第2話 ギャンブルは程々に……
「……なぁ高坂」
「……」
「高坂!」
「え?なに?聞こえないわ」
「……もういい」
俺が高坂の転移魔法にて、聖国に訪れてから早10時間程。
俺達は今──
「滝川!!大変よ!!中段チェリーよ!!!」
「……あぁ良かったな……お前の嬉しそうな顔が見れて俺も嬉しいよ……」
ここがパチンコ屋じゃ無ければな──
俺は一体何をやってるんだ?
寝不足のせいで聖国に来てからの記憶があやふやだ。
落ち着いて思い出そう……
まず俺は聖国に来ている。
これは間違いない。
わざわざルークやエキナ達に黙ってこの国にやって来たんだ。
はっきり言って遊んでる場合じゃ無い筈だ。
だと言うのに──
「……来る!!」
「なに?何が来るって?」
「──ワルプルギスの夜!!」
「え、斎藤○和様ボイスで言うの止めてくんない?」
それにお前、初代じゃ無くて2代目派なのか。
……そうだ、思い出した。
こいつが突然パチンコ屋に行きたいって言い出したんだった。
おかげで聖国に着くなり、この国で一番出ると言われているらしい店まで来て、朝早くから抽選を受ける羽目になったんだ……
そもそも何で異世界にパチンコ屋があるんだよ……
しかもよりにもよって仮にも聖なる国に……
高坂はえらく興奮してるけど、俺は正直このテンションについていけない……
「……凄いわ……!もう50連目よ……!!」
「うわ、すげぇな上乗せ1000G余裕で越えてるじゃん」
「フッ……やっぱり奇跡も魔法も──」
「うん高坂ちょっと落ち着こうか」
ここまでの会話で分かる人には分かるだろうが俺達は今スロットを打っている。
前の世界でも何度か触れたことはあるから分かるが、高坂のコインの投入の仕方や、いわゆる叩き所でのレバーの力の入れ方を見るに──
「……お前、結構頻繁に来てるだろ」
「え?えぇそうよ?悪いかしら?」
「いや悪くはないけどさ……」
そろそろ何でここに来ているのかの説明が欲しい。
もうお昼を過ぎ、いい加減腹も減ってきた。
「高坂、いい加減お昼でも食べに行かないか?」
「……そうね、特化ゾーンも終わった事だしね。行きましょうか」
俺達は店員を呼び、45分程の休憩を貰い店を出た。
耳がキンキンしてやがる……
俺は近くに美味しい店があると言う高坂のやや後ろを歩く。
思い返せば、昔もこうしてこいつの行きたい所に無理矢理連れ回されたな……
それにしても──
「……お前、今度は何やってんの?」
高坂は歩きながら新聞に印を入れている。
俺の質問に高坂はこちらを見もせず淡々と答えた。
「何って……見たら分かるでしょ?競魔」
「いや知らないんだけど」
「向こうの世界で言う競馬や競輪みたいなものよ。やったことないの?」
ようやく俺の方を見たと思ったら、嘘でしょう?みたいな顔をしてやがる……
「お前なんでそんなギャンブラーになってんだよ……」
「私、大人になる前に死んじゃったからね。大人じゃないと出来ない事をこの世界では全部するって決めてるの」
再び前を向いた高坂は、無感情にそんな事を言う。
……何も言い返せないじゃないか。
返事を返せないまま、高坂オススメの店の前まで着いてしまった。
店に入る前から漂う、鶏ガラスープ独特の香りは懐かしいあの料理を思い出させた。
「ここは……?」
「超こってりのラーメン屋!!」
「なぁお前の中身おっさんじゃないよな?」
今の所、とてもこいつが元女子高生とは思えない。
そう言えば、高坂はここに来てどれくらいなのだろうか。
本当、何も知らずに何をやってるんだ俺は……
店に入り、店員が注文を取りに来たが何が美味しいのか分からないので、高坂オススメのラーメンを頼む。
「かしこまりました。麺の固さや太さはどうされますか?」
『細麺バリカタで』
偶然にもユニゾンをかました俺達。
店員はニッコリと笑い、厨房へと戻って行く。
何故か高坂は得意気な顔をしている。
「分かってるじゃない」
「俺はどんなラーメンもこうやって頼むんだよ」
「今度ちぢれ麺も食べてみなさい。かなりオススメよ」
上から目線でアドバイスを言えたからか、満足そうな高坂。
料理はすぐにやって来て、一口すする。
「う、旨い……!」
「滝川もやっぱりこってり派よね。そうだと思ったわ」
「え、なんで?」
ラーメンをすすりながら、変な決め付けをされてしまった。
こってりが好きそうな顔ってこと?なんだそれ。
「私が好きな物を貴方が嫌いな訳がないもの」
「……なんだそれ……」
高坂はそれ以上言うことは無いと言わんばかりに、目線をラーメンに注ぎ込んでいる。
少し様子を見ていると、レンゲでスープを掬い、少量の麺を浸した。
