第11話 追憶⑪
一人リースの部屋に取り残されたあたしは、一体何が起こったのか……少しの間理解が出来なかった。
確かな事は、"聖職者達"と魔族とが戦い始めているという事。
あたし達が転移した後、追い掛ける様に大聖堂へと入って来たんだろう。
流れ弾がこの部屋を直撃したのカモ……
剥き出しになったこの部屋は、かなりの高さの所にある。
おかげで猛烈な風があたしの薄紫の髪を激しく靡かせる。
立ち尽くすあたしは、どうにかして2人の気配を探る為、魔力を探知する事にした。
「──感じる……」
マーネとリースの魔力……
かなり近くに感じる……!
探知の魔法なんかほとんど使った事がないから曖昧にしか分からないケド、確かに2人は生きている!
「どこっ!?」
後方を振り返る。
どこかにぶら下がっていないかを確認するも姿は無い。
続いて地面を覗き込む。
すると──
「リース!マーネ!!」
教会の天辺に当たるこの部屋から遥か下、気を失って倒れている2人を発見した。
すぐに飛び降りて駆け付けようと、一歩踏み出した時だった。
「危ない危ない……うっかり殺される所でしたよ……」
「アロハシャツ……生きてたの……」
あたしのすぐ後ろに奴独特の魔法を感じ、目線だけ振り返る。
アロハシャツはニヤついた笑みを潜め、雰囲気を変える。
「さて……我々の聖女様を誑かし、大勢で攻め来んで来るとは、覚悟は宜しいですね?」
「リースは最初からあたし達の家族だし!あんた達みたいな危険な奴らほっとく訳にはいかない!」
あたしは急速に魔力を高め、魔法を行使する。
「ディープフリーズ!!」
前回、即死の魔法は通じなかった。
だからまずはその動きを止める!
しかし、柏手が聞こえると同時にあたしの魔法は、別の何かにぶつかった。
恐ろしく巨大な物体がいきなり目の前に現れ、教会は崩れ去る。
「これは……!?」
「我々の開発した兵器、地の盾ですよ」
地面へと落ちて行きながら、あたしは瓦礫を足場にしてアロハシャツに突撃する。
あたしの魔法で動けなくなったと思っていた地の盾という兵器は、主人を守るかの様に巨大な右腕を振り下ろす。
「きゃっ!」
あたしは受け身も取れず、地面へと叩き付けられた。
「いってて……」
これくらい、大したダメージにはならない。
でも落ち着く間も無く、次々と問題が起こり始める。
「続いてこちらは天の矛です。こちらはまだ未完成ですがね」
地の盾という巨大な機械は空中に浮き、アロハシャツの男はその肩に座っている。
男は右腕に機械の様な物を装着し、こちらへ向ける。
手のひらには目玉の様な紋様が浮かんでいる。
それを見た瞬間、あたしは全身が総毛立つのを感じた。
あいつの魔力が急速に右腕に集まってる!
しかもあり得ない密度……生命力を燃やしてる!?
あれをもろに食らったらヤバイ!!
回避しようと、痺れる体を動かした時だ。
地の盾が現れた衝撃で崩れた教会の瓦礫が、意識を失っているマーネ達に落ちて行くのが視線に入った。
「間に合って……!!」
──バニシング。
マーネとリースが生き埋めになる前に、瓦礫の全てを消し去る事は出来た。
しかし、天の矛とやらを避ける時間は無くなった。
「死になさい──」
ドス黒い閃光があたしに迫る。
「……っ……!!」
回避は不可能だ。
だから、セフィラに貰った防御フィールドを展開する。
右手の人差し指を閃光へ向けると、閃光を
押し留める事が出来た。
「おや……?」
予想外に粘るあたしに不快感を顕にしている。
「……きっ……えて……!!」
あたしに迫る閃光を何とかバニシングで消す。
危なかった……
「天の矛を防ぐとは……少々意外でしたよ。しかし、貴女が粘った所で戦局はもう決まったようですよ」
「どういうこと!?」
「大聖堂をご覧なさいな」
周りの瓦礫を払いのけ、大聖堂を見やる。
そこには1000にも及ぶ魔族達が、あたしの真上に浮かんでいる巨大な機械、それも数十体に蹂躙されている光景があった。
「……嘘……」
思わず膝から崩れ落ちてしまう。
爺やの洗練された魔法も、デバフ魔法が得意なゲンヤの抵抗も、赤と青のツノを持つ双子の強力な一撃も──その全てが、完膚なきまでに鏖殺されている。
「……やめて……」
「止めろ?争いを仕掛けて来たのは貴女達でしょうに」
違う。
最初に手を出して来たのはあんた達でしょう……!
探知魔法を無意識に使い続けていたあたしは気付く。
一つ、また一つと魔力が消えていく。
命が消されていく。
「……お願い……もう殺さないで……!」
「面白い事を言いますねぇ。魔族なんて滅ぼすに決まっているでしょう?わざわざ殺されに来てくれてありがとうございます!」
アロハシャツの男は空中から飛び降りて、あたしの目の前までやって来る。
「さて、貴女の首でも見せれば大局は完全にこちらへ傾くでしょう。これで終わらせてあげます」
うなだれたあたしの額に、銃口が向けられる。
「我々の最高傑作、聖者の弾丸。これに殺せない生物はいません。なんせ我々聖職者の尊い犠牲によって造られた物なのですから!!」
外道め……
仲間の命まで使って……!!
最早あたしに抵抗する気力は残っていなかった。
魔族は淘汰され、マーネがやって来た事が無駄になる──頭で分かっていても絶望で体が動かない。
「100人の命を使っても10発しか造れませんでしたからね。確実に仕留めさせて頂きますよ」
いよいよ引き金に指が掛けられる。
目の前に訪れた死に、深々と実感する。
──死ぬのが怖い。
マーネと出会う前までは、そんな事一回も思った事は無かった。
なんせ死という物を感じる事が無かったから。
そして、別にいつ死んでも構わないと思っていたからネ。
でも今は違う。
帰りたい場所がある。
一緒に居たい人がいる。
あたしはまだ──
「さようなら。忌むべき魔族の頂点よ──」
銃声が鳴り響く。
瞬間、世界が一気にスローモーションに見えた。
極限まで研ぎ澄まされた集中力が起こす現象。
たぶん今、あたしは世界で一番早い反応速度を体現している。
右手の人差し指が、銃弾を越える速度で目の前に現れる。
「あたしはまだ……死ねない!!!」
ぶつかり合う衝撃が紫色のスパークを起こす。
それと全く同時に、この大聖堂にいる全てを包むように光の円柱が出現した。
見なくたって分かる。
円柱の中心に誰がいるかなんて。
──ここまで精霊の力を操るなんてネ。
それは最早、神の御業。
地の盾、その全ての動きが鈍っていく。
荒ぶる光の魔力を制御する彼の声を、大聖堂にいる誰もが聞き取った。
「──解放しろ、奇跡の全てが剣にある!!」
夜の帳が落ちていた筈の大聖堂は、雲一つ無い朝焼けの様な光景へと変わる。
この場に居る全員が空を見上げる。
光の円柱の天辺。
あたしの英雄が奇跡を体現していた。
涙と共に溢れた感情、気が付くと叫んでいた。
「マーネーーー!!」
天真爛漫、無邪気な笑顔で答えた。
「さぁ、この戦争を終わらせよう!!」
お読み下さりありがとうございます!
昨日は投稿出来ずすみませんでした…
明日は時間が多め取れますので、いよいよ佳境の過去編、走り抜きます!!




