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異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。  作者: 棘 瑞貴
第一部 異世界吸血鬼は余命1ヶ月の吸血姫を諦めない。
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第4話 目覚めろ


 現在、ダンジョン3階層。

 俺、エキナ、レオンの三人衆は大型モンスターから脱兎の如く逃げていた。


「うぉぉーー!!死ぬーーーー!!!」

「……ま、まずいです……ハァ……足が……!」

「まだ3層だぞ!おかしいだろ!?」


 ヤバいヤバいヤバい!

 なんでこんな浅い層にあんなクソデカイモンスターがいるんだよ!!

 見た目はティラノサウルスってところだが……

 モンスター特有の赤い瞳でこちらを睨み、ドスンドスンと地面を揺らしながら追いかけて来る。

 ダンジョンの天井まで6メートルはあるが、そのスレスレまで近付く程の巨体だ。

 俺は何気に頭がいいレオンに事態の異常さを確認する。


「あいつ3階層にきてすぐ現れたけどあり得るのか!?」

「あり得ねーよ!誰かが下の階層から連れてきたとしか思えねぇ!」

「誰だよクソが!」


 当然、逃げ回っている最中学園の同級生に出会うが、俺達に気付くと慌てて逃げ離れてしまう。


「クソォ……誰も助けてくれん……」

「そりゃ俺達を助けても自分達にメリットがないからな……」


 腐った貴族どもめ……

 今横を通り過ぎた奴らなんか手を合わせて俺達にお辞儀しやがったぞ!?

 顔は覚えたからな……!


「ハァ……ユウ君……、すみません……もう、げ……限界……で、す……」

「お前身体能力に自信があるんじゃなかったのか!?」

「……ハァハァ……自慢じゃありませんが……体力は……ミジンコさんですぅ!」

「冒険者志望のくせに!?」


 まずいな……もう30分はかなりの速度で走り続けてるからな……

 正直、俺は吸血鬼になって、人間とはかけ離れた肉体だから余裕なのだ。


 だが、後の2人はそうはいかない。

 レオンはまだ余力がありそうだがエキナがすぐにでも倒れそうだ。

 俺はあの大きさのモンスターでも、殴って気絶させるくらいは出来ると思う。

 だが、それは人間離れした芸当だ。


 この世界では魔法もあるが、基本生活で役立つ魔法程度だ。

 戦闘では剣や、拳銃、大砲……とにかく物理って感じの戦闘スタイルなので、拳でワンパン!など、出来るのは魔族か、魔族と契約した者でないと不可能だろう。

 そして、契約者はとても貴重な戦闘力なので、発見され次第、王宮へ連行される。

 かなりの厚待遇が用意されるらしいが、他国との戦争に駆り出され、一生を国へ捧げることになるだろう。そんな人生まっぴらごめんだ。


 俺はまだこの世界でやりたいことなど無いが、少なくとも穏やかに生きたい。

 死ぬ時は老衰がベストだ。まぁ、死ねないらしいけど。

 さて、穏やかに生きる為にまずはこの大型モンスターをどうするかだが……

 !! 100メートル程先にオリウス達がいるじゃないか!!

 ちなみに、ここまでの思考時間約0.5秒!


「クク……あいつらならいいか……」

「! 何か考えがあるのか!?」


 レオンが期待の眼差しを俺に向けてくる。


「あぁ、あいつらなら俺の良心は欠片も痛まない!」

「……どうするんだ!?」

「説明してる暇はない!あと少しだけ全力で走れ!!」


 エキナが最後の力を振り絞って声上げる。


「は……はい!!」


 これから起こる事を想像して早くも顔がニヤけてい俺であった。


「オ~リウス殿下ぁ!あーそびーましょ~!!」

「ん?君達はさっき……の……」


 俺の大声と揺れている地面で、オリウス含め周囲の取り巻き達も俺達の後ろに何がいるのか、徐々に気付き始めた。

 ギャーギャーと騒ぎ始める。


「き、貴様……何を引き連れている!?」

「殿下!急いでお逃げ下さい!!」

「ディセート様もお急ぎ下さい!」


 俺達が彼らに追い付いた瞬間、俺は走り去り際にオリウスの肩を叩く。


「バトンタッチだ王子様」

「うそだろう!?」


 オリウス達が慌てて逃げ出そうとするがもう遅い。

 俺達は彼らを置き去りにしてダンジョンの奥へ逃げることに成功した。


「フゥ、悪は滅びたな」

「悪はお前だ。無茶しやがって……」

「鬱憤晴らしてスッキリしたわぁ」


 満面の笑みである。

 未だ肩で息をしているエキナを見ると、大量の汗を拭いながら、あろうことかオリウス達の心配をしていた。


「ハァ……ハァ……殿下達、大丈夫でしょうか……」


 「私が言えたことではないのですが……」と付け加えた。

 自分のせいで彼等を危険な目に合わせたのが心苦しいみたいだ。


「大丈夫だろ。今頃、日頃の行いを反省してる事だろうな」


 しかし、擦り付けた後全然こちらに来る様子がないな……

 正直すぐに追い付かれると思っていたのに。


「……なぁ、何か聞こえないか?」


 レオンが耳を澄ましている。

 俺も倣って吸血鬼になって強化された聴覚を巡らせる。


 キン…


 ……あいつら、まさか!?


