第13話 追憶⑬
「……とうとう成ったか……!」
リースに吹き飛ばされ、瓦礫の下に埋もれていた皇帝が立ち上がった。
リースを後ろにやり、あたしとマーネはすぐに戦闘態勢に入る。
「もうリースに近付かないで!」
「終わりだおっさん、魔族は全員復活したしな。さすがのあんたも一人じゃどうしようも無いだろう」
皇帝は体に付いた汚れを払い、あたし達を睨みながら喋り出す。
「一人、か……お主らは不思議に思わなんだのか?あまりに我々の人数が少ない事に」
「……!」
そうだ、確かにこの戦いに出向いてる兵や"聖職者達"の数が少なすぎる。
地の盾や、天の矛があまりに強力なせいで気にしてる暇も無かったケド。
皇帝はあたし達にフッと笑い、魔力を集中させ始めた。
「理由を教えてやろう……上を見ろ」
言われるがままあたし達は空を見上げた。
「なに……?別に何も無い……ケド……」
「違う……!ルーク、月だ!!」
「月!?」
何……?月が青く光って──
「天の矛……聖者の弾丸と、我々は如何なる生物をも殺し得る武器を求めて来た……これはその中でも格が違うぞ──」
月が青く光っているのを見て、キングと呼ばれたアロハシャツの男が、皇帝へと焦りながら話し掛けた。
「こ、皇帝よ……一体何人の同志を……?」
「──研究員を除いた全てだ。聖女も覚醒した事だ、お主らに最早用は無い」
「……この私もですか……」
皇帝は「そうだ」と短く答えた。
「お主らの心の臓は預かっている故、いくらでも貴様らの特異な魔力を持つ人間は複製出来る。もう使う事は無いだろうがな」
キングは跪き、抵抗する事無く首を差し出した。
「ならば、最後に私の命も貴方様の一部とさせて下さい」
「よかろう──」
皇帝はキングの頭に手を当てる。
すると、キングの体は小さな球形、魔力の塊へと姿を変えていった。
それをごくんと飲み込むと、皇帝の魔力がまた一つ膨れ上がった。
「あ、あんた……何て事を……!?」
「人間が真祖に匹敵する魔力を得る方法だ。素晴らしいだろう?」
そうやって人の命を利用して力を得て……!
あたしが頭に来ていると、後ろにいるリースがあたし達の前に躍り出た。
「リ、リース!?」
リースはニコッと微笑んだ後、皇帝へと視線を向けた。
「貴方達のやり方は常に誰かを犠牲にする。もうこれ以上は許容出来ません」
「ほう……?ならば止めて見るが良い。あの月の魔力が満ちるにはもうしばらく掛かる事だ。遊んでやろう──」
あたし達を襲ったドス黒い閃光がリースに迫る。
しかしリースの体に触れる前に、黄金の輝きがそれを掻き消した。
「もう終わりにしましょう。貴方の攻撃は私には届きません」
「小娘が……!!」
皇帝は自らの魔力を右手に集中し、剣の形に形成していく。
出来上がった剣を片手に、リースへと襲い掛かった。
「リース!!」
「大丈夫──」
リースが踵を地面へ強く打ち付けた。
すると、リースの体から流れた生命力は、無数の樹の根を生やし皇帝へと伸びる。
「くっ……!」
皇帝の全方位から根が突き刺していこうとしている。
しかし、凄まじい剣速でそれらを切り捨て、少しずつリースへと近付いている。
「これで終わりです」
リースは両手を上に伸ばし、目を閉じた。
溢れ出る輝きが、皇帝を取り囲む。
「……ごめんなさい。でも私は貴方を許しません──」
「なにをっ……!?」
樹の根に意識を割いていた皇帝は、自分の周りの輝きに気付いていなかった。
そして気付いた時には遅かった。
「ぐあぁっ……小娘、貴様……我に何を……!?」
「貴方が奪って来た命の重さを知って下さい──」
次第に皇帝は樹の根に捕まり、四肢から小さな芽を生やし、それが段々と成長していく。
皇帝の体表はざらざらと植物めいたものへと変容していた。
「や、止めろ!我が我で無くな──」
「貴方は多くの命を奪って来ました。だから反省する時間を与えましょう。生命力は今沢山分けてあげましたから」
「わ、我が居なければあの月を止める事は叶わんぞ!あれが発動すれば我が指定した生物のみがこの世界から消える!!我はお主ら全員を指定しているんだぞ!?」
こいつ……本当に何てことを……!!
