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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
異世界吸血鬼は世界欺く初恋少女を紡ぎたい。

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第4話 傷痕


「……ん……ここは……」


 目が覚めると見覚えの無い天井……

 あぁ……そうだった。俺は今聖国へ来ているんだった。


「……よっこいせ……──!?」

「……んっ……」


 ベッドから起き上がろうと手を付くと、むにゅっとした感覚が……

 待ってくれよどんだけベタな──


「……朝から手を出すなんて……ケダモノ」

「ご、誤解だ!!」

「誤解だと言うのならいい加減私の胸から手を離しなさいよ」


 しまった!あまりの吸い付きの良さに手が勝手に!!

 ふむ……ルークよりも少し大きく、形はお椀型……やるじゃないか高坂。


「……ぁっ……ねぇ……いつまで揉んでいるの……?」

「おぉ!?な、何故だ!手が離れない……!?」


 あまりの型の良さに揉みながら分析を開始してしまっていた!!

 いい加減頭を働かせて、理性を取り戻せ俺……


「わ、悪かった──」

「待って!」


 俺が胸から手を離すと、今まで寝転がっていた高坂が急にガバッと、俺の腕にしがみついてきた。


「おわっ!?な、何だ!?」

「いきなり離れたら胸、全部見えちゃうわ……」

「へ?」


 高坂が抱き付いてきてようやく気付いた。

 こいつ、全裸だ──


「お、お前何で服着てないんだ!?」

「ネグリジェを着ていたわ。でも……貴方が夜中、急に脱がせ始めたんじゃない……憶えてないの?」

「い、いや全く……」

「……どんな寝相をしてるの。私は襲われる覚悟をしたと言うのに、体を弄るだけ弄って終わりだなんて……」


 顔を真っ赤にしてそんな事を言わないでくれ!?

 と、言うかだな……!


「俺とお前は何で同じベッドで寝てるんでしょうか……確かベッドは2つあったような……?」


 昨日高坂の部屋に着いた時、一応プライベート空間は分けられる様にと、薄いカーテンが引かれていたはず……

 寝る時だって別々に寝たはずだぞ!?


「あんな邪魔な物さっさと処分したわ。ベッドも一つあれば十分でしょ」

「だからカーテンとお前のベッドが無くなってるのか!さっさと戻せ!こんなのが続いたら──」

「私を襲っちゃう?いいわよ、滝川なら」

「お、お前なぁ!?」


 裸で抱き付かれながら上目遣いでそんな事を言うなよ!!

 マ、マジでそろそろ限か──


「グッッ……!」

「た、滝川……!?どうしたの!?」


 喉が乾く……!!

 ヤ、ヤバい吸血衝動だ……!!


 どうしていきなり……最近は吸血鬼としての力も完全にコントロールし始めていたのに……


「滝川……その瞳……!」

「高坂……離……れろ!これは、ちょっと……まずい……!」

「吸血衝動……!」


 恐らく俺の瞳は普段の黒色から、深紅に染まっているんだろう。

 

 紅……駄目だ……頭が血で一杯だ……!


 目の前には高坂がいるんだぞ……!!