「……ユウ、金属の擦れる音がするが……」

「最悪だ……あいつら逃げずに戦ってやがる」

「え!?戦ってるってあの大きなモンスターとですか!?」


 エキナが俺に驚愕した顔を見せる。


「なんで逃げないんですか!?」

「……あいつを倒せば、相当の名声になるだろうからな……」

「そんな……私達学生が倒せる相手じゃありませんよ……」


 思い詰めた顔をして俯いていたが、すぐに俺の方を見上げた。

 そこには覚悟を決めた女の子がいた。


「……私は……彼等を見捨てられません。戻ります」

「おい、エキナ待て!」


 戻ろうとするエキナの腕を掴むがすぐに振り解かれた。


「待てません!今この瞬間に誰かが死んでいてもおかしくありません!」


 エキナは目尻に涙を滲ませていた。


「さっき私は逃げてしまいました……これは私の責任なんです」

「ダメだ!擦り付けたのは俺だし、それに戦うことを選んだのはあいつらだ。第一、お前が行って何が出来る!?」

「確かに、私一人が行っても出来る事はほとんど無いかもしれません」

「それなら……!」

「それでも!ここで行かなければ私は冒険者にはなれません!」

「っ!」

「ユウ、お前の負けだな」


 レオンは俺の肩に手を置く。


「俺はエキナちゃんに付いて行くよ。ユウ、お前はどうする?」

「……絶対に戦うなよ。あいつらを抱えてさっさとダンジョンを抜けるぞ」

「……ユウ君!」

「行くぞ」



「初めは驚いたけど、こんな大きな獲物見逃す訳にはいかないね」

「殿下、私達もお手伝いします!」

「あぁ、みんなありがとう!!」


 オリウス達は、目の前にいる現代で言う所の、ティラノサウルスのような大型モンスターに立ち向かおうとしていた。


「こんなこともあろうかと王宮の宝物庫から英雄の剣を持ってきて正解だったよ」


 きらびやかな宝飾が飾り付けられた豪勢な剣を腰元の鞘から引き抜く。


「さぁ、英雄よ僕に力貸しておくれ!」

「あぁ殿下、なんと勇ましいお姿。オリウス殿下こそ新たな英雄でございますわ!」


 ディセートがうっとりしていると、取り巻き達も盛り上がる。


「一撃で沈めて下さい殿下ー!」

「いっけぇーー!!」

「みんな見ていてくれ!!」


 大型モンスターの頭目掛けて飛び掛かったオリウスは大振りの一撃を鼻先に放った。


 ガキン!!!


「え??」


 オリウスの持っていた剣は腹の方から砕き折れた。

 蚊でも止まったかの様な反応を見せたモンスターは、鼻を鳴らし次の瞬間、空中で青ざめているオリウスを大きな顎で地面へと叩き付けた。


「ガハァ!!」


 口から血を吐き、起き上がる間も無く巨大な足で体を抑え付けられる。


「オリウス殿下!?」


 オリウスがやられてしまい、取り巻き達も事態の深刻さに気が付き始める。


「な、なぁこれヤバくねーか……?」

「今なら逃げられるかも……」


 取り巻き達はディセートの人数も合わせて10人程だったが、その全てがディセートとオリウスを置いて、モンスターから逃げ出し始めた。

 ディセートは咎める様に叫んだ。


「ま、待ちなさい!私達を見捨てるつもり!?」

「あんたらの身代わりになんてなれるか!」

「そ、そうよ!将来を思って一緒に居たけど命には代えられないわ!」

「……み、みんな……待ってく……」


 取り巻き達は非情にもその全てがその場からいなくなった。


「殿下……私だけでも救い出してみせます……!」

「ディセート……」


 オリウスを助け出そうとするディセートだが、持っているのは装飾のついた短刀だ。

 とても実戦向きではない。

 それに気付いたのか、モンスターはオリウスを踏みつけたままディセートに顔面を近付け、煽るかのように咆哮を放った。


「ぐッ……!!」

「ディセート!!」

「殿下、いつまでもお慕い申しておりますわ……」


 モンスターは大きな口を開けディセートに迫る──



「オラァ口を閉じろぉ!!」


 俺は大口を開け、ディセートを喰おうとしているモンスターの脳天へ拳を振り下ろし地面へぶっ叩いた。


「あ、貴方は……!?」


 ディセートを背に顔だけ振り返る。


「……エキナに感謝しろよ」


 エキナとレオンのペースに合わせていたら間に合わないと判断した俺は、先行して彼らの元に到着していた。

 恐らく脳震盪を起こして立ち上がらないモンスターから解放されたオリウスが、フラフラと俺の方へ駆けてくる。


「すまない。助かったよ……」

「礼ならエキナに言え。俺はお前らを見捨てようとした」

「それでも助けてくれたのは君だ。まぁあのモンスターを連れて来たのも君だけどね」


 さらりと嫌味を混ぜて来やがったが、今は反論している場合じゃない。


「それは後で謝罪してやるから、今は早くこのダンジョンから出──」


 グォォォオオオオ!!!!

