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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。
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第5話 約束


 学園長室でアデラート・ジル・リレミトは不意に訪れた、自らに降り掛かり得る未来を予知した。予知してしまった。


「……最悪だ」

「学園長?」


 急に立ち上がったアデラートを見て、驚いたのは秘書ミラ・イル・ルーデランド。

 血相を変えて慌てだしたアデラートはミラに指示を飛ばす。


「ミラ、緊急事態だ。僕はすぐに王宮へ向かうよ、君は学園を頼む」

「それは大丈夫ですが、一体何が……?」


 ミラは、恐らく何か視えたのだろうとは分かっていたが、聞かずにはいられなかった。


「……いくつかの分岐した未来だが、最悪の場合、王国が滅びる」 

「な……!?」

「全く、手の掛かる弟だよ……!」


 アデラートは、急いで手を回す為に王宮へ向かう──



「久しぶりだね、ユウ!」


 赤黒い霧の中から現れたのは俺を吸血鬼にした張本人、元真祖ルーク・エリザヴェート。

 今はその力を俺が受け継ぎ、彼女は俺の契約者として俺の血の中で生きている。

 まぁ正確には契約はしていないんだが……


 少し説明すると──

 主従の契約には相手の真名を知る必要があり、俺はそれを知らない。

 そもそもルークと会うのはこれでまだ二度目だ。

 彼女がこの世界に俺を招いた時、契約など知るはずもない俺は、彼女に血の中で休ませてと言われ、そして言われるがまま彼女を受け入れ、今に至るまで彼女は眠ったままだった。


 リレミト家で厄介になっていた4ヵ月の間に一度アデラートから教えて貰った魔族との契約。

 それは彼らにとって生きていく上で必要不可欠で、特別な意味を持つと聞いている。

 あいつはそれ以上知る必要はないと、詳しい契約の仕方などは教えてくれなかった。本当にいい加減な奴だ。


 ──説明終わり!

 

 ルークが色素の抜けた薄紫の長い髪を靡かせて、小柄だがちゃんと発育した体で俺に抱き付いてくる。


「ちょ、じゃれてる場合じゃないんだって、前みろ前!」


 俺達の目の前にはティラノサウルス型の大きなモンスターがひっくり返っている。だがすぐに起き上がって攻撃してくるだろう。しかし……


「やだ。あたしの事4ヵ月もほったらかしにして、怒ってるんだからね」

「いやお前眠ってたじゃん!」

「呼んでくれたらすぐ起きたもん。ばか」


 ぎゅーっと段々と力を強めてくるが、本当にじゃれてる場合じゃない。


「わ、悪かった。後で何でも言うこと聞いてやるから今はあいつを倒すぞ!」

「!! 絶対だよ!!」


 キラキラした目で見てくるなよ、可愛いだろうが。

 ようやくモンスターに興味を持ってくれたルークは当然の疑問を口にする。


「でも倒すって言ったってユウ1人で倒せるんじゃないの?」

「あいつ無駄に頑丈なんだよ」

「ほら、あれは?たまたまユウの中から見てたんだけど魔力をバァーってするやつ!」

「あれはダメだ。このダンジョンにいる皆が生き埋めになる」


 ルークが言っているのは学園に入学する前、アデラートに修行を付けられていた時の事だ。

 魔力をコントロールできる様になる為、アデラートに言って何もないだだっ広い荒野移動し、試しに魔力を掌に集中させて放出してみた。


 ……これが良くなかった。


 掌に収束した魔力は前方向に拡散され、全長およそ10kmに渡り、周囲を焼き付くした。

 俺は魔力砲と呼んでいるが、要はバカデカイ魔力を解き放つだけだ。

 マダ○テだと思ってくれればいい。MPは尽きないけどな。


「あれ、あたし好みのド派手な技だったのになぁ」

「まだ威力が調整できないんだよ。抑えすぎてもあのモンスターには効かないだろうし」

「やれやれ、しょうがないご主人様だねぇ」


 肩をすくめるルークに少しイラっとしたが、今はルークに頼るしかない。


「さっさと終わらせるぞ、ルーク」

「了解、あたしの英雄マスター


 立ち上がったモンスターは、口の中に大量の魔力を溜め込んでいる。

 ブレス攻撃でもするつもりか──


「甘いよ」


 指をパチンと鳴らしたルークは奴の口元に集まっていた魔力を一瞬で散らしてしまった。

 相手の魔力よりも大きな魔力で書き消したのか……?

