第3話 今度こそ失敗はしない
「……ここが大聖堂、か」
「えぇ。よく名前まで知ってたわね」
「ん、あぁまぁ有名だからな」
1日中高坂に連れ回された俺は、夜20時頃ようやく聖国の中心である大聖堂へと辿り着いた。
ルークから聞いていた話通り、大聖堂の敷地内はだだっ広く、端の方に大きな建物があるだけだった。
いや待て、あまりに巨大過ぎて気付かなかったが──
「な、なぁ高坂。あのでっけぇ樹はなんだ……!?」
「あぁあれ?この国を支える神様が宿ると言われている聖樹よ。」
「へ、へぇ……あまりにでかすぎて逆に近付くまで分からなかった……」
聖樹の根元は教会のすぐ隣にあり、恐らく聖国の領外からでも肉眼で捉えられる程に大きい。
まさにこの国を支える御神木と言った感じだ。
そしてその隣には、聖樹の半分程の高さを誇る、巨大な建造物。
──あれが教会か。
俺は高く聳え立つ教会の先端まで見上げた。
「……高坂はここに住んでるのか?」
「そうよ。私が寝泊まりしているのは教会の地下だけどね」
「へぇ……」
正直あまりいい印象が無い為、素っ気ない返事をしてしまった。
高坂はそれが癪だったのかムスっとした顔で俺の方を見た。
「一番上の見晴らしがいい所じゃ無くて悪かったわね」
「い、いや。それにお前がどこで暮らそうが俺には関係無いよ」
「なに言ってるの?」
「へ?」
なんだ?本気でバカにしたような顔して……
高坂は呆れたように続きを口にした。
「貴方、これからどこで生活するつもりなのよ」
「安い宿をしばらく借りようかと……」
「私の客人にそんな対応する訳ないでしょう?」
待て……何か嫌な予感がする。
そしてこういう予感は的中するものだ──
「ほら、早く帰るわよ。私の部屋に」
「お、お前の部屋!?」
「……そうよ。これからしばらくよろしくね滝川♡」
俺を先導するように一歩前へ出た高坂は、少し頬を染めながら微笑んでいた。
※
「どういう事なのアデラート!!」
「ル、ルーク君落ち着きたまえ……」
時刻は17時。あたしは今アデラート学園の学園長室に来ている。
当然、エキナも一緒ダヨ。
「学園長、私からもお願いです。ユウ君が休学して聖国へ行ったってどういう事なんですか?」
「……そう言われてもねぇ……」
先程からあたし達に曖昧な返事をしているのは【アデラート・ジル・リレミト】
恐ろしい程の美形で銀髪、さらに高身長というまぁ普通の女が見たら惹かれる様な外見だネ。ユウには負けるケド!
戸籍上のユウの兄であり、この学園の学園長だ。
はっきり言ってあたしはこの男が嫌いだ。
何を考えているか分からないタイプだし、この前の戦争の時、"聖職者達"の幹部の一人をドン引きするくらいの殺し方をしたと聞いた。
心の内に一体何を抱えているのやら……どうでもいいけどネ。
今はそんな事よりも大事な事がある!
「今朝、あたし達が目覚めたらユウが居なくなってたの。先を見通せるあんたなら何か分かるでしょ!」
「困ったねぇ……」
アデラートは腕を組んで、トントンとリズムを取っている。
こいつには未来視という反則的な特異能力がある。
ただ、ユウが絡む未来ははっきりとは分からないみたいなんだよネ。案外使えない男だ全く。
「……一応言っておくけど、僕も詳しくは分からないよ。ただ休学届けが今朝提出されていて、少なくとも今はそこまで悪い未来は視えないよ」
「……ユウ君、どうして……」
エキナは不安そうに俯いた。
あたしも不安と怒りで頭がどうにかなりそうだ。
──どうしていつも勝手に……一人で……!!