でもリースに焦った様子は無い。
「心配は要りません。私とマーネ兄さんが居ればあの魔力は消滅出来ます」
「……聞く耳を持たんか……!フッ……精々後悔するが良い……!!」
「貴方こそ、永遠に反省し続けて下さい。貴方には──」
「グォォォオーー!!!」
皇帝の体は完全に植物と化し、大きな一本の樹へと姿を変えた。
「──"死"だけは与えません」
最後の言葉が届いたかどうか、あたし達には分からない。
ただ一つ言えるのは、あいつはもう死ぬ事すら出来ないという事だけだ。
永遠に何も出来ない状態で生き続ける、それがリースが与えた罰だった。
あたし達はリースの側に寄り、優しく彼女を労った。
「お疲れ様、リース」
「大丈夫か?」
リースは「問題ありません。それより……」と、上空を見上げた。
「あれを何とかしないと……!」
「そうだな……」
「でもあんなのどうすれば?」
そもそもあれがどういった魔法なのかも分からない。
あたし達を消滅させる魔法ってのは聞いたケド……
どんな魔法が発動して、どんな攻撃が仕掛けられるのか分からないと対策を打てない。
「大丈夫ですよ。マーネ兄さん、精霊の力を解放してくれますか?」
「あ、あぁ……待ってろ」
マーネは愛用の剣を天高く掲げた。
精神を研ぎ澄まし、剣を激しく輝かせる。
「──解放しろ、奇跡の全てが剣にある!!」
剣尖から天へと放たれた光が夜の帳を払い、辺り一帯が昼間のように明るくなる。
しかし、青く光る月は依然としてそこにある。
「待たせたな、これでどうするんだ?」
「私の力で光の筋をあの月まで届かせます!そしてあの負のエネルギーを私の力でプラスにして打ち消します!」
リースはマーネと同じ様に精霊の羽根を生やし、空高く舞い上がった。
光の筋はやがて細く纏まり、月へと導かれていく。
「リース……凄いネ……」
「あぁ、ここまでとは……!」
リースは奇跡の光を月へと送り、青く輝く魔力を打ち消してみせた。
──これで一件落着だネ。
「ふぃ~……疲れた!」
マーネはどさっと地面に座り込んだ。
そして精霊化を解き、再び夜が訪れた。
「マーネ、まだ寝ちゃダメだからネ!色々処理があるんだから」
「分かってるよ~」
リースもあたし達の方へと舞い戻り、笑顔を見せた。
「終わりましたね!」
「ほとんどリースのおかげだったケド、大勝利だネ!」
「俺も良いところ全部リースに持ってかれたよ……」
「聖女の力、恐れいきましたか!あははっ!」
あたし達は笑い合う。
やっと終わったんだ……!