 高坂の白い肌……綺麗な首筋……


「……高……坂、離れ──」

「……いいわよ。おいで滝川」


 高坂はしがみついていた腕を解き、俺の頭を撫でた。

 彼女は黒く艶やかで長い髪を、細い指で掻き分け、白くて柔らかそうな首筋を露にする。


 そのあまりの妖艶さに俺の理性は完全に失われた。

 高坂の血……首筋から浮き出た血管から想像を掻き立てられる。


 ──あぁ、彼女の血はどれ程甘美な味わいなのだろうか。


「シャアッッ──」

「……いっ……ったぁぁ……」


 本能の赴くまま噛み付いた。

 溢れ出る血を目一杯吸い込み、飲み込んだ。


 ドクンッ、と心臓が跳ねる。


「……ほら……もっと飲みなさい。()──」


 首筋に噛み付いて離れない俺の頭を抱き締める高坂。

 喉の乾きが癒え、段々と自我が戻ってくる。


「高坂……俺は……」

「あら、もう満足なの……?」


 そっと牙を抜くと、高坂はやや不満気な顔をしていた。


「悪い……」

「いいわ、許してあげる。その代わり──」


 高坂は何も纏っていない、無垢な体を隠すよ様に後ろを向いた。


「貴方が汚したこの体、嘗めてキレイにしなさい」

「分かったよ……後できちんと治癒魔法を掛けてもらえよ」

「フフ、嫌よ。貴方が付けた傷痕はずっと残しておくわ」


 彼女は、深く穴が空いてしまった首筋を押さえて、妖しく微笑んだ。


 俺は彼女に言われるがまま、傷口から流れ出る血を嘗め取った。

 首筋から肩、背中へと舌を這わせて。


「……ちょっとこそばゆいわね……でも何かしら……」

「なんふぁよ」

「貴方とこんな事をしてるのが不思議で……」


 さすがに前の方はいいだろうと思ったので、高坂の体から離れ、後ろを向いた。


「それは俺もだよ。まさかお前がこの世界にいるとは思わなかったしな」

「あら、先に来ていたのは私なのよ?」

「そう言えばここに来てどれくらいなんだ?」


 やっと高坂の事を聞ける。

 彼女は背中を向けたまま、素直に答えてくれた。


「そうね……そろそろ3年くらいかしら?」

「えっ?それじゃあ向こうとこっちの世界じゃ流れる時間が違うのか……?」

「さぁ?滝川がそう思うならそうなんじゃない?それより──」


 高坂は胸元を隠しながら、こちらを向きやがった。

 ち、ちなみに下半身はシーツで隠れて見えてないからな!断じて!!


「こっちがまだよ。早くしなさい」

「無理に決まってんだろーが!!」

「駄目よ。ほら、谷間に血が溜まって──」

「わ、分かったから説明しないでくれ!!」


 やれやれ、朝から災難だ……

 しかし──


 高坂との共同生活……結構楽しいじゃねぇか。



「閣下、首尾は如何様ですか?」

「そうね……まぁこの薬の効き目に関しては上々かしら」


 激動の朝を終えた後、ユウは少し用があると言って大聖堂から出て行った。

 自室に一人残された遥は、側付きを呼びカラになった薬品の瓶を手渡した。


「……それにしても貴方達"聖職者達"の研究員というのは恐ろしいわね……世界最強の吸血鬼に効く薬を作るとは……」

「お褒めに預かり恐縮で御座います。しかし、閣下の目的を果たせる程の効果は得られませんでしたか」


 遥の目的──ユウをわざわざ聖国へ呼び付け、引いては彼女が女皇になった理由。

 彼女は、未だそれを誰にも語りはしていなかった。

 なので側付きも大方吸血鬼、それも真祖の血脈を継いだ子を設ける為だろう、くらいにしか思っていなかった。

 

「効果、ね……吸血鬼としての本能を引き出す薬だったかしら?」 

「左様で御座います。予想外だったのは吸血鬼に生殖本能は薄く、吸血本能の方が濃かった事ですが……」

「当然でしょう。彼らは不死身、繁殖をする必要はないもの」


 側付きは、解っていたのなら何故この薬を求めたのか、そう思ったが口には出さない。

 彼女の持つ恐ろしい一面を知っているからだ。


 側付きは話題を変える事にした。

 ふと目に付いた、未だ血が滲んでいる遥の首筋の傷口の治療を提案する。


「……閣下、恐らく吸血鬼にやられた傷口でしょうそちらの治療を致しましょう」


 側付きの何気ないユウへの呼び方に、遥は酷く苛立ちを憶えた。


吸血鬼(・・・)?貴女、口の聞き方がなっていないわね……私の客人に向かって──」

「し、失礼致しました……!タ、タキガワ様との行為の痕の治療を……」


 一瞬で凍る様な雰囲気を醸し出され、怯えきった側付きは、それでもなお遥の傷口の心配をするが──


「必要ないわ。あぁ……でもそうね、やっぱり激しくされて痛いから、傷口を塞ぐ程度には治療して貰おうかしら。ただし──」


 ユウに向けていた、仄かな暖かさを含んだ微笑など、一切感じさせない冷たい視線で、側付きを見下ろした。


「せっかく彼が残してくれた私への傷痕(贈り物)を消したら……そうね、死ぬ程に苦しみ抜いた末に殺してあげるわ」

「き、肝に命じておきます……!」


 側付きは地面に額を擦り付け、遥に十分に理解をしたと示した。

 それに満足したのか、氷の様な態度を溶かした。


「さてと、滝川も出て行っちゃった事だし、私もお仕事をしますか」

「……本日のタスクはこちらとなっております」

「分かったわ。そうだ、滝川が帰って来たらすぐに私の所に連れて来て頂戴。彼にはそろそろこの世界の真実を知って貰わないと」

「かしこまりました──」


 遥は側付きを下がらせると、愛用のロングコートを羽織り、自室を出た。


 長い廊下を歩きながら、ユウに刻まれた牙の痕を押さえる。

 ズキンと痛む首筋に彼の温度を感じながら、独り言ちた。


「滝川……楽しい時間は終わりよ。貴方に課される試練(・・)はもう既に始まっているわよ──」

お読み下さりありがとうございます!

実は私のTwitterアカウントの方でですね、ルークのイメージイラストを水着仕立てでアップしております!


自分で描いた物なので全然上手では無いのですが……

ルークってこんな感じなんだふーんくらいに思って貰えれば良きです。笑

エキナとかも見たい!があればDMや感想でも構いませんご意見お待ちしておりますm(_ _)m

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