第7話 追憶⑦
夢を見ていた。
俯瞰した視点で、これはすぐに夢だと気付いた。
あたしと、マーネによく似た目付きの悪い青年、そしてリースと雰囲気が似ている女の子がいる。
3人で食事を囲っている光景は本当に幸せそう。
でも、マーネやリースによく似ているけど見覚えがない2人だ。
夢特有の急な場面の切り替わりがあり、さっきまで幸せそうだったあたしは涙を流している。
「なんで……!なんで何も言ってくれないの……!」
目付きの悪い青年は、あたしに背を向けてどこかへ消えていく。
「……ごめんなルーク。ここでお別れだ」
「嫌!!……どうしていつもあたしを置いていくの!」
彼はあたしの制止を無視して行ってしまった。
そしてまた場面が切り替わる──
あたしの右手にはマーネが使っている剣が、血をベットリと付けている。
降りしきる雨の中、剣の切っ先に貫かれているのは、先ほどの青年だ。
口から血を吐きながら、あたしを見つめている。
「……ごふっ……怒ってるのか……?」
「……嘘つきには当然の報いでしょ……」
そして、あたしは彼から剣を抜き拳銃を取り出した。
「……約束したよネ。一緒に死んでくれるって……」
「……そうだな……」
あたしは壁にもたれている彼に背中を預け、2人の心臓の位置を重ねる。
そして、躊躇う事なく引き金に手を掛けた。
(ま、待って──)
俯瞰したぼんやりとした視点からでは、あたしは声を出せない。
無理矢理喉を引き絞り、手を伸ばした。
「ダメェェーーー!!!」
「うわぁぁ!?」
手を伸ばしたままベッドから飛び起きる。
い、今のは夢……だよネ……
全く、汗だくじゃん……
それにしても訳が分からない……
だいたい、マーネじゃないにしてもマーネそっくりの人と心中しようなんてあり得ない。
あ、あたしってそーゆー危ない願望の持ち主なのカナ!?
……いやまぁそうかも知れない……
好きな人と一緒に死ねるって凄いロマンチックに思えるもん。マーネともそう約束したし……
ん?ってか拳銃くらいじゃ死ねないっての。
ヒヒ、やっぱ所詮は夢だネ……
ぐっしょりしたパジャマの背中をパタパタし、そう言えば誰かの悲鳴が聞こえたのを思い出す。
「ル、ルークちゃん……びっくりしたぁ……」
声の主は確かセレントっていう精霊だった。
「セレント……?」
「そーよ。眠らせてごめんね、マーネがどうしてもってうるさかったから」
「そ、そうだ!マーネ……マーネはどうしたの!?」
セレントの小さな体を掴み、ぶんぶんと縦に振る。
「ルゥゥクちゃぁあん離してぇぇぇえ!」
「あ、ごめん!」
ぐるぐると目を回してしまったセレントは、ぐったりとしながらあたしの頭の上に乗った。
「……マーネは今聖国にいるよ。あれからもう2ヶ月も経つのにね……」
「に、2ヶ月!?」
セレントめ、一体どんだけ強力な魔法を使ったの……
「そーよ、本当は1年くらいは眠らせる魔法だったんだけど。さすが魔族最強の女ね」
「ま、待って……ならマーネは1年は帰ってくるつもりが無かったの!?」
「みたいね。あのバカは本当にたった一人で事を解決するみたい」
はぁ!?いつだって一緒だって約束したのに!
マーネの嘘つき。一発ぶん殴ってやる……!
でも、マーネがあたしを置いていくくらい危険な奴らだって判断したって事でもある。
不死身のあたしを殺せる可能性も考慮したんだろうネ。
だからこそ腹が立つ。
そんな危険な相手に一人で挑むなんて……
あのアロハシャツの男が来た時もそうだ。
みんなを守る為に無茶して。
リースがいなかったら本当に死んでたのに!
マーネの命はそんなに軽くないってどうして分かってくれないの……!!
絶対に連れ帰ってやる。
当然、リースも連れて!!
「セレント、あたしも聖国へ行くよ。マーネの居場所を教えて」
「……言えない」
「な、何で!?」
セレントはあたしの頭の上から降り、目の前で羽ばたいている。
彼女は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていた。
「あのバカはルークちゃんよりも先に目覚めた後、あちしに言ったの。ルークちゃんを一人にするなって、寂しがり屋だからって」
「いや……寂しがり屋とかじゃないケド……!それと何の関係が……!」
そこまで言って気付いてしまった。
セレントはこくん、と頷いて続きを言った。
「マーネは死ぬつもりだよ……ルークちゃんにそんな所見せられない……」
「……ダメ……」
絶対そんな事許さない。
勝手に死ぬなんて、そんな事させない。
「ルークちゃん……あいつが死を決意するくらい危険な相手だって思ってるんだよ、ルークちゃんは大人しくしてて……」
「セレント、ごめんネ。マーネが死ぬ時はあたしも死ぬ時なの──そう約束したから」
「ルークちゃん!!」
セレントの制止を振り切り、ベッドから離れ孤児院に置いてある防護服に着替える。
マーネが、襲われた時とか用に置いていた品物だ。
ちなみに、あたしの服の背中には、孤児院のみんなからの寄せ書きが書いてある特別製なの。
誕生日を知らないあたしに、マーネと出会った日を誕生日にしようってみんなが用意してくれたんだ。
あたしはこの服に誓う。
(必ず2人を連れ帰ってくるからネ……!!)
「全く……あちしも付いて行ってあげるから無茶したら駄目よ?」
「ありがとセレント」
「あのバカを殴ってやりたいのあちしも一緒だからね。女心を全く分かってないんだから」
確かにネ!
守ってあげたくなるのが男なのかも知れないケド、一緒に居たいのが女だからネ。
どうせ守ってくれるならあたしの隣で守りなさいよバカ。
あたしはセレントと共に部屋を出る。
すると、目の前には孤児院の子供達が居た。
「みんな……!」
「ルーク姉の部屋から声が聞こえてそれで……」
「マー兄のとこに行くんだろ、みんな分かってるよ」
この子達……!
坊主頭の子がみんなを代表して前に出た。
「俺達みんな、もうそろそろ自分達でやってけるからさ、ここは任せてよ。その代わり絶対マー兄とリースを連れ帰ってよ。俺達家族だろ?」
あたしの事を家族だって言ってくれる男はあんたが2人目だネ……
みんなも同じ気持ちなのかあたしの目を見て頷いてくれた。
あたしは目一杯両手を広げて、みんなを抱き寄せる。
「絶対……2人を連れ帰ってくるから……!あたしの大事なこの場所を守っててネ……!」
「あー!ルーク姉泣いてるー!!」
「な、泣いてないヨ!」
満足するまでみんなを抱き締めた後、孤児院の出入口へ向かう。
「それじゃ、みんな行ってくるネ!」
「ルー姉も気を付けろよ!」
「ヒヒ、あんたはいい男になるヨ」
坊主頭を優しく撫でて、孤児院を出る。
あたしはセレント共に聖国へ向かう。
必ず、マーネとリースと3人でこの場所に帰ってくると、決意を胸に秘めながら──
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