あたし達がユウが居なくなって、何かおかしいと気付いたのはお昼の事だ。
今日は学園は休みで、ユウはまたメリアの墓参りに行ってるんだと思っていた。
メリア──【メリア・アン・ウィーネ】
彼女はすらっと手足が長く、毛先を少し遊ばせたあたしやエキナよりも背の高いギャルっぽい人間だった。
メリアは既にこの世を去っており、その死に責任を感じているユウは、未だ心に傷を負ってる……
ユウはお家でゴロゴロするのが死ぬ程好きなタイプだからネ、外出する理由はそれくらいしか思い付かなかった。
ケド、さすがに帰って来るのが遅いなと思って、探知魔法を使ったんだ。
そしたらこの国にユウの反応が無くて、ユウと出会う前以来に、世界中に探知魔法を拡げてみたら──
「聖国にユウの反応があるのは間違い無い。あたし達が聞きたいのは何の目的があってそうしたかって事。アデラート、あんた何か分かってるんじゃないの?」
悪い未来は視えないとは言ってるケド、それはつまりある程度の未来が視えているという事だ。
アデラートはあたし達から少し視線を外し、質問とは違う話をし始めた。
「……エキナ君の聖女としての力は覚醒しなかったと聞いている。事実かい?」
「……は、はい。精霊のセレントちゃんに聞いても分からないと言ってました……」
精霊【セレント】──エキナが契約している小さな精霊で、200年前からのあたしとの知り合いでもある。
精霊とは、悠久の時を生きてきたあたしよりも前から存在している生命体だ。
生きる目的を聖女の力の覚醒としていて、目的の為なら若干手段を問わない所がある。
聖女の力の覚醒方法を知っており、彼女の言う通りの方法を試したが、上手くいかなかった。
でもそれが今、何の関係が──
「僕が視えた未来の一つでは……夕はエキナ君の力を覚醒させているよ。そして──」
「メリアを生き返らせるつもり……!?」
「正解だ」
正直……ユウが聖国へ行く理由はそれしか無いと思ってた部分もある。
でも疑問なのは、どうしてあたし達を置いていったのかという所だ。
エキナも同じ結論に至ったのか、あたしが口を開くよりも先に、アデラートに問い掛けた。
「それなら私達に黙っている理由になりません。もっと他にあるんじゃないですか……?」
「さぁね……僕に分かるのはここまでだ。後は本人に聞いてみればいいさ」
アデラートはそれ以上語る気は無いと言わんばかりに、指を鳴らし転移の魔法発動させた。
「僕も色々忙しいからね。これで失礼するよ」
「……アデラート、本当に悪い未来は無いんだよネ……?」
「少なくとも今は、ね──」
アデラートはそのまま消える様にどこかへ転移して行った。
残されたあたし達はお互いの顔を見合せ、意思を確認し合う。
「エキナ……どうする?」
「変な事を聞きますねルーク。決まってるじゃないですか」
「ヒヒ、さすがだネ聖女様」
確認なんてしなくてもあたし達の心にある答えは決まりきっていた。
まさかまた、200年前と似たよう状況になるとは思わなかったヨ……
そうだネ……今度こそ失敗はしない──
「エキナ、ユウをぶっ飛ばしてでも必ず連れ戻すよ!!」
「はい!!今度ばっかりはユウ君にはきついお仕置きが必要です!!」
ユウが聖国で何をするつもりなのかは知らない。
学園を退学じゃなくて、休学だからその内戻って来るつもりなのかも知れない。
ただ、あたし達に言えない何かがあるのは確かなんだ。
だから必ず問い質してやる。
それに、あんまりあの国には居てほしくない……
あそこはあたしにとって因縁深い場所だから……
「ルーク、今度は私も居ます。200年前とは状況も危険度も違いますし大丈夫ですよ」
「エキナ……」
不安そうな顔をしちゃってたのカナ……
ダメダメ!こんなんじゃあの子達にまた笑われちゃ──
アハハ……自分でも笑っちゃうや。
今、思考が200年前に戻っちゃった。
孤児院はもう無いし、あの場所に居た子供達ももう居ない。
みんな立派な大人になって幸せにこの世を去ってくれた。
それがどれだけ嬉しかったか思い出しなさい。
いい加減しっかりしろあたし!!
「ごめんネ、もう大丈夫。今のあたしにはエキナやユウが居る!!」
エキナはにっこりと笑ってあたしの手を取った。
「はい!ルーク、今は私達が家族ですからね!!」
「バカ……!泣かせないでよ……!」
「ふふっ、可愛いですよルーク」
全く……!
あたしは本当に幸せ者だ……!
──ユウ、待ってなさいよ。
みんなが繋いでくれたこの幸せをユウが台無しにしたら絶対許さないんだから!!
「さぁ、行きましょうルーク!」
「うん!!」
お読み下さりありがとうございます!
次回もまた宜しくお願いします!