そしてちまちまとラーメンの具を少しずつその中に入れ始めた。
こいつ……一にして全と言われるミニラーメンで喰うとは。
「……なに」
「い、いや何でもない」
じっと見てしまった為、怪訝な顔をされた。
しかし、ミニラーメンを作って食べるなら、ようやく会話が出来るな。
「なぁそろそろお前の目的を教えてくれないか?」
「……嫌よ。まだ早いわそれに──」
「それに?」
答えを急かすと、高坂は少し顔を赤くした。
「……もう少し、貴方とデートしていたいの」
「デ、デートって……!?」
考えも付かない事を急に言われてしまった。
高坂はテンパる俺を横目で見た後、レンゲを口へ運んだ。
「……早く食べなひゃい。伸びうわよ」
「お前こそ飲み込んでから喋れよ……」
俺達を取り巻くこの空気感が少し、いやかなり懐かしい。
全然気を遣わない、だからこそお互いにツッコミ所があって。
──そうだ。こいつのこういう所に俺は段々と惹かれていったんだ。
だからこそ高坂が死んだ時、俺は──
「た、滝川……なんで泣いてるの……?」
「え?」
ラーメンのスープに涙が一粒落ちて、ようやく俺は自分が涙を流している事に気付いた。
「ごめん……やっぱり私と一緒に居るの嫌だよね……」
「ち、違う!これは……そ、そう!ラーメンの美味しさに感激して……!」
いきなり席から立ち上がり、まぁまぁデカイ声でそんな事を言ったものだから、店主にグッと親指を立てられてしまった。
周りの客からまだらに拍手も起きている……
は、恥ずかしい……
「そう……ならいいのよ」
「あ、あぁ悪かったな急に」
「えぇ。……嘘つき」
「え?なんて?」
「何も無いわよ。ほら、早く食べなさい。そろそろ店に戻りましょう」
高坂は一足早く完食し、スープまで飲み干している。
塩分過多で太っても知らんぞ。
俺も急いで麺をすすり、スープまで飲みきった。
普段は飲まないけど、何か器を空にしなきゃいけない空気になってたんだ……
会計が終わった後、店主が「また来いよ坊主!今度は死ぬ程こってりのスープを飲ませてやる!!」と言ってきたくらいだ。
俺を殺す気か。いやまぁ死ねないんだけど。
パチンコ店に戻る道中、先程の競魔とやらの予想を立てている高坂に、ふと気になった事を聞いてみた。
「なぁ高坂ってどれくらいギャンブルで負けてるの?」
勝ってるの?じゃなくて負けてるの?と聞いてやった。
ギャンブルで勝ってる訳無いだろうし。
それに、どうせ金には困ってないだろうしな。
仮にも女皇、この国のトップな訳だし。
高坂はかなり嫌そうな顔をして、ちらっと俺をみた。
「……何でそんな事聞くの?」
「いや、何となく……もしかして収支プラスなのか?」
もしそうだったら凄い事だぞ。
高坂は歩くペースを早め、俺から少し距離取った。
「……100……く」
「ちょ、早いって。何だって?」
「だから100億だって」
「え、100億も勝ってるのか!?」
「……マイナス100億……」
絶句してしまった。こいつアホだろう。
それに、この国のギャンブル事業恐ろしいな。
どんな射幸性してんだ……?
「な、なぁお前ギャンブル向いてないんじゃ……」
「いいえ、今から私は期待値の塊をブン回すのよ。ここから確率が収束するはず」
「どっから沸いてくるんだその自信……」
早る気持ち抑えて俺達はパチンコ屋へと戻った。
そして──
「……なぁお前やっぱギャンブル向いてねぇって……」
「……まさか……獲得していた1800G、ほぼ駆け抜けるとはね……」
高坂は純増1.5枚だから──つまり、約2700枚程のメダル獲得はしたが、これははっきり言ってあり得ない程の引き弱だ。
「ち、ちなみにスロット打ちながらやってた競魔は……?」
「……おかしいの。今世代最強のエルジェーミアが飛んじゃったの……」
「凄まじいな……呪いじゃないのか……」
もうこいつが一体いくら賭けたのか、聞く気も起きない。
ただ一言、言える事があるとすれば──
「ギャンブルは程々にな……」
「……」
「高坂?」
高坂はガックリ肩を沈めていたが、俺の顔を見て叫んだ。
「それでも!!!!」
「もう俺はお前のキャラが分からないよ……」
聖国、その中心にある大聖堂へ向かうまでこれ程掛かるとは思いもしなかった。
俺は心から思う。
ごめんな……ルーク、エキナ……
お読み下さりありがとうございます!
今回のお話、入れるか凄く悩んだのですが高坂遥というキャラを知って貰う為にチャレンジしました。
真面目なお話ばかりだったので、箸休め的な感じという事でご容赦を……
次回からはきちんとお話が動きますのでぜひまたよろしくお願いします!




