第1話 追憶①
あたしとマーネが出会ったのは、あたしがエスタード王国へ暇潰しで遊びに来ていた時だった。
魔族の中でも飛び抜けた力を持ったあたしは、物心ついた時から一人で、そりゃもう好き勝手やったもんだヨ。
だから、こうして運命の出会いを果たすのも必然だったんだ。
「ヒヒ、今日はどいつの血を頂いてやろーかなぁ~」
綺麗で大きな桜の木に登って、あたし好みの血を持ってそうな人間を探していると、優しい目をした人間が声を掛けてくる。
「おい!お前魔族だろう!どうしてここにいるんだ!?」
「誰、あんた。殺しちゃうヨ?」
──こんなこの時代では今すぐ殺し合いが始まりそうな対面があたし達の出会い。
まだ人間と魔族が争っていた頃だからネ、お互いがお互いの敵だったんだ。
あたしは魔族の中でも始まりの吸血姫と呼ばれ、称えられてたんだけどあたしにそんなことは興味無かった。
あたしは毎日を楽しく過ごしたい。
いずれ素敵な恋をして、死ぬまでその人と人生を謳歌したいと思ってるの。
ま、不死身だし生まれてこのかたそんな素敵な人出会った事無かったけどネ。
「はぁ!?何で殺されなきゃならないんだ!お前アホか!?」
え、なに言ってんのこいつ。
「いやあたし魔族だし。あんたもあたしを殺しに来たんでしょ?」
「俺はどうして魔族がここいるかと聞いただけだ!」
「は、はぁ……?」
「別に戦いたい訳じゃない。俺のクエストの邪魔をするならそれもやむ無しだけどな」
「なに、あんた冒険者なの?一人で?」
「あぁ!この国じゃ結構有名なんだぞ!」
こいつバカなの?
ソロで冒険者とかただの死にたがりじゃん。
でも、一人だって所に何か惹かれる物があったの。
……少し、こいつに興味が湧いた。
「あんたのクエストって何を受けたの?」
「その桜の木の花弁の採取だ」
「え、ショボッ……」
「失礼な奴だな……」
あたしは桜の木から下りて、このバカな人間と対峙する。
「あんた、名前は?」
「マーネだ。名字は無い」
「あたしはルーク、ルーク・エリザヴェート。ど?知ってる?」
「……驚いた。魔族の頂点の名前じゃないか……本当にどうしてそんな奴がここに……?」
マーネと名乗った青年は、どうやらあたしの事を知っているようだ。
さすがあたし!
「退屈だから魔族領を抜けて来たの。みんな人間の魔力を奪うぞって躍起になってうるさいんだもん」
「お前は奪わなくていいのか?」
「あたしは血さえ飲めればそれでいいし。人間との戦争にも興味ないもん」
「……変な奴だな」
む、こいつに変な奴呼ばわりされるとは。
少し表情が柔らかくなった彼に「それで」と続けた。
「クエストはいいの?」
「あ、そうだった!てかでっけーなこの桜……」
「はい、さっき取っといてあげたヨ」
右手に持っていた花弁を手渡してやる。
すると、マーネは満面の笑みをあたしに向けた。
「お前いい奴だな!さんきゅ、この礼はいつか必ずするよ!」
「ヒヒ、ならあんたの血でも頂こうかネ」
「いいぞ、ほら!」
マーネはそう言って腕を差し出す。
な、なんで?血を吸われるの怖くないの?
あたしが一口ちょーだいって言っても、人間はすぐ逃げるか襲ってくるかだったのに。
それに……あたし吸うなら首筋派なんだケド……
なんだか気が削がれちゃった。
「……い、今はいい。ネ、明日は何するの?」
「明日か?明日はモンスターの討伐クエストだったかな?」
え、面白そう!