 さすが元真祖様。魔力のコントロールが桁違いだ。

 俺は何が起こったのか分からず、驚いて固まっている奴の腹に迫る。


「せぇ……のぉ!!!」


 全力の一撃で右ストレートを打ち込む。

 壁際までぶっ飛ばし、ルークに止めを刺すよう叫ぶ。


「ルーク!」

「──インフェルノ」


 モンスターの足元に魔方陣浮かび上がる。

 陣は円柱の様に奴の頭まで覆い、その中に地獄の業火が燃え盛る。

 魔法で出来た円柱から逃れられず、焼き付くされ、あの火力では骨も残らないだろう。


「……一瞬だったな」

「だから、あたしを呼ぶまでもない相手だってば」 「俺じゃこのダンジョンごと破壊して終わりだよ」 「ヒヒ、いいじゃんそれ。見てみたかったカモ」

「俺が大災害認定されるだろうが……」


 ともかく、後は核を回収しダンジョンから出るだけだ。

 だが、ルークに血の中に戻るよう伝える為彼女の方を向くと、青ざめた顔をしていた。


「……ルーク?」

「……まずいよ。あのモンスター、魔力を核に集めてる……」

「つまり……?」

「ん~爆発する3秒前ってところだね!」


 俺が最後に見たのはニコっと笑う元吸血姫の可愛い笑顔だった──

 

「ぎゃぁぁぁぁぁあああ!!!!」



「うぅ……」


 ここは……病院か……?

 周りには俺と同じ様に怪我をした生徒達が横たわっている。

 病院ではなくアデラート学園の病室のようだ。

 あんな大爆発に巻き込まれて五体満足とは、これが真祖の体か……

 体を起こすと、隣には俺を見て慌てて顔を近付けてくるエキナが居た。


「ユウ君!!分かりますか!?エキナです!」

「エキナ……あぁ……大丈夫だ……」

「良かった……本当に……良かった……!」


 俺に抱き付いてくるエキナは、ボロボロに泣いていた。


「起きたら学園に居るし、ユウ君が一人残ったと聞いてすぐ応援を向かわせようとしたらダンジョンが崩壊するし、一体何が何だか……!」

「ダンジョンが崩壊って……ハハハ……」


 苦笑していると、エキナは俺の胸に顔をうずめて俺を叱責する。


「どうして1人で無茶したんですか、どうして私の言うことを聞いてくれなかったんですか!!」

「あんまり大きな声出すなよ、周りの迷惑だろ……」

「へぇ……」


 抱き締める力が強くなったぞ……?

 本気で怒らせてしまっただろうか。

 すると、耳元で甘い声が聞こえてくる。


「ユウ君にはお仕置きが必要なようですね……」


 ……ゾクゾクした。

 とても温度は感じられない声だったのに、甘く溶けてしまいそうだ……

 俺が変な性癖目覚めたら責任取ってくれるの!?

 身震いしていると、今度は背後から冷気を感じる。


「ねぇユウ、その女と何してるのカナ?」

「え?」


 エキナに抱き締められたまま、首だけ後ろへ回すとそこにいたのは──


「──ルーク、何故そんな冷たい魔力を俺に浴びせてくるんだ……?」

「あたしは、その女と何をしてるのか聞いてるんだけど?」


 おいおい、何で修羅場的な空気に……?