 

 それは、怒り狂ったモンスターの咆哮だった。


「あいつ、もう気が付いたのか!?」


 雄叫びは上げたが未だフラついており、焦点が定まっていない。だがすぐにでも回復しそうだな……

 結構本気で殴ったんだがな……

 急いで逃げようとしていると、背後からエキナとレオンがやって来た。


「皆さん無事ですか!?」

「生きてるかユウ?」

「殺せるものなら殺して欲しいものだな」


 軽口を交わしているが、中々まずい状況だ。

 だが、いいタイミングで来てくれた。


「エキナ、レオン。こいつら連れて逃げれるか?」

「……出来るが、誰かが足止めしなきゃ無理だ」

「……! ユウ君まさか!」


 俺が1人残って足止め役を担おうとしているのに気付いたエキナは俺の腕を掴んでくる。

 ……さっきと立場が逆転したみたいだな。


「ダメです!逃げるなら皆で逃げましょう!ユウ君が残るなら私も残ります!!」

「……」

「ユウ君!私も足止めくらい出来ます!残るなら私も──」

「レオン、早く連れていけ」

「エキナちゃんごめんね……」


 ──スリープ


「ユ……ウ……くん……」


 レオンは、エキナを呪文で眠らせお姫様抱っこの形で抱える。

 この世界で初めて呪文を見たな。

 クソ兄貴様も呪文は教えて来なかったからなぁ。これぞ異世界。

 っと、感心してる場合じゃなかった。


「おい、お前らも早く逃げろ! 」


 オリウスとディセートにも声を掛けたが……


「……王子が民を残して逃げる訳にはいかない、殿は僕が務める!」

「な、おいやめろ!」


 俺の制止を振り切り、モンスターへと半ばから折れた剣を片手に特攻してしまった。

 モンスターの頭目掛けて飛び上がり、俺と同じ要領で脳天へ一撃を繰り出そうとしている。


 しかし、モンスターも学んだのかティラノサウルス同様、短い手でオリウスを払いのけた。

 オリウスは、ぐっと言いながら地面へ着地した。

 すると、


 ──パキン 


「パキン?」

「ギャァァァア、足がァァァ!!」


 足!?まさか、折れたのか!!??


「殿下ぁぁ!!」


 こいつら!このタイミングでコントなんかしやがって!?


「レオン!!人間2人抱えて逃げられるか!?」

「無茶言うな!エキナちゃんも結構おも……いや持ち方的に無理だ!」


 今、エキナが重いって言った?

 エキナが重いのはその大きな胸のせいだろうが、後でエキナに教えてやろう。ククク……

 告げ口する為にも今は──


「おい、金髪縦ロール!」

「な!ぶ、無礼ですわよ!」

「やかましい!あのアホ王子を引き摺ってでもいいからレオンと協力して逃げろ!」

「……わ、わかりましたわ!」


 ディセートが頷いたのを確認して、モンスターに踏み潰されようとしているアホ王子の方へと駆ける。


「ったく、余計な仕事を増やしやがってぇー!!」


 ギリギリ、踏みつけてくるモンスターの足の裏を、両手で支えることでオリウスを助けられた。

 そのままディセートのいる方へ蹴り飛ばす。


「オラァ、腹に力入れろよアホ王子!!」

「え?」


 ドスン、ゴロンと音を立て、ディセートの元へ転がって行く。

 オリウスは血まみれで泡を吹いている。気絶した様だ。


「ちょ、貴方の一撃が一番重症なんじゃ……」


 ……知らん。命が助かっただけありがたく思え。

 足に圧力を加え、踏み続けてくるモンスターに抵抗しながら叫ぶ。


「いいから、さっさと行け!!」

「ユウ、応援を連れてくる。耐えろよ!!」

「当たり前だ!」

「……約束だぞ!」


 グっと、親指を立てて返事の代わりとした。

 レオンはエキナを抱えて、そしてディセートはオリウスの襟首を引っ張って、この場から離れていく。


 ようやく、全員逃げたか……

 これで全力を出せる。


 俺はずっと踏み続けている奴の足を両手から左手で支え、右手で殴り飛ばす。

 ひっくり返る奴を前に、吸血鬼特有の犬歯で自らの右腕を噛む。

 口の中に血の味が広がるが、自分の血だからか吸血衝動とやらも感じない。

 右腕から口を離すとくっきりと穴が空き、止めどなく血が流れている。


 流れ出た血からは、赤黒い霧が立ち込めており、それはやがて実体となる──


「──目覚めろ、ルーク・エリザヴェート」

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