「さぁ魔族の皆にも声を掛けてさっさと終わら──」
「マーネ?」
「マーネ兄さん?」
急にマーネが言葉を止めたのを不思議に思ったあたし達は、マーネの視線を追った。
マーネの視線は、あたし達をしたから見上げており、さらに上空へと向けられている。
「お……おい、あの月……今度は赤くないか……?」
「……うそ……!?」
「まさか──」
リースは樹へと変わった皇帝の方を見た。
「月の魔力が解かれたら、こうなるように仕掛けていたんですか……!?」
樹は何も答えない。
ただ何故だろうか、皇帝の顔があった付近の樹表はニヤついているように見えた。
「おい、急速に魔力が集まってるぞ!しかもこの感じ──狙いはリースだ!!」
「マーネ、ホントなの!?」
「あそこには精霊の力が送られたからな。何をしでかすかくらいは分かる!!」
さらに、マーネはもう間も無く発射されると伝えた。
「リース!!何でもいい、防──」
月の赤い輝きは、あたし達に抵抗を許さなかった。
一瞬でリースの元まで赤い閃光を放つ──
『リース!!』
※
「……マーネのバカ……!」
「……お、お前こそ……」
あたしとマーネはリースを地面へと押し倒し、赤い閃光の軌道ずらそうとした。
けれど軌道は逸れず、あたしとマーネ、そしてリースの心臓を、赤い閃光が貫いていた。
そしてリース特効だったのだろう、彼女は即死だった……
「……リース……ごめんネ……守れなかった……」
「……くそっ……!」
あたし達3人は重なり合うように倒れ込む。
人間の2人は勿論、不死身のあたしすらも殺す閃光だ。心臓を撃たれたらもう手遅れだネ……
「……マーネ、まだ生きてる……?」
「……どうした……」
「……最期に……お願いがあるの……」
あたしは最早感覚など残っていない体を無理矢理動かし、マーネの方を向いた。
「……愛してるって言って欲しい。それだけであたしは十分だから……」
笑顔を作ると自然と涙が溢れていた。
マーネもうっすらと涙を流している。
「……愛してるルーク……!約束……守れなくてごめんな……!」
「……結婚式……?……あぁ確かにそれは心残りカモ。でもさ……」
うつ伏せで拳を握り込んでいるマーネに、そっと手を伸ばし拳に重ねた。
「……一緒に生きて、一緒に死ぬ……ずっと一人だったあたしは、マーネと生きれて幸せだったヨ……」
「……ルークッ……!!」
あたしの心の中は幸福で一杯だヨ。
もう、言葉にする力はないけど……マーネ、あたしも愛してるからネ。
意識は薄れ、魂が蒸発していくような感覚があった。
でも最期の瞬間までマーネを感じていた。それだけでどんなに幸せか。
当然、あたしの耳が最期に捉えた音はマーネの声だった。
──悪いな……ルーク。
あたしの英雄はそう言っていた気がする。
※
「姫様!どうか起きて下さいまし……姫様!!」
「……んっ……?」
目が覚めると、目の前には爺やが。
あたしは緑が生い茂る大聖堂の広場に居た。
あれ、あたし……死んだんじゃ……
待って、マーネ……それにリースは!?
「爺や、マーネとリースは!?」
「……」
爺やは何も答えず、ただあたしの隣を見た。
そこには心臓の所にぽっかりと穴を空けた、マーネとリースが眠っていた。
「ねぇ……うそだよネ……?2人共生きてるんだよネ……?」
「……姫様、落ち着いて聞いて下さい……」
「なに?落ち着いてって!生きてるって言いなさいよ!お願いだから……!!」
「姫様!!」
あたしは爺やの肩を強く揺さぶった。
それでも爺やは首を横に振るばかりで、あたしの願いを叶えてはくれなかった。
「姫様……マーネ殿から言伝を預かっております」
「嫌!!何よそれ!それじゃあまるで──」
爺やは子供のように駄々をこねるあたしに決定的な一言を告げた。
「彼からの遺言です。姫様、英雄は死んだのです……」
「……嫌だ……嫌だよぉ……マーネ……リース……!!」
大粒の涙を流しながら、2人の遺体に覆い被さる。
冷たくなった体から、もう二度と覚めない眠りについている事を実感する。
その時だった、あたしは口の中に甘美な味わいを感じた。
「……マーネ……?」
瞬間、頭がズキンと痛んだ。
「ぁあっ……!!」
「ひ、姫様!?」
あたしの頭の中にイメージが流れ込んだ。
愛しい彼の声が聞こえる。
これは、マーネの血の記憶──
お読み下さりありがとうございます!
次回、過去編最終話です。
ぜひお楽しみ下さい!