どうせ暇だし──
「いいじゃん!あたしも行く!」
「えぇ……足引っ張んなよ?」
「あたしの台詞だし!こちとら真祖様なんだヨ!?」
──こうして、しばらくの間あたしはマーネのクエストに付いて行ったり、彼が面倒を見ている孤児院に顔を出したりと、一緒に過ごす時間が増えていった。
とても楽しい時間だった。
悠久の時を一人で生きてきたあたしにとって初めての誰かと過ごす時間だったから。
マーネと出会って2週間程が過ぎた頃だ。
最近は孤児院で寝泊まりし、居候が板に付いてきたあたしにマーネが問い掛けた。
「なぁルーク、聖女って知ってるか?」
「知ってるよ?死人をいきかえらせる事が出来るんでしょ?」
「そうそう!すっげぇ力を持った奴なんだけどさ……たぶん、この孤児院にその力を持った奴がいる」
「え!?うそ!?」
それが本当なら凄い事ダヨ!!
早速力を持っているかも知れない子に会いたい!
「マーネ!誰なの!会わせてヨ!!」
「こ、怖がらないかな……お前、一応最強の吸血姫だし……」
「大丈夫だって!見た目は人間と変わらないし!」
「魔力がバケモンなんだよ!少しは抑えろよ……」
へ?なんで?
隠した所でどうせみんなあたしには近付かないのに……
まぁマーネがそう言うなら抑えるけど……
「ほら、これでいい?」
「う、うん……ほら、こっちだ」
この孤児院には20人の子供達が暮らしている。
一応全員と顔合わせはしてるけど、2週間じゃ皆と仲良し!とはいってない。
今から会う子みたいに怖がりな子もいるからネ。
さて、マーネはあたしをその子の部屋の前に連れてきてくれた。
「リース、入るぞー?」
『え、は、はい!』
ドアをノックした後、奥から聞こえてきたのはとても可愛い女の子の声。
「リース、急に悪いな。こいつはルーク、一回会ったよな?」
「はい……こんにちは。急にどうしたんですか?」
「この子が聖女……?」
マーネにくっついて、あたしをちょこちょこ見てくる小柄な女の子。
見た目は14か15歳くらい。ただ……
「あ、あんた、その年でその胸は……!?」
「ひゃうっ……」
「おいルーク、やっぱ怖がってんじゃん」
「あ、ごめんごめん」
あまりにも顔と体格に似合わない、見事な物をぶら下げているもんだからつい。
けどねぇ、この子が聖女?精霊の気配も感じないヨ……?
あたしが本当にこの子が聖女なのかと聞こうとした時だ。
「あ、あの……ルーク……さん。マーネ兄さんとどういうご関係なんですか……?」
「え?どういうって……」
あたしとマーネってどういう関係なのかな?
いざ言葉にしようと思ったら難しいネ……
あたしが返答に困っていると、マーネが口を開く。
「俺とこいつはペットと飼い主だ!何たってこいつは居候だからな!ハッハッハ!!」
一回ぶっ飛ばしていいよネ?
あたしが右手に魔力を溜め始めると、マーネの後ろにくっついていたリースがあたしの前に来て一言。
「恋人じゃないんですか?皆言ってますよマーネ兄さんが女を連れて来たって」
『いぃ!?』
あたしとマーネは顔を見合わせて少し顔を赤くした。
「違うんですか?ならルークさん、悪いですけどそろそろ帰って下さい」
「は、はぁ!?なんでよ!!」
「ここは孤児院です。そ……それにマーネ兄さんとあんまり一緒に居られるの嫌ですから……」
はぁ……こいつほんっと意外とモテるネ。
ギルドに居た受付の女とかもあたしに凄い嫉妬の視線向けてくるし。
問題なのは──
「いいか、リース。あのお姉さんは俺の犬みたいなもんだ。犬が飼い主と居るのは仕方無いことなんだ」
「もうっ、マーネ兄さんってばいっつもそうやって理由を作っては女の子と一緒に居るんですから。いい加減彼女を作るか、わ……私と……」
「え、ヤだよ。もっと冒険してぇもん!それに俺の事好きな女なんてそうそういねーって安心しろ!」
──この男、嫌味な程に鈍感だ。
こんな男の事を好きになることはないネ……
ただ、一緒に居て凄く楽しい。
そうだ。あたし達の関係を言葉にするなら、親友という言葉がしっくりくる。
でも、この関係は長続きはしなかった。
なんでかって?
理由は簡単。
あたしがこの男を好きになってしまったから。
お読みくださりありがとうございます!
今回から過去編となります。
そして、第三部で最終章とさせて頂きますのでぜひ最後まで楽しんでいって下さい!




