を逃せばもう間に合わないかも知れない。


(……ルーク)

(どうしたの?)

(俺はお前を見殺しにするつもりはない)

(っ!)

(例え、お前に恨まれても死なせやしない)

(……)


 彼女から返事は無く、表情もわからないのでこうなるとどうしようもない。

 ただ伝えるべき事は伝えた。

 後は彼女を救うだけだ。


「ユウ・ジル・リレミト。王妃様がお呼びだ、出ろ」


 お??

 不意に現れた警備兵は俺を呼びつけ、牢屋から出させた。

 ディセートが行ってからそれ程時間は経っていないが、王妃様がお呼びだと?

 こんな目に合わせたんだ、一言文句は言ってやるからな。

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