「キミもいい加減離れなよ……!」


 ルークは、恐ろしく冷たい視線を今度はエキナへと向ける。


「す、すみません……」

「おいルーク、あんまりエキナに当たるなよ」

「何をしてたのか答えないならユウは黙ってて!」


 こ、こいつ、勝手に出てきたくせに横暴な!?

 せっかく、エキナの豊満な体を楽しんでいたのに、離れてしまったじゃないか。

 というか、血を流して呼び出していないのに出てこれたのか?

 そんなの聞いてないぞ……

 俺が黙っていると、ルークはエキナに顔を近付ける。


「ねぇキミ、ユウとどういう関係なの?」

「えぇ!?ユウ君と私の関係ですか……?」


 2人で話し出したので、今の内に横に置いてある水を一口含み落ち着かせてもらう。

 少し逡巡した後、エキナは顔を赤くしてキッパリと告げた。


「セクハラの加害者と被害者です!!」

「なっ!!??」

「ブゥッッ!!」


 周りがすごい視線でこっちを見てるぞ!?


「ユウ!!あたしそんなこと聞いてないんだケド!?」

「ご、誤解だ!!」

「ちゃんと説明して!!」

「それは……お前こんな公衆の面前で言えるか!」

「へぇ?そう、人前で言えないよーな事したんだ!?」

「うっ……」


 仕方ない周りには聞こえない様に小声で伝えるか……


「ち、ちらっとパンツを見ただけだ!」

「ちょっと違います。が……がっつり見られました……」


 エキナさん!?


「それとユウ君は私と話す時、顔よりも胸の方を見て話します。胸とお話するどへんたいさんです」

「ユウ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 ルーク、頼むからその鬼の形相止めて……


「しかもユウ君は私の胸をチラチラ見てるのを隠せてると思っているみたいなんです。私が顔を少しずらすとニヤニヤしてるんです」

「お願いやめて。もう俺のライフは0よ……」


 もうダメだ。死んだぁ。社会的に死んだぁ……

 あまりの俺の情け無さにルークがしょんぼりしてるじゃないか……

 ごめんね情けないご主人様で。


「ユウ……あたしの時は胸なんか見ないのに……」


 お前と話したのって出会ってすぐとダンジョンで呼び出した時だけじゃないか!

 だが、見ていない訳じゃない甘いな元真祖。


「え?いやいや、お前の少し控えめだが確かな実りを感じるその果実も実に素晴らしいと俺はお──ぼぉぉっっ!!」


 気が付くと、世界が回転していた。


「褒めたのに、なんで!?」

「……2人きりの時に言って。今のじゃただのセクハラだもん……」


 ルークは顔を真っ赤にしてモジモジしているが……

 壁にめり込んで無ければ、素直に可愛いと思えるんだがなちくしょう。

 俺をぶっ飛ばした張本人には頼みづらいので、エキナに救出を求める。 


「エ、エキナ……引っ張ってくれないか?」

「怪我も無く元気そうなので、ユウ君は少し反省してて下さい。色んな意味で」


 エキナはぷいっと俺から顔を反らしてしまった。

 いや、現在進行形で怪我してるんだけど……

 ここでお仕置きを使うのかよ……



 あまりの騒がしさに医務室を追い出された俺は、現在寮の自室にあるベッドの上で寝転んでいた。

 ルークは今も俺の血の中に戻らず、俺と背中合わせで反対側に寝転んでいる。


「なぁ、ルーク」

「……ナニ」

「少し真面目な話をしていいか?」

「……えっちなユウが真面目な話、ネ?」


 まだ怒ってたのかよ。


「あの件は忘れろ。こうしてゆっくり話すのも初めてだからな。いい機会だ、聞いておきたいことがある」

「……ドーゾ」


 俺達はお互い顔も見ないで話しているがなんとなく聞きづらい事でも聞けてしまうような心地良さがある。

 ルークが俺に醸し出す雰囲気のせいだろうか。

 ──まるで旧知の相手をしているかのような。


「なんでこの世界に俺を喚んだんだ?」

「……約束だから」


 誰との約束だろうか。

 少なくとも気まぐれでこの世界に来させられた訳ではなさそうだ。

 俺は質問を続ける。


「誰との?」

「先代のあたしの契約者」

「それって……」


 おそらく、この世界の英雄のことだろうか……?

 俺が確認する前にルークが答えてくる。


「ユウの想像通り、英雄と呼ばれてる男。ど?嫉妬した?」


 言うと同時に俺の方を向いてきた。

 ち、近い……


「……し、しないよ。別に恋人でもないんだし」

「そうだね。あたし達はそんなチープな関係じゃないもんね……」

「俺達はパートナーだろ? 」

「ユウはもっと女心を勉強した方がいいね。あたしはもっと簡単でいいのに」

「え?」

「……避けたら泣くから」


 ルークは只でさえ近付いた顔を更に近付けてきた。


「ルー……!?」


 重なった唇はあまりにも柔らかく、俺から平静を奪うには十分過ぎる程に十分だった。

 彼女は瞳を閉じており、耳まで真っ赤になっている俺の顔を見られなくて良かった……


「んっ……」


 ルークの唇が離れていく。

 何秒過ぎただろうか。一瞬だった気もするし、何分も経った気もする。

 きっと、俺の顔なんか見なくてもテンパっている様子は丸分かりだった。


「……やっばいねこれ。すっごいドキドキする」


 顔を赤らめて俺を見つめてくるルークは少し息を荒くして俺とのキスの味を確認しているようだ。

 ルークが俺の頭に腕を回して、再び顔を近付けて来る──


「もっかいしよ……?」

「ちょ、すすすストップ!!」


 思わずルークの唇を両手で抑え付けてしまった。


「むぅ……」

「お、お前何のつもりだ!?」

「何って、今度は舌を入れてみよっかなっテ」


 ちろっと舌を見せてきた彼女を見て、只でさえ早い心臓の鼓動がさらに加速する。


「ユウ、顔真っ赤だよ。もしかして初めて?」

「……うるさい」

「ヒヒ、あたしも初めてだったんだ」


 嬉しそうな顔しやがって……

 未だに横になって見つめ合っている俺達だが、まだ聞くことが残っている。


「なぁ、英雄とした約束って俺をこの世界に連れてきてキ、キスすることだったのか……?」

「プププ……そんなわけないじゃん」


 は、恥ずかしい……

 あまりの恥ずかしさに顔を見ていられなくなった俺は、体を起こしルークに背を向け、ベッドに腰掛けた状態で会話を続ける。


「……じゃあどんな約束をしたんだよ」

「そうだね……正確にはあいつが果たせなかった約束」

「つまり……?」


 ルークは、すぐには答えなかった。

 昔を思い出して懐かしんでいるのだろうか──

 幾ばくかの時間を空け口を開いた彼女は、少し寂しそうな顔をしていた。


「──あたしを殺すこと」


 ……意味が分からなかった。


「あたしはもうすぐ……来月には死んじゃうの。どうせ死ぬならユウに殺して欲しいじゃん?」


 淡々と告げてくるルーク。


「い、いやお前不死身の吸血姫だろ……?」


 絞り出した言葉は、動揺を隠せてはいなかっただろう。

 本当は、だから何で俺なのかと聞かなければいけないのにな。

 ルークは俺の問いには答えず、再び語り出す。


「あいつは、あたしとの約束を破った。──あたしを一人にした」


 泣いて……いるのだろうか。

 微かに声が震えている気がした。


「……あたしはもう決めてるの。死ぬ時は最愛の人に殺して貰うって。ユウはきっともう一人のあいつだから……」


 続きを口にしようと俺の背中に抱き付き、耳元で囁く。

 

 ──今度はちゃんとあたしを殺してね。


 返事は出来なかった